「自共対決」の単純化と問題点

日本共産党の総選挙での躍進をどうみるか

樋口芳広(日本共産党員)

 昨年末の総選挙で日本共産党は改選八議席を二一議席に増やした。一月に開催された第三回中央委総会では、これを「自共対決の本格的な到来」と評価した。この日本共産党の躍進をどうとらえるべきか、今後どの様な方向に進もうとしているのか、三中総をどうみるべきか、樋口芳広さんに寄稿していただいた。(編集部)

はじめに 


 昨年一二月一四日に実施された衆議院総選挙において、日本共産党は、比例代表で六〇六万票(得票率一一・三七%)を獲得、小選挙区でも沖縄一区で勝利し、改選八議席を二一議席に増やして躍進した。総選挙での躍進は、一昨年の都議選、参院選に続くものである。今年一月二一日に開催された第三回中央委員会総会(以下「三中総」とする)は、この総選挙結果について“第三の躍進”(一九六〇年代の終わりから七〇年代にかけての“第一の躍進”、一九九〇年代後半の“第二の躍進”に続く)の流れを大きく発展させるものと総括、次期国政選挙の目標として比例代表選挙で「八五〇万票、得票率一五%以上」を掲げ(これまでの最高は一九九八年参院選の八一九万票、一四・六%)、これに正面から挑むことを呼びかけた。
今回の総選挙で日本共産党が大きく躍進することができたのはいったいなぜなのか。今回の躍進は日本共産党のこれからについてどのような課題を提起するものなのか。本稿では、三中総における志位和夫委員長の幹部会報告を批判的に検討しながら、これらの問題について考えてみることにしたい。

1 安倍政権への対抗勢力として共産党が選択された


今回の躍進の「政治的意義」について、三中総における志位報告は、以下の二つの点を強調している。第一は、これまでの「反共戦略」全体を打ち破っての躍進であるということであり、第二は、本格的な「自共対決」の時代という「日本の政治の新しい段階」を拓くものであるということである。一九六〇年代終わりからの“第一の躍進”以来、支配勢力は日本共産党を封じ込める反共戦略を一貫して政治戦略の中心に据えてきたが、これを打ち破って躍進を勝ち取ったことにより、「自共対決」時代の本格的な到来という日本政治の新しい段階を拓くことができたのだ――これが、この半世紀近くの日本の政治史の流れを踏まえての、今回の躍進に対する党指導部の公式の評価である。
こうした捉え方は、日本政治史の流れを「自共対決」の枠組みに無理やり当てはめるようにして恣意的に描き出したものだといえよう。とりわけ、いわゆる“第二の躍進”から“第三の躍進”に至る過程を通じて、革新勢力全体が(あるいは中道左派的な勢力を含めてみても)明らかに衰退に向かっているという事実を故意に無視するものとなっていることは、厳しく批判されなければならない。例えば、二〇一二年総選挙での比例代表における得票数は、共産党が三六九万票、社民党が一四二万票、未来の党が三四二万票、三党合計で八五三万票であった。これに対して今回の衆院選での比例代表における得票数は、共産党が六〇六万票、社民党が一三一万票、生活の党が一〇三万票、三党合計で八四〇万票である。左派あるいは中道左派(消費税、アベノミクス、原発、TPP、沖縄などの諸問題で安倍政権に対して批判的な立場を比較的鮮明にした勢力)という括りでみるならば、総体として得票数は増えていないともいえるのである。こうした点に着目するならば、自民党・公明党の与党が三分の二以上の議席を維持するという結果に終わってしまったにもかかわらず、日本共産党がことさら自らの勝利を喧伝するのはあまりに独善的すぎるという批判は免れないであろう。
とはいうものの、国会に議席を有する政党のなかで安倍政権に最も厳しい対決姿勢をとってきたのが日本共産党であることは間違いないし、その日本共産党が大きく議席を伸ばして国会での活動の余地を広げたこと(単独での議案提案権の獲得など)の政治的意義は決して小さくはない。安倍政権の反民主主義的、歴史修正主義的な暴走に対し、保守層を含めて危機感が広がっているなかで、安倍政権を「戦後最悪の反動政権」と断じ、「歴史を偽造する極右勢力による政治支配」を打破することを訴えた日本共産党が、安倍政権への批判票の受け皿となった。このことは積極的に評価されるべきものであり、他の野党がだらしなかったから共産党に票が集まっただけ、というレベルで片付けてしまうわけにはいかない。

