叔母の入院

コラム「架橋」

 「あんたはどうして毎晩部屋で警察とケンカしているのか」「今日はどこでデモがあるのか」・・・こんなことを叔母が頻繁に口にし出したのは昨年の年末からだった。しかし、これには全く根拠がないわけではない。
 昨年の3月、叔母の病状が悪化してしていた最初の入院直前の早朝に、警察官2人がマンション通路側の窓から叔母さん宅に侵入している。これはまったくおせっかいなことに、叔母の学生時代の友人が「電話をしても出ない」ということで、警察に安否確認を要請していたのである。
 丁度この時期「闇バイト」による老人宅侵入と金品強奪事件が報道されていたこともあって、叔母は完全にパニック状態になった。「知らない男が2人窓から入ってきた」と、直後に職場の女性社員と私の娘に電話を入れている。しかし電話をもらった当人らは「4階の窓から人が入ってくるわけがないでしょう」と妄想扱いしていた。とりあえず確認しなければならないと思い、私はその日の午前に叔母さん宅に行ってみると、玄関の鍵はかかっておらず、通路側の窓の鍵もかかっていなかった。しかもテーブルの上には「これこれ確認しました」と記された警察のメモが置かれていたのである。
 叔母はその時の「事件」が相当怖かったようで、それが今でも頭にこびりついて「物語」となってくるくると回っているのかもしれない。
 デモに関しては、ガザの虐殺に抗議するデモのニュース映像と、かつて三里塚闘争を支持していた自身の記憶などがごちゃ混ぜになっているせいなのかもしれない。
 こうして叔母は心身ともに体調を悪くして、訪問医の判断で緊急入院することになった。叔母は2日後に退院する。何度か面会にも行ったが、その度に「警察とデモ」の話が何度も出てくるのである。しかもその話を私の娘や看護師さんらにもしているようだ。
 先週、叔母さんの退院に当たっての対策会議を病院で行った。担当医、担当看護士、リハビリ担当にケアマネさん、訪問看護師、そして私と叔母の8人ほどの会議となった。医師の提案は週1回に減らしていたデイサービスを3回に増やせというものだった。自宅でベットに入っている時間が長くなることは、寝たきりを速めることになる。デイサービスは「頭のリハビリ」であり、介護者の負担軽減にもなるという説得力を持つものだった。
 しかしデイサービスに行く朝は毎回、私にとっては大変な「闘い」なのである。叔母は「行かない」と言って起きてこない。そこでケアマネさんから、それならば「迎えが来る1時間前にヘルパーさんを入れましょう」という提案があった。訪問看護も週1から2回に増やすことになった。それ以外にも週1の訪問リハビリ、隔週の訪問医もあるので、日曜以外は毎日訪問者がある生活になる。
 介護の大変さ。やってみないと分からない。(星)