サガリバナと宮古島の星空
コラム「架橋」
サガリバナ―サガリバナ科の常緑広葉樹、高さ10メートル前後。台湾、南中國、インド、マレーシア、ミクロネシア、ポリネシア、日本では奄美大島以南の琉球諸島に分布。6~8月にピンクないしは白い花をつける。
昨年6月末、「南西諸島への自衛隊配備に反対する大阪の会」は宮古島を訪問した(「かけはし」2022年7月18日号参照)。その訪問の最後の企画が、日本基督教団宮古島教会での交流会であった。
交流会も無事に終わり、ほっとしている私たちに、住民連絡会のSさんが「まだ閉園時間には間があるから、サガリバナを見に行きましょう」と提案する。
「サガリバナ」、初めて聞く花の名前である。夏の夜、甘い芳香を放って白やピンクの花を咲かせ、夜明けには花びらを散らせてしまうのだという。
当たり前のことだが、夜に咲く花を見に行くのだから、出発したのは夜である。しかし、都会の夜ではない。市街地を抜けると、家も街灯もあまりなく、対向車もまばらである。道路の周囲は畑や原野や丘陵なのだろう。真っ暗な闇だけが広がっている。
開園中のはずなのに、園に向かうような車にも、園から帰るような車にも出会わない。その真っ暗な闇にほの白く浮かぶ案内板をようやく見つけ、指示に従って細い道を右折する。驚くことに入口に向かう坂道は車が渋滞し、車を降りた多くの人たちが歩いている。
その真っ暗な道を私たちも歩く。ほのかに明るく曲がり角が見え、角を曲がるとそこには明るい空間が開けていた。添道(そえどう)サガリバナ群生地である。本来、サガリバナはマングローブの海や河口に自生しているのだが、ここは河口から10キロ程上流の標高20メートルの高台になっている。
ピンクや白い花を十数個も付けた枝を何本も垂らしたサガリバナの並木が、明るい光に照らされて続いていた。この並木だけで200本、周囲を含めると600本のサガリバナが群生しているという。
花は、ねむの木の花に似て、細長い雄しべが数十本放射状についている。ねむの木はその花を空に向けて咲かせる。サガリバナはその花を細長い枝に付けマングローブの海に向かって垂らしている。この園では地面に向かって垂らしている。
サガリバナの姿は清廉で神秘的とパンフレットにはあるが、ここはとても明るい空間だった。並木は200メートル程、電飾で華やかさを増したサガリバナの花の下を、多くの人が行きかっていた。暗闇の中で離ればなれになった私たちの一行も一緒になったり、また離れたりしながら花の下を歩いた。
園を出ると、また漆黒の闇である。案内係りの人が照らす懐中電灯の明かりを頼りに、この暗闇の中で車と合流できるのだろうかという不安な気持ちをこもごも語りながら、私たちは車の出口へと向かう。
「大丈夫、ここは一本道だから、帰る車は全部ここを通る」と、案内係の人が私たちに説明してくれる。それにしても真っ暗な闇である。遠くに畑の中の道を帰えるのであろう車のテールランプの明かりが、時たま一つか、二つ見えるだけである。
不安な気持ちのまま空を見上げる。星が空いっぱいに輝いていた。明るいだけではなく、大きく見えるだけでもなく、手が届きそうなぐらいに近くで輝いていた。 (O)