2 「戦後最悪の反動政権」への対峙によって右傾化が正当化される危険性

 しかし同時に、極右的な安倍政権の打倒に向けて保守層とも共同しての闘いが求められているという情勢が、日本共産党にとって右傾化への圧力として働いてくる危険性があることについても、厳しく指摘しておく必要がある。
先ほども述べた通り、安倍政権の反民主主義的、歴史修正主義的な暴走に対して、保守層を含めて深刻な危機感が広がっている。今回の日本共産党の躍進は、こうした「安倍政権の危険な暴走をストップさせなければ」という民衆の切実な危機感を背景にしたものであって、日本共産党の綱領的目標、すなわち、「異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配の打破――日本の真の独立の確保と政治・経済・社会の民主主義的な改革の実現を内容とする民主主義革命」という目標が積極的に支持されたものではない。ましてや、社会主義・共産主義社会の建設という大方針など、端から問題になってはいない。
「安倍政権の危険な暴走ストップさせなければ」という危機感は、日本政治の現局面において、極めて重大で切実な性格を持っている。しかしそれは、自民党の旧来の“ハト派”――例えば、加藤紘一元幹事長や古賀誠元幹事長など――とも共有しうるレベルのものであることに注意が必要である。日本共産党は、こうした危機感によって押し上げられ、「戦後最悪の反動政権」たる安倍政権への最も有力な対抗勢力として期待を集めることになった。現局面におけるこうした民衆的な期待と、日本共産党が「革命政党」として掲げている綱領的方針には、大きな隔たりがある。こうした隔たりが、綱領レベルの方針を右傾化させていく圧力として作用する危険性は決して小さくないのである。より広い支持を獲得するためには「革命政党」色を思い切って薄めて「普通の政党」として打ち出していかなければ……というわけである。
日本共産党がいわゆる“第二の躍進”の時期(一九九〇年代後半)において、自衛隊活用論や天皇制の事実上の容認など、右傾化を大きく進行させた(その集大成が不破哲三議長の主導による二〇〇四年の綱領全面改定であった)ことが想起されなければならない。現在、日本共産党の指導部が、安倍政権を「極右」と断じ厳しく対峙する姿勢をとっていることはそれとして評価できることであるが(もちろん、これは当たり前のことでしかないのだが)、その対決姿勢の影で党の政策路線における右傾化を大きく進行させていく危険性があることには警戒が必要である。

3 統一戦線の構築と革命政党としての役割


もちろん、共産主義を掲げる革命政党だからといって、あらゆる問題を資本主義の弊害に還元して社会主義的変革を主張するべきだ、というわけではない。現局面において必要なのは、何よりもまず、様々な分野における一致点での共同(いわゆる「一点共闘」)に力を尽くしながら、安倍政権を打倒するための共同闘争を発展させることである。この点、三中総において「当面する日本共産党の政治任務」として提起された内容は妥当なものといってよい。
三中総における志位報告は、「安倍政権の強権的な暴走、極右化した政治のもとで、全国各地で、保守を含む広大な人々との共同の新しい萌芽、新しい可能性が生まれています。こうした変化もくみつくして、日本を変える統一戦線をつくる仕事に、新たな意気込みでとりくもうではありませんか」と呼びかけている。ちなみに志位報告は、総選挙における「オール沖縄」(この枠組みで日本共産党は社民党や生活の党などとも共闘した)の画期的勝利に触れ、「この大激変には、もとより沖縄固有の条件が働いていますが、その意義は沖縄だけにとどまるものではありません。沖縄で起こったことは日本の政治の未来を先取り的に示すものにほかなりません」と述べている。これは、「一点共闘」に力を尽くしながら、安倍政権を打倒するための共同闘争を発展させていくことで、「オール沖縄」型の政党間共闘も展望しうることに含みを持たせたものとして注目される。
大きくみればここでは、「戦後最悪の反動政権」を打倒するための(保守層をも含めた)共同闘争を発展させ、それを大企業・財界の横暴な支配やアメリカ帝国主義への従属を打破するための統一戦線の形成へとつなげていく、といった展望が示されているといってよい。個々の具体的な要求の実現に取り組みつつ、政治経済体制の根本的変革がどうしても必要であることを労働者民衆が自ら掴んでいくようにする(政治的認識の発展を促す)点にこそ「革命政党」としての役割があることは、一応は押さえられているといってよいだろう。
しかし、こうした革命政党の役割について抽象的な理論としてつかまれていても、それは現実の政治闘争の過程における適切な対応を直ちに保証するものではない。先ほど述べた通り、現局面における日本共産党への民衆的な期待と、日本共産党が「革命政党」として掲げている綱領的方針には、大きな隔たりがある。現局面における民衆的期待に積極的に働きかけながら、それを綱領的方針の側に接近させていかなければならない。
ところが、「自共対決」という恣意的で一面的な構図を無理やり現実に当てはめて解釈するというやり方で情勢分析や政治任務の設定を行うようでは、両者を適切に媒介することなど到底不可能になってしまう。綱領的方針を後退させ「革命政党」色を薄めることで、現局面における民衆的な期待の側に接近しようということにもなりかねない。
ここでは、最低でも、「自民党政治の崩壊的危機」とはそもそも何なのか、その崩壊過程において「戦後最悪の反動政権」が登場して世論の支持を得ることになったのはなぜなのか、一方で、中間的な「受け皿政党」が衰退するという事態が生じてしまったのはなぜなのか、こうした日本政治の動向は国際関係にどのように規定されており、資本主義経済の歴史的危機にはどのように規定されているのか……といった一連の諸問題について、突っ込んだ分析がなされなければならない。その上で、労働者民衆の政治的意識の現状を評価し、諸々の政治党派の掲げる主張を評価して、それらにどのように働きかけていくか、どういうレベルで共同闘争を組織し、どういう一致点での統一戦線の形成を目指すか、革命への戦略全体のなかに構造的に位置づけるようにしなければならないのである。単純極まりない「自共対決」論だけでは、こうした困難な事業を適切に遂行するのは不可能だといわねばならないだろう。

