入門:気候危機に立ち向かうエコロジー社会主義(上)
アジア連帯講座:公開講座 気候破局へのラディカルな挑戦
九月一一日、アジア連帯講座は、「入門:気候危機に立ち向かうエコロジー社会主義」をテーマに公開講座を行った。
寺本さんは、八月に出版された『エコロジー社会主義 気候破局へのラディカルな挑戦』著者:ミシェル・レヴィー/柘植書房新社)の翻訳を行った。ミシェル・レヴィーのアプローチをバネにクライメート・ジャスティス(気候正義)運動、「システム・チェンジ」を目標としたエコ社会主義(社会主義とエコロジーを結合させた新たな社会の展望)の取り組みを提起している。
講座は、①気候変動から気候危機・気候破局へ ②温暖化否定論者は何を言っているのか? ③気候危機と地球温暖化 ④パンデミックが映し出す気候危機の本質 ⑤システムを変えよう!気候を変えるのではなく!を柱に提起した。集約として、エコロジー社会主義を実践的に具体化し、共有化していく作業を共に担っていくことを確認した。(Y)
寺本勉さんの報告要旨(上)
気候ではなくシステム変えろ
危機的現実直視し変革の道歩もう
COP21(二〇一五パリ)、COP23(二〇一七ボン)の対抗アクションに参加してみて、「システムを変えろ・気候を変えるな」というスローガンが、とりわけヨーロッパの気候変動に対する闘いの中で定着していることを目の当たりにした。このスローガンは、二〇〇九年のコペンハーゲンでのCOP以来、大きな基軸として掲げられてきたものである。それではシステムを変えるというとき、変えた先にあるものは何か、未来の社会のイメージがないと先に進めないのではないかと考えた。その中でミシェル・レヴィーの「エコ・ソーシャリズム」という本を翻訳してみようと思い、このたび『エコロジー社会主義 気候破局へのラディカルな挑戦』として、柘植書房新社より出版されることになった。
目次を見てほしい。序章の「二一世紀の大洪水」は、昨年、ミシェル・レヴィーがフランス語版の改訂版に書き下ろしたもので、昨年の国連の気候行動サミットでのグレタ・トゥーンベリの演説なども網羅している。それ以外は、二〇〇〇年~二〇一〇年代にかけて彼が書いたものだ。第5章の「マルクス・エンゲルス・エコロジー」は、斉藤幸平さんの論文にも言及がある。レヴィーは、彼の立場とは違うという形で書いている。七、八章は、レヴィーはもともとブラジルの出身なのでラテン・アメリカの先住民の運動に大きな関心と力点を置いている。
オルタナティ
ブ見出す努力
現在、世界は、① 気候危機 ② コロナ・パンデミック危機 ③ 政治・経済・社会的危機が同時に進行している。
例えば、アメリカが発火点となったブラック・ライブズ・マターは、その背景に深く制度の中に組み込まれた人種差別の問題がある。黒人のマルクス主義者の中では、人種資本主義という概念が広く使われている。人種差別とは、資本主義の中に制度的に深く組み込まれているという議論がされている。
三つの危機の根源は、現在の「システム」にある。では、そのオルタナティブは何か?について問題提起していきたい。
1.気候変動から気候危機・気候破局へ
世界中で「異常気象」が「日常化」している。例えば、モスクワの二〇二〇年一月の平均気温は約〇℃(観測史上最高)で平年より九・三度高く、これまでの最高記録を一・五℃上回った。一月の積雪量は七センチ(平年三二センチ)だった。
南極半島のアルゼンチン基地では史上最高温度一八・三℃を記録し、過去五〇年で約三℃上昇した。南極半島西岸にある氷河は過去五〇年で八七%失われた。産業革命以降、すでに約一度の気温上昇があるが、南極圏・北極圏の気温上昇が激しい。
シベリアのサハ共和国ベルホヤンスクで、六月三〇日に三八℃を記録している。永久凍土が溶けていくと、その中に閉じ込められた大量のメタン、二酸化炭素が一挙に放出される。ますます地球温暖化に拍車がかかる。
さらに永久凍土の中に、例えば、マンモスの死骸とか、動物の死骸とかが閉じ込められている。それが溶けることによって、その中で生き残っているウイルスが出てくる。シベリアで二〇一六年、永久凍土の中にあった動物の死骸から出てきた炭疽菌で死亡者が出た。未知の、一万年前のウイルスがさらに出てくるかもしれない。
「異常気象」の
「日常化」進行
こうした異常気象では、もはや「異常」であることが当たり前になり、新たな「普通」など見つけるべくもなくなっていて、過去のデータに基づく気候予測は成立しなくなっている。日本でも地球温暖化の影響は現実のものとなっている。「一〇〇年に一度」の異常気象が日常化している。今年夏の「猛暑」では、八月の平均気温は平年比で、東日本で二・一℃、西日本で一・七℃高く、過去最高だ。岡山県高梁市は、二四日連続で三五℃以上を記録している。浜松市は、四一・一℃の最高気温だった。だから人々の間では、気候温暖化という知見は共有化されているのではないか。
集中的・局地的豪雨、巨大台風は、日本近海の海水温上昇による水蒸気量増加が原因で、台風が日本近くで発生し、日本を直撃するようになっている。二〇一八年九月四日の台風で関西国際空港は水没した。
オーストラリア森林大火災は、ニューサウスウェールズ州で二四〇日以上森林火災が続き、五四〇万haが焼失(例年の一八倍)した。結果として、二月六日から豪雨によって鎮火した。極端から極端にふれるのが異常気象の特徴だと言える。
