連続講座「永続革命としてのロシア革命─マルクス・エンゲルスからトロツキー・グラムシまで」

第4回「ロシア革命からヨーロッパ革命へ」(下)
新しい社会主義革命の展望をさぐる

報告:森田成也

新事実が次々
浮上している


統合国家、歴史的ブロック、ファシズム

 二つ目の重要な成果が「統合国家論」や「歴史的ブロック」論です。「統合国家」とは、階級的支配勢力と国家の具体的なあり方とが有機的な連関をもつようになった国家のことであり、いわば支配階級によって(形式的にではなく)実質的に包摂された段階の階級国家のことです。「歴史的ブロック」とは、もう少し広く、下部構造の全体と上部構造の全体との独特の結合の仕方に着目した概念であり、両者の適切な均衡こそが支配体制の安定と長期化を可能とします。どちらも、ヘゲモニーと対抗ヘゲモニーの過程によって絶えず構築され、再構築されていく動的なものです。
このような有機的な体制が革命や戦争によって大きくぐらつき、統合やブロックに重大な亀裂が生じ、均衡が失われ、ブルジョアジーの支配が危機に陥ったとき、それでいて下からの労働者階級の革命が国家を支配するほど十分には強くない場合、労働者階級の組織をしだいに解体していくことによってブルジョア支配の再構築をめざすのがファシズムです。したがって、ファシズムは上からの反動的機動戦である軍事独裁とは異なって、下からの反動的陣地戦を通じて支配権力に到達するのであり、その際にファシズムは実存的危機に陥った小ブルジョアジーを労働者階級の組織や抵抗を粉砕する破城槌として利用します。
以上のようなファシズム論も非常に斬新なものです。実は亡命地にいたトロツキーもファシズムの本質を単なる専制や独裁に見出すのではなく、労働者階級の既存の組織の徹底的解体と原子化、その上での全体主義的再組織化に見出しましたが、これもグラムシの見方とかなりパラレルなものです。
時間がもうほとんどありませんので、グラムシの新たな探求についてはこれぐらいにしておきますが、このような先進国革命の新たな探求は今後とも継続して深めていくべきものです。

追放後のトロツキーの新たな探求

 ソ連追放後のトロツキーは、獄中におけるグラムシのこの新たな探求を知りませんでしたが、それとは別の方向から同じような課題を追求しています。実践を完全に制約された獄中のグラムシが主として、先進国における支配者階級の支配と統治の独自のあり方の分析から問題にアプローチしたのに対して、革命組織の指導者であったトロツキーは労働者政党の主体的な革命戦略の探求という方向から同じ問題にアプローチします。とくにファシズム下のドイツにおいて、反ファシズム労働者統一戦線という提起を行ない、当時、第三期論にもとづいて社民主要打撃論に陥っていたコミンテルンを徹底的に批判します。
さらにトロツキーは最晩年に「過渡的綱領」という概念を提起します。過渡的綱領は、直接的に社会主義的でもないし、直接的にブルジョア段階に制約されているわけではないが、人々の現時点で最も切実な要求に立脚し、それを実現するにはブルジョア支配の枠を突破せざるをえないような、そういう諸要求の総体のことであり、ヨーロッパの革命党が陣地戦を遂行する上で決定的な戦略的概念を提起したのです。それはもちろんのこと、一九一七年のロシアにおいて二月から十月にかけて実行されたものでもあり、かくも見事に陣地戦を勝利に導いた経験を理論的に一般化したものです。
古い第二インターナショナルの時代にあっては、社会民主主義政党の綱領は最小限綱領と最大限綱領とに分裂していました。前者はブルジョア社会を前提にしても実現できるもの(たとえば普通選挙権の実施など)、後者はその枠を超えなければ実現できない直接的に社会主義的な綱領のことです。しかし、生きた具体的な眼前の状況と無関係に、あらかじめ資本主義の枠内にある諸要求とそれを超える諸要求を機械的に分類することは、理論的には可能であっても、現実には不可能なことです。たとえば、一九一七年のロシア革命を考えて見ましょう。そのとき、ボリシェヴィキを権力に導いた最も重要な諸要求の一つは即時停戦と民主主義的講和でしたが、それらが資本主義の枠内で絶対に不可能かというと、けっしてそうではありません。状況によっては、資本主義のもとでも十分可能です。しかし、当時におけるロシアの具体的な状況においては、この要求はブルジョア臨時政府のもとでは不可能であり、労働者階級の権力を必要としたのです。
抽象的にそれが資本主義の枠内で可能か不可能かを分類するのではなく、その時々における労働者階級の最も切実な諸要求から出発し、それを実現するためにはブルジョア支配の枠を突破することも辞さないという構えが必要なのであり、そのような「鎖の全体をつかむ主要な環」となるような諸要求をできるだけ正確かつ簡潔な形で定式化し、それを労働者のあらゆる層に浸透させ、下から労働者を獲得していくことが必要なのです。これもまた、グラムシが獄中で探求していた対抗ヘゲモニーの構築論と補完しあうものだと言えます。

 以上、四回にわたって「永続革命としてのロシア革命」についてお話してきました。しかし、以上の話はまだ終わりではありません、ロシア革命によって建設されたロシア労働者国家が崩壊した今日の時点に立って、結局ロシア革命とは歴史的にどのような意義を持っていたのかについて明らかにする必要があります。しかし、このテーマは、今年の一一月四日に行なわれるロシア革命一〇〇周年のシンポジウムでお話しすることにします。

 この講座は昨年一〇月一三日に行われたものです。

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