映画紹介「ミス・マルクス」(9月20日発行)

監督スザンナ・ニッキャレッリ2020年製作/イタリア・ベルギー合作
末娘エリノアの生涯を何と見るか
マルクスの家族への知識も必要

マルクス伝と
どう出会うか

 9月3日の朝日新聞夕刊で、翌4日から映画「ミス・マルクス」が封切られることを知った。映画評論家の佐藤忠夫が「政治語る人々―楽しいわけは」と題した評を寄せているが、ほぼ意味不明と感じたので読み飛ばし、最終面の広告を熟視した。
 「カール・マルクスの娘エリノア。その知られざる激動の半生が、今明かされる――」という右の側のキャッチコピー、ブレイディみかこ・斎藤幸平・田嶋陽子・信田さよ子と左側の4人のコメントに挟まれ、映画タイトルをはさんで2つの写真が上下に配置されている。「前へ進め」と。
 斎藤幸平は「社会運動の大義のもとで生まれる搾取や抑圧は今も繰り返されている。21世紀のエリノアを生まないために、私たちは歴史から学ばなければならない」と警告コメントしている。『未来への大分岐』(2019年/集英社新書)の55頁の[▼日本版オキュパイ運動と「次なる湯浅」探し]で、マイケル・ハートから「一九六〇年代から続く空港建設反対闘争(三里塚闘争)のような歴史的運動もありますよね」という問いに、斎藤は「湯浅はやがて運動とのつながりを断ち切ることになり―中略―終末を迎えたのです」と饒舌だが、三里塚には一言のコメントもなかった。
 高校時代に不登校仲間のfがいた。欠席の理由は聞かぬまま卒業した。78年3月25日、父親との不仲を理由に家出する友人宅でさいごのパーティーをした。卒業し、大学が決まり、家出が決まり、浪人が決まった青年の話題は三里塚闘争だった。翌日の全国集会のポスターは街じゅうに貼られていた。泊まれる4人ほどは初めての三里塚に行くことにした。このときfの欠席理由を〝噂〟として知った。前年の5月8日にパクられていたらしい…。
 後日、さいごにfと会った際、所属していた組織の救援体制に許せなかったこと、「マルクスは妻以外の女性とのあいだにも子どもがいた」と、その組織に対する怒りがマルクス批判にも重なっていったことを聞いた。これがきっかけで、私はずっとマルクスの伝記的な情報を忌避していた。なお、fが所属していたのは社青同系で、〝マイナー〟な分派だったらしい。

パリコミューン
150年企画?


 作品は、カールの葬儀からエリノアの自死までを描く。
 冒頭はエリノア・マルクスの正面のアップ(前述の広告写真の上段)だ。場面は墓苑で、エリノアは参列した生前のカールの活動を支えたエンゲルスらへ感謝を込めた追悼スピーチを行う。列席者はカールが息を引き取った書斎に集まる。エリノアは蔵書に挟まれたカールの手書きのメモや残された草稿などを披露する。列席者の中にカールへの関心が薄いがエリノアをみつめる劇作家のエドワード・エイブリングを映し出す。列席者が帰ると、書斎にはエリノアとマルクス家のメイドのヘレーネ・デムートが残る。
 やがて、エリノアはヘレーネに、エイブリングと結婚すること。彼は既婚者で妻から離籍を拒否されていることなどを告げる。死の床につくエンゲルスから、デムートの息子の父親はカールであることを聞く。
 エリノアは友人のオリーヴ・シュライナー(岩波文庫『アフリカ農場物語』などの邦訳あり)に、エイブリングが保養先から長く連絡がないことを告げる。オリーヴは別れるべきだと警告して南アフリカに帰る。エリノアはアヘンも常用していたエイブリングの