森林火災が起こる「主犯」は地球温暖化にある。二〇一九年のオーストラリアの平均気温は観測史上最高で、平年より一・五二℃上回った。年平均降雨量は平年より四割減っていた。つまり、地球温暖化により乾燥地域が拡大している。
現在のカリフォルニアの火事は、八一万haにまで広がっている。東京都の三・七倍だ。その原因には、ドライライトニング現象がある。雨が降っていないのに、雷が鳴る。晴れているところに、いきなり雷が落ちてくるわけだ。カリフォルニアだけで一二〇〇カ所にドライライトニングによる雷が落ち、火災が一気に広がった。ロサンゼルスでは、九月六日、四九・四℃を記録している。
オーストラリアの場合は、昨年から年末の間に「インド洋ダイボールモード現象」の影響があると言われている。インド洋の西側海面の温度上昇によってアフリカ東部は豪雨となり、東側海面の温度低下でインドネシア、オーストラリアで少雨、乾燥となった。ただ、地球温暖化で温度上昇や低下の度合いが大きくなっている。このダイボールモード現象によって、オーストラリアでは森林火災、アフリカではサバクトビバッタが大量発生した。アフリカ東部の豪雨によって繁殖に適した環境になった。
いまや気候変動ではなく、気候危機・気候破局の段階に入っている。日本政府の「環境白書」二〇二〇年度版でも気候危機とはじめて表現された。このような気候危機・気候破局は、ある段階を超えると、気候システムが不可逆的に暴走し、地球温暖化に歯止めがかからなくなると多くの科学者が指摘している。その限界点には私たちが考えているよりもずっと早く到達するかもしれない。ミシェル・レヴィーも『エコロジー社会主義』でその点を強調している。
2.温暖化否定論者は何を言っているのか?
ボルソナロ・ブラジル大統領は、パリ協定からの離脱を示唆し、先住民を追い出して、アマゾン開発を促進している。三人の息子は「パリ協定は国際的な陰謀」「温暖化はウソ」「気候変動は左派のアジェンダ」と主張している。
トランプ米大統領は、「地球温暖化という概念は、もともとアメリカ製造業の競争力をそぐために中国によって中国のために作り出されたものだ」(2012年)と言っていた。
ただ注意しなければならないのは、ボルソナロやトランプの温暖化否定論とコロナ・パンデミックでの立場が共通しているところだ。温暖化否定は、こういう人たちだけではなく、世界的に日本でも、かつて一部のエコロジスト、反原発を掲げた人たちの中でそういう論議が行われていた。「地球温暖化は原発推進のためのデマ、推進するための陰謀だ」という人がいた。
ミシェル・レヴィーは、『エコロジー社会主義』の序章で「アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙研究所前所長のジェイムズ・ハンセン」に触れている。この人は気候変動の専門家で警鐘を鳴らしている人だが、熱心な原発推進論者でもある。気候変動、地球温暖化を防ぐためには、原発を推進しなければいけないと主張している。こういう人がいることが、温暖化デマ説につながっているのかもしれない。
3.気候危機と地球温暖化
なぜ温暖化が起きるのか。地球のエネルギー収支は一致している。入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーはイコールになっている。イコールでなかったら地球は、際限なく暑くなってしまう。温室効果ガスは、赤外線を吸収し再び放出する性質を持つ。地球の外に向かう赤外線の多くが、温室効果ガスに吸収され(熱として大気に蓄積)、放出されて地球の表面に戻り、地表付近の大気を暖めることによって地球温暖化となる。エネルギーが地球の表面にとどまることによって温暖化が促進される。
世界気象機関は、現在の状況を「氷河時代」だとしている。南極、グリーンランド、ヒマラヤなどに氷河がある。氷河時代は氷期と間氷期が繰り返される。二五八万年前に始まった氷河時代のCO2の濃度は、一八〇~二八〇PPMで推移している。
しかし、現在のCO2の濃度は、過去数十万年にわたる自然変動の域を超えている。だから温室効果ガスによって温暖化が進んでいることが科学的に立証されている。二〇一五年から二〇一六年のCO2濃度の増加は、三・三PPMでこれまでの最高だ。明らかに人為的な温室効果ガスの排出が原因だ。
温室効果ガスはどこから排出されているのか。温室効果ガスの七六%が二酸化炭素(CO2)で、六五%が化石燃料に由来している(CO2換算で)。
国連によればCO2排出量の国別順位(二〇一六年)では、一位が中国、二位がアメリカ、三位インド、四位ロシア、五位日本となっている。しかし、一人当たりの排出量はアメリカが突出して多い。アフリカ諸国は、総排出量でも、一人当たり排出量でも、非常に低い数字となっている。
ドイツのCOP23対抗アクションのフォーラムに参加して、工業的農業から排出される温室効果ガスが多いことを知り、大変驚いた。食肉・乳製品製造のトップ二〇社が排出する温室効果ガスの量は、ドイツが排出する量を上回っている。二〇一六年のデータでは、温室効果ガスの全排出量の一四%が食肉・乳製品製造によって占められている。その中には、加工・製造・輸送などで発生するものも含まれている。今後も今のような食生活を続けるならば、いくら他でCO2を削減しても、大きな排出が残ってしまう。
(つづく)
The KAKEHASHI
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