資本主義と対決する反レイシズムを主張
かけはし 第2650号 2021年1月25日
読書案内 梁英聖『レイシズムとは何か』 ちくま新書 940円+税
「反差別」って何? 2つの説明
本書の著者・梁英聖(ヤン・ヨンソン)は1982年生れの韓国人の若手研究者だ。日本初のヘイトウォッチNGO「反レイシズム情報センター(ARIC)」代表を務める活動家でもある。
著者は本書の「はじめに」の項で次のような設問を読者に投げかけている。以下の2つの説明のどちらに賛同できるだろうか、と。
「①反差別とは被害者の権利を守ることだ。当事者に寄り添うのが反差別だ」。
「②反差別とは加害者の差別を止めることだ。差別行動を禁止するのが反差別だ」。
著者は、「多くの人びとは①に賛成できても、②に賛成するのにはためらいがあるのではないか」と疑問を投げかける。欧米では①と②は「反差別の両輪」であり、②の差別行為の禁止」は①の被害者の権利回復の必要条件となるから当然、と著者は強調する。「反レイシズムが社会正義として加害者の差別する自由を否定するからこそ、社会防衛を掲げるレイシズムの正義にはじめて対抗しうる」と。
著者は訴える。「日本の反差別は②の差別行為の禁止がないまま①被害者に寄り添おうとする。加害者の差別する自由を守る限りでしか、差別される被害者の人権を守ろうとしない日本の反差別こそ、日本で反レイシズムの規範形成を妨げ、日本人=日系日本人という国民=人種の癒着を切り離せない元凶である。これを日本型反差別と呼んでおこう」。
著者のこうした主張、批判は、本紙の読者のほとんどが共有するところだろう。
他方、著者は次のように訴えている。
「本書は右の日本型反差別から脱却し、差別する権利・自由を否定する反レイシズム規範を日本社会でどのように打ち立てたらよいかという課題と向き合うための基礎となるレイシズム入門書をめざした。反レイシズムによってナショナリズムとレイシズムを切り離すこと。これが本書の第三のテーマである」。
「生きるべき者」と「死ぬべき者」
ここまで読んで、帝国主義国家としての日本にとって、「ナショナリズムとレイシズムを切り離すことができる」という著者の「確信」が、どこまで積極的可能性を持ちうるのか、という疑問と不安を感じざるをえなかったことは確かだ。(後述するが、この著者の展望は変わったように思われる)。
本書を読み進めていく中で、私の関心がかなりの程度、そこに絞られていくことになったのは当然だろう。それは一見して矛盾に満ちた作業である。そうした疑問をのこしたまま、内容に入っていこう。
本書は7章構成になっている。「はじめに」と「あとがき」を除けば「第1章 レイシズムの歴史――博物学から科学的レイシズムへ」、「第2章 レイシズムとは何か――生きるべきものと死ぬべきものを分けるもの」、「第3章 偏見からジェノサイドへ」、「第4章 レイシズムという歯止め」、「第5章 1952年体制――政策無きレイシズム体制を実施できる日本独自の法」、「第6章 日本のレイシズムはいかに暴力に加担したのか」、「第7章 ナショナリズムとレイシズムを切り離す」である。
なお本書の結論部分をなす「第7章」では、明確な「反資本主義」的展望の必要性を反レイシズムの中で強調している。
「レイシズムとナショナリズムの関係、レイシズムがセクシズムはじめ他のあらゆる差別・抑圧と不可分に絡み合っているインターセクショナリティーの問題に加え、資本主義とレイシズムの関係を考察する。未曽有の気候危機や新型コロナウィルスの世界的流行に直面する今日、資本主義と闘うラディカルな反レイシズム闘争であるブラック・ライブズ・マター運動の実践的意義について分析した」。
著者はさらに「急きょ書き加えられた」と思われる前書きの部分で、先に書いた「本書は主に在日コリアンに向けられた差別を題材としているものの、できるかぎり普遍的にレイシズムを分析するよう心掛けた。日本の反レイシズム闘争はグローバルな反ファシズム運動から学び、連帯しなければならないと考えたためだ。それができなければ、日本のレイシズムによる社会と民主主義の破壊を食い止めることはできないだろう」と結んでいる。この点では先に書いたように著者の重点の置き方は、明らかに大きく変わっている。
グローバルな反レイシズム
本書「あとがき」で筆者は述べている。「在日コリアンが差別について沈黙を強いられているのはヘイトスピーチのせいではない。社会正義としての反差別規範なしにマイノリティーを承認しようとする多文化共生や、差別する自由を守りつつ被害者に寄り添おうとする日本型反差別こそ、私たちの絶対的沈黙状況を背後から支える権力関係なのである」。
「私たちは日本型反差別から完全に脱却し、本書で述べた反レイシズム1・0を勝ち取る実践のなかで、私たちはBLM(ブラック・ライブズ・マター)のような資本主義と闘うグローバルな反レイシズム運動と連帯する道を切り拓かなければならない。それができてはじめて私たちはマイノリティーの疎外を語り、それを普遍的な社会変革につなげるための言葉を発明してゆくことができるだろう」。
著者たちの活動に注目しよう。
(純)
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