鳥インフルとハエ

コラム「架橋」

 

 日本で高病原性鳥インフルエンザが発生したのは2004年からであり、その後も数年おきに発生が確認されてきた。ウイルスを持ち込むのは、大陸から越冬のために日本に飛来してくる野鳥たちである。カモ類は耐性を獲得しているが、ニワトリの致死率は100%である。そのために養鶏場まるごと殺処分することになる。

 そして2020年と22年は爆発的な大流行の年となった。20年には約1000万羽が、22年には約1770万羽が殺処分された。トウモロコシなどの飼料や輸送費、人件費の高騰も加わって、卵の値段は瞬く間に2倍に跳ね上がった。そもそも日本の卵は安すぎたということもあるのだろうが。

 ヒヨコの雌は4~5カ月もすれば産卵するようになる。そして毎日1個づつ卵を産み続けられるのは3年までだ。ニワトリの雌の寿命は8年ほどだが、3年で殺処分される。筋っぽくて固くなった肉は低価格で売り飛ばされて、チキンナゲットなどに加工されるという。多分、動物園のライオンやワニなどのエサにもなっているのだろう。

 鳥インフルのウイルスを運んでくるのは野鳥だが、それがどのように鶏舎内に持ち込まれるのか。この解明なしに防止対策は立てられない。発生当初は野鳥やネズミの侵入説、作業員や車両の消毒不足説なども指摘されていたが、それらを徹底しても発生をくい止めることができなかった。そして水説まで飛び出した。これはウイルスが含まれている粉末状の鳥のフンが飛来するなどして、ニワトリの飲料用水の中に混ざり込むのではないかという説である。

 そんななか現在注目されているのが「ハエ媒介説」だ。世界に何千種類もいるとされるハエだが、その繁殖力はものすごい。例えばよく目にするイエバエの雌は、約4週間の寿命で約500個の卵を産む。卵は1日で羽化しウジとして7日間、サナギとして5日間で成虫になる。それがまた卵を産むわけだから、ネズミ算どころではない。しかしハエは多くの生き物によって捕食されている。鳥類もそうだ。ニワトリもハエを食べる。食物連鎖の最底辺に位置するハエは、実は重要な役割をはたしているのである。

 現在「ハエ説」研究の先頭に就くのは九州大学のチームだ。そこでは野鳥飛来時期と産卵期が重なるオオクロバエが主な研究対象になっているようだ。しかしどのハエにとっても野鳥のフンや死骸、ニワトリのフンやエサは絶好の食料になる。これまでのチームの調査によると、鳥インフルが発生した養鶏場付近のハエの10~30%から同型のウイルスが検出されているという。鳥インフルは世界的に流行している。鳥インフルはA型インフルエンザウイルスの変異株に過ぎないのである。

 ハエは漢字で「蝿」と書く。ハエが足をスリスリしている動作が、人が縄を編む動作に似ているからだという。ハエが足をスリスリするのは、足の裏にも味覚センサーを持っているからだ。だからいつもきれいにしておく必要があるのだろう。

 今後「ハエ説」がどうなるのか分からないが、殺虫剤などで大量駆除するようなことがあってはならない。(星)


 
 
 
 

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