「弥生の或る日に」
コラム「架橋」
朝、通勤バスに揺られながら通うこと数ヶ月になる。以前、キツイ坂道だらけの住宅街のチラシ各戸投げ入れを「2000円」で請け負った。何時間掛かろうがそれは労働者の「自由」。時間がかかれば「地域最賃」を突き抜ける時間単金。センター関係者に文句を言ったら「他の仕事」が紹介された。
当時、シルバー人材センターが社会問題となった。センターに登録した人はセンターに「雇用」されたと思っていたが、実は、仕事の斡旋をセンターが行い「個人事業主」としての請負契約だった。新築住宅のフローリング清掃時にフローリングに傷がつき家主から弁償を迫られたとか、屋外作業中、家主の車の駐車位置が邪魔なので断って動かしたら門扉を壊し弁償させられたとか、庭の除草作業時のトラブル等の事例を知った。センターが「斡旋料」めいた利益を天引きし請け負った高齢者は少額の「手間賃」を受け取る仕組みだ。今どうなったか知る由もない。
この頃、隆盛を極めている「ギグエコノミー」という労働市場。フリーランスで単発(ギグ)依頼による出来高払い。仕事を受ける・受けないは自由。こういうのを「柔軟性」という新しい働き方と宣伝されているが、裏返せば「あなたが決めたことだから全てあなたの責任」という「自己責任論」だ。
物価が急上昇し労働者の生活は厳しさを増している。「平均年収2割増」「大卒初任給2万円増」「正社員の賃金4割増」等々、目玉が飛び出そうな大企業の賃上げ。よくよく見れば「大企業」「正社員」という括りのなかで語られ非正規職で働く労働者の姿は全く見えてこない。従業員の窮状を肌で感じる中小零細企業の経営者も賃上げしたいが原材料価格の高騰を価格に転嫁できるか否かがネックになっていると聞く。
16年度の統計では中小企業数は全体の99・7%、中小企業で働く労働者は約70%と報告されている。全労働者の約40%を非正規労働者が占め、その割合は女性労働者の56%、男性労働者の22・9%である。同一労働同一賃金や全国一律最低賃金の大幅な引き上げ(生活できる賃金に)の声は、残念ながら大企業産別の労働組合から聞こえてこない。アンケート調査では、貧困層が増えている59・8%、収入の格差が拡大している78%……格差と貧困が拡がっている社会状況は、誰もが知っており解決したい共通の課題なのだ。
バスを降りそこから20分。春の陽ざしを浴びながら職場に着く。10人ほどの小さな会社。先日、物価高騰に対する緊急手当が全従業員(バイトも含め)に支給された。厳しい経営のなかで従業員全員の生活を思いやる心に清々しさを感じた三月(弥生)某日の出来事でした。 (朝田)