「先進国第一主義」への純化

日本共産党の綱領改定案批判
討論と批判、そして共同のために

 日本共産党は、来年一月に予定されている第二八回党大会に向けて、議論を進めている。一一月の党中央委員会では、党綱領改定案が提起され、「赤旗」紙上でもその論議が紹介された。「天皇の制度」を合憲的なものとして評価するようになった共産党の「綱領改定案」は、「先進資本主義国」における民主主義的変革の前進のみが社会主義への道とする「先進国第一主義」に純化するものとなった。論議と批判を!(編集部)

「天皇の制度」を擁護


 日本共産党は、来年一月に行われる予定の第二八回党大会に向けて、さる一一月初旬に行われた第8回中央委員会総会で、志位和夫委員長による「綱領一部改定案についての提案報告」を行った。
 すでに共産党は、「天皇代替わり」に合わせて、日本国憲法における天皇の位置づけを「天皇の制度」として承認し、党としては「民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場」に立つが、「その実現をめざして国民多数の合意をつくるために運動を起こしたりはしない」との立場を明確にしていた。つまり「民主共和制」の観点から天皇制をなくすための活動などは、党として行うようなことはしない、との宣言である。
 志位は、この立場から「象徴天皇制条項」=「天皇の制度」を含む現行憲法の全条項を擁護するとの立場を明確にした(パンフレット 志位和夫『天皇の制度と日本共産党の立場』、日本共産党中央委員会出版局刊参照)。かつて昭和天皇の「Xデー」にあたって他の全政党から指弾を浴びながら昭和天皇の戦争責任を追及した姿は、完全に過去のものになってしまった。
 「天皇制」という言葉を憲法上の「天皇の制度」に置き換えて、事実上擁護することになった共産党の転換は、当然のことながら現行の綱領の大幅な変更へと行きつかざるをえない。では、どのような変更が準備されているのか。その内容について、志位の「提案報告」を見ることにしよう。以下の内容は「赤旗」2019年11月6日付に掲載された、志位和夫委員長「綱領一部改定案についての提案報告」による。

「生産力主義」前面に


志位報告は、綱領改定案報告の冒頭で、現綱領において中国を想定して「今日、重要なことは資本主義から離脱したいくつかの国ぐにで、政治上・経済上の未解決の問題を残しながらも『市場経済を通じて社会主義へ』という取り組みなど、社会主義をめざす新しい探求が開始され、人口が一三憶を超える大きな地域での発展として、二一世紀の世界史の重要な流れの一つになろうとしている」とするこれまでの規定については、「現実に合わなくなった」としている。
中国についての「社会主義への前進」という規定が、現実とはかけ離れたものであることは明らかであり、まさにその現実が中国共産党の独裁的支配体制の下での「国家資本主義」というべき存在であることは、今や多くの人々が承認するところだろう。
志位報告は、このような現実をも見据えつつ「発達した資本主義国での社会変革が社会主義・共産主義への大道であること、そこには特別の困難性とともに、豊かで壮大な可能性がある」と強調している。しかし、それはもっぱら高度に発達した資本主義を土台にしてこそ「社会主義への未来」が切り拓かれるとするものであり、「低開発」諸国における変革の道は、豊かな生産力水準を享受する国家の支援を待つ以外にない、という論理への先祖返りが見られる。
こうした「生産力主義」の観点からは、帝国主義の搾取・収奪を受けた諸国における労働者・民衆の「平等主義」的な社会変革のコースはあらかじめ排除されることになってしまう。
私は「貧困」が社会主義革命の母体である、と言おうとしているのではない。「豊かさ」からしか社会主義革命への道が切り拓かれない、とする主張を批判しているのだ。

「日本第一主義」か


その問題点は、日本共産党の現行綱領のどこが削除され、新しく書き改められる部分がどこであるかを対照すれば明らかとなる。 
まずは現綱領で削除が提案されている部分。
「二一世紀の世界は、発達した資本主義諸国での経済的・政治的矛盾と人民の運動のなか、資本主義から離脱した国ぐにでの社会主義への独自の道を探求する努力のなかからも、政治的独立をかちとりながら資本主義の枠内では経済的発展の前途を開きえないでいるアジア・中東・アフリカ・ラテンアメリカの広範な国ぐにの運動のなかからも、資本主義を乗り越えて新しい社会をめざす流れが成長し発展することを、大きな時代的特徴としている」。
次に新綱領案で、上記の現綱領に代わり新しく提案された部分。
「これまでの世界では、資本主義時代の高度な経済的・社会的な達成を踏まえて、社会主義的変革に本格的に取り組んだ経験はなかった。発達した資本主義国での社会主義・共産主義への前進をめざす取り組みは、二一世紀の新しい世界史的な課題である」。
「発達した資本主義国での社会主義的変革は、特別の困難性を持つとともに、豊かで壮大な可能性をもった事業である。この変革は、生産手段の社会化を土台に、資本主義のもとでつくりだされた高度な生産力、経済を社会的に規制・管理するしくみ、国民の生活と権利を守るルール、自由と民主主義の諸制度と国民のたたかいの歴史的経験、人間の豊かな個性などの成果を、継承し発展させることによって、実現される。発達した資本主義国での社会変革は、社会主義・共産主義への大道である。日本共産党が果たすべき役割は、世界的にもきわめて大きい」。
みごとに貫徹された、先進資本主義国第一主義! いや「日本第一主義」と言うべきか。
「天皇代替わり」に祝意を表した日本共産党は、まさに「新綱領」案において、その政治性格をより鮮明にしようとしている。これらの問題点については本紙上でも適宜取り上げ、批判していきたい。     
(平井純一)

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