安倍銃撃事件とメディア
コラム架橋
安倍晋三元首相が銃撃された直後の新聞、テレビ等大手メディア報道は、常軌を逸していた。以下は7月9日付の朝刊各紙である。「民主主義の破壊許さぬ」(朝日・社説)、「言論は暴力に屈しない」(東京・社説)、「卑劣な言論封殺 許されぬ」(読売・編集局長)、「民主主義への愚劣な挑戦」(毎日・主筆)、「卑劣なテロを糾弾する」(産経・主張)、「絶対に許されぬ民主主義への凶行」(日経・社説)。
参院選直前だったこと。被害者が政権党の実力者で即死状態だったこと。実行行為への恐怖からか、事件を見境なく「政治テロ」と決めつけ、左右を超えて「反テロ」大合唱となった。
間もなく警察は、「(特定の)宗教団体への恨み」という核心的な供述を、逮捕したYから引き出す。しかしこれが「統一教会」であることは、選挙後まで徹底的に伏せられた。スネに傷を持つ輩は、誰もが胸をなでおろした。
一部のメディアが先んじて「統一教会」の名を出してから、報道の矛先が徐々に変わり始めた。一方で現首相岸田は、衝撃の冷めやらぬうちに「国葬」を打ち出すことで事件を徹底的に利用し、政権主導の服喪ムードで割れる世論を束ねようとした。
その目論みは失敗した。「文春」や「新潮」ら週刊誌メディアを先頭に「反統一教会」報道が勢いを増し、権力の集票マシンとして機能してきた密接な関係が暴露された。対象は野党にも広がった。
「国葬」反対のネット署名は、分単位でカウントを加算した。モリカケサクラ、サントリー。嘘と強弁と感情をむき出しにして反対派を攻撃してきた安倍の過去が、再び活字になった。
元文科相・下村博文の下に組織名を変えた国際反共謀略集団を忘れてはならない。「手相を見させてください」と街頭に立ち、若者を洗脳し、多額の献金で組織に縛りつけ、集団結婚と破廉恥な初夜儀式で信者の人生を搾り取る文鮮明機関。仏教団体や言論機関などさまざまな「顔」を使い分けて勢力を拡大し、世界の保守人脈に食い込んできた。公明党と同じように、信者が引き起こした殺人事件まであり、その反社会性、凶悪性は今も変わらない。Yは邪悪な教団に家庭を崩壊させられた一被害者に過ぎない。
もし事件が投票日のひと月前に起き、動機が正確に報道されていたら自民党は勝ったか。コロナ第7波は世界最悪レベルの感染者を生み出した。検査も受けられず、医療にもアクセスできず、自宅で悶々と不安に苛まれる。参院選がその瞬間に実施されたらどうなったか。
格差と貧困と分断を決定的にし、あらゆる不正を闇に葬った安倍の罪業を死後もメディアが告発するとき、私はまだ希望を感じとる。10日間にも及ぶ灼熱の自宅療養生活に、ひたすら耐えながら。
(隆)