おわりに

 三中総における志位報告は、ポスターの張り出しや赤旗号外の配布、対話・支持拡大などの運動量が十分ではなかったこと、党員数や機関紙読者数は二〇一二年総選挙時よりも減らしていたことを指摘し、今回の躍進は「党の自力」という点では「実力以上」のものであり、この弱点を克服することこそ党躍進の最大の保証であるとして、党勢拡大に力を注ぐべきことを力説している。
政治情勢を「自共対決」という極度に単純化された構図で描き出すならば、日本共産党の党員・機関紙読者を量的に拡大していくことこそ政治変革の最も確かな道だということになるのは論理的必然である。三中総における志位報告は、「わが党が困難や試練をのりこえてさらに前進・躍進するためには、国民としっかり結びついた強大な党をつくることが、どうしても必要」だと主張する。ここで問われなければならないのは、そもそも「国民としっかり結びついた強大な党をつくる」とはいかなるイメージで語られているのか、ということである。党勢倍加(党員数、機関紙読者数を倍加させること)がそのイメージの中心に据えられていることは明白である。
しかし、そもそも革命政党の活動の本質は、労働者民衆が自らを解放できるだけの政治的力量を創出できるように、ともに闘う過程で明確な政治的展望を示しつつ働きかけていく、というところにこそあるはずである。党のあらゆる活動は、この目的に収斂させなければならない。諸々の要求の実現を目指した闘いこそが主であり、党勢拡大の取り組みはあくまでもこれを発展させるための手段として位置づけられるべきものなのである。そのことを踏まえるならば、「国民としっかり結びついた強大な党をつくる」とは、何よりもまず、個々の党員・党組織が、様々な領域において運動を的確に発展させていけるような政治的力量をしっかりとつけていく、ということでなければならない。
革命政党の活動とは、個々の党員・党組織が、党指導部の方針、党幹部の発言を絶対的に正しいものとして頭に叩き込み、それを周囲の人々に対して忠実に同じような言い回しで繰り返しながら、選挙での支持拡大、機関紙拡大、党員拡大へと奔走する、といったものでは決してない。硬直した情勢分析に基づいて、紋切り型の政策を繰り返すだけでは革命政党としての役割は果たせないのである。諸矛盾の複合体としての政治情勢、労働者民衆の意識を的確に把握し、効果的に働きかけていけるだけの柔軟性を把持する必要がある。そのためにも、労働者民衆とともに闘う個々の党員・党組織が、党幹部の発言、党指導部の方針を無条件に正しいものとして受け入れるのではなく、自主的に検討して批判すべきことははっきり批判すること、党指導部の方針待ちにならずに、情勢の見方、政策、運動方針について積極的に提起し、自由闊達に討論していく気風を創出していくことが絶対に必要であろう。党活動の硬直したあり方を打破して、柔軟性を把持したものに変えてこそ、激動する政治情勢に主体的に働きかける革命政党としての役割を果たせるのである。

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