IPCCの作業報告
コラム架橋
4月中旬、195の国と地域が加盟する「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3作業部会から評価報告書が発表された。IPCCの作業部会は、第1、第2、第3部会に分かれており、国や地域という広がりだけではなく、世界中の最も多くの優れた頭脳が結集していると言われている。とくに20代、30代の若い人も多いという。
各作業部会は、報告書をまとめる役割を引き受けているだけではなく、この報告書の材料となる調査・研究ノートの発行もしている。その調査・研究の分野は南極・北極という極地にとどまらず、太平洋・大西洋の深海部にまで及び、さらに大気圏の調査にまで及び、旧来の自然科学の枠組みを越えているという。
2021年8月に発表された第1作業部会の報告書では、「温暖化の原因は、人類が排出した温室効果ガスであることは疑いなく、今世紀中に温室効果ガスの排出を実質ゼロにしなければ、産業革命時の温度を2度も超える可能性が高い」と断言している。
これを受けて2020年2月に発表された第2作業部会の報告では、「温暖化による影響は、すでに多くの被害や損失という形で各地で出ている。手遅れにならないためには、今後10年間の取り組みが決定的である」と述べ、今回の第3作業部会報告では、この数年の先進国の動向を把握した上で、既存及び計画中の火力発電所からの二酸化炭素排出量は、気温を1・5度に抑えるための総排出量を上回っている。2020年代のうちに対策を強化しなければ、3・2度の気温上昇をもたらす」と警告している。
この3つの報告に対して、先進国の各国政府は「風が通り過ぎるのを待つかのように沈黙している」。ごく一部の政府は、この報告を利用し、資本や企業の規制に踏み出している。「原発の再稼働を考える。また燃費のよい効果的発電機を導入するに際しては、一定の援助を行う」と言ってきた政府と経産省も作業部会報告に対しては、全くコメントを出してはいない。
この政府の態度を見て、カーボンニュートラルの動きをけん引してきた民間資本は、「このままでは政府に『はしご』を外されると考え、急に動きを止めてしまった。逆に東京電力をはじめとする各電力会社は雄弁になり、「政府の意向に従う」と発言し始めている。各電力会社の本音は、「原発の再稼働。新しい機械の導入、電気料金の値上げも政府責任で進めてもらいたい」と言いたいのである。
この政府の動きをみて、専門家と呼ばれる御用学者は異口同音に、カーボンニュートラルの実現にむけて、「政府は変革のイニシアチブを選択しないのではないか、政府が期待するアメリカは国内の意見がまとまっていず、EUも今のところウクライナ問題で精一杯で沈黙したままで、うかつに動けない」と発言している。
この政府の態度の背景にあるのは、温室効果ガスを多少減らす動きをすれば、気候変動の危機は「やり通せる」との考えであり、多少の洪水対策と海岸工事で済むと考えているのである。われわれの闘いはこうした政府と資本の思惑を打ち破ることである。気候変動の危機は地球の崩壊と一体なのだ。IPCCの報告、テキスト、ノートを是非読もう。 (武)