パンフレット紹介『埋められた歴史・記憶を探し求めて』

――本部町健堅で出会った東アジアの人びとの記録

健堅(けんけん)の遺骨共同発掘共同作業 
2020年2月7日(金)~12日(水)
「本部町健堅の遺骨を故郷に返す会」記録集編集委員会

 1945年、アジア・太平洋戦争の末期において沖縄全島を殺りくの渦に巻き込んだ戦争の被害者は、沖縄県民、日米両軍の兵士だけではなかった。このパンフレットは「太平洋戦争」の末期、沖縄戦に動員され、命を奪われた「大日本帝国」の植民地・朝鮮半島の人びとの実像を歴史の闇に消えさせてはならない、と行動した人びとの記録である。
 したがってそれは「本土」と沖縄という枠組みを超えて、当時の東アジアの広がりの中で「植民地・朝鮮」の人びとが日本のアジア侵略戦争にいかに動員されていったかという、まだまだ解明しなければならない歴史を、その「欠落部」の掘り起こしを通じて、照らし出していこうとする試みである。それは始まったばかりの作業であり、今後も継続していかなければならない共同の闘いである。
 「大日本帝国」の植民地だった朝鮮の人びとが、沖縄戦にどのように動員を強制されたのかという点について言及した公式記述はほとんどない。その意味でこのパンフ『埋められた歴史・記憶を探し求めて――本部町健堅で出会った東アジアの人びとの記録――』は「帝国日本」の「国内植民地」とも言えた沖縄の側からの、「ヤマト」への挑戦であるとともに、「ヤマト」の人びとに沖縄を通してアジアに向き合い、共に行動することを呼びかける内容を提起しているのではないだろうか。

朝鮮人部隊を
沖縄戦に動員
 このパンフレットは、沖縄本島中部に位置する本部町健堅(けんけん)で、1945年1月に起きた輸送船彦山丸撃沈事件の実相を明らかにするために、2020年2月7日から12日にかけて行われた沖縄と韓国の人びとによる共同作業をていねいに描く。
 このA4判160頁以上(1冊の書籍に匹敵するボリューム)のパンフレットは、「発刊にあたって」(南政珍:健堅の遺骨を故郷に帰す会事務局長)」、第1部「経過報告」(沖本富貴子:健堅の遺骨を故郷に帰す会共同代表)、第2部「共同発掘」(沖縄側発掘担当:沖本裕司)、「フィールドワークと交流」(沖縄側交流担当:中山吉人)、第3部「共同発掘に参加して:北海道から沖縄、そして韓国・台湾にいたる20人におよぶ人びとの感想」と資料から成っている。
 「彦山丸」沈没事件で犠牲になった人びとは沖縄戦に動員された朝鮮人部隊の「水勤隊」だった。この「水勤隊」の実像は、沖縄近現代史研究者の我部政男さんによって掘り起こされたものだ。彼の活動によって当時日本の植民地だった朝鮮の人びとが、沖縄戦でどのような役割を強制されたのかという「解明」が進んでいったことを、本パンフレットの編集者である沖本富貴子さんはパンフレットの冒頭で明らかにしている(「一枚の墓標の写真から、遺骨発掘へ」)。

日本政府機関は
終始完全な黙殺
 輸送船彦山丸は1945年1月22日、本部(もとぶ)方面に駐屯していた独立混成44旅団に物資を海上輸送する作業に当たっていた。その過程で、米軍機の襲撃を受けた彦山丸は火災を起こし座礁、小型舟艇で脱出を図った人びとも米機の銃撃によって死亡し、生存者はいなかったという。しかしそれでは何人が死んだのか、ということは不明であり、その中に朝鮮半島出身者がいたかどうかさえ明らかになっていない。
 この米軍による輸送船彦山丸撃沈こそ、その後の沖縄における「地獄の地上戦」のさきがけを予感させるものだった。彦山丸の戦没者の中に朝鮮半島の人びとが含まれている可能性についてクローズアップされたのは、2017年6月に「琉球新報」紙が報道して以来のことである。以後、韓国のメディアなどでも「朝鮮の人びとの遺骨が戦後70年以上たってから、故郷に帰る可能性」が報じられるようになった。
 しかし厚労省など日本の政府機関の対応は「剣もほろろ」の扱いだった。「日本政府は援護法等で日本国籍の戦争犠牲者については補償をしてきたが、外国籍の犠牲者には適用していない」と。
 まさに日本政府の旧植民地の人たちへの「非道」としか言いようのない仕打ちだ。まあ「サムライ」とは、そういうものなのだろうが。

草の根からの
共同検証作業
 そこで「彦山丸沈没」の実際を探る活動が2017年以後、日本と韓国の双方で取り組まれていった。遺族探しも韓国と沖縄の双方で進められるようになった。
 「第1部 経過報告」の中で沖本富貴子さんは次のように述べている。
 「日本政府は援護法等で日本国籍の戦争犠牲者については補償をしてきたが、外国籍の犠牲者には適用していない。皇国臣民として日本の兵役に就かせ、その時に未払いになっていた俸給もいまだ本人に支払われていない。法務局に供託されたままだ。ましてや犠牲者には補償など一銭もない。日韓協定ですべて解決済みというが犠牲になったことさえ歴史から消えてしまう現実だった」。
 その後、厚労省からも門前払いの状態が続き、「靖国神社」も厚労省への「たらいまわし」を繰り返すだけだった。
 2019年7月になって、ようやく沖縄県が態度を変え、沖縄県援護課から「各県の担当部局と連絡を取り、戦没者の確認と遺族情報を提供してもらっている」との連絡があった。7月27日には「本部町健堅の遺骨を家族に帰す会」が発足することになった。8月にはソウルで「強制動員問題解決のための国際会議」が開かれ、沖本さんは「沖縄戦で犠牲となった朝鮮人の遺骨を遺族に返したい」と訴えた。9月28日には「強制動員真相ネットワーク」の竹内康人さんを招いた学習会を開催し、「日韓両政府が共同で死亡者の調査を進め、遺骨返還に向けて協議を進める」ことが大事である、と確認された。そして12月17日の運営委で翌2020年2月8日から12日までの5日間の日程で共同発掘の実施が確認された。主催は、「本部町健堅遺骨発掘共同実行委」。実行委の構成団体は、韓国の「平和の踏み石」、北海道の「東アジア市民ネットワーク」、沖縄の「本部町健堅の遺骨を故郷に帰す会」の3グループであり、「東アジアの平和のための共同ワークショップ」に参加している台湾のグループも参加することになった。
 2020年2月の共同発掘作業は、2019年10月25日に開催された「健堅での追悼会および『本部町の朝鮮人について証言を聞く』集い」を皮切りに、このパンフレットに多くの写真入りで詳細に記録されている。2019年11月23日から24日にかけて「試掘」、2020年2月8日から12日までの実際の発掘作業には、さらに静内アイヌ協会の人も参加することになった。見つかった遺骨の中で、「彦山丸」事件に関わる「遺骨」として確定できるものはなかった。しかしこの共同作業は、私たちが沖縄、台湾、中国、朝鮮半島、そして日本、アイヌモシリの人びととの平和と尊厳をもって生きる権利を構想する上で、一つのイメージを与えてくれていることは確かだ。
 このパンフレットをぜひとも読んでいただきたい。
(純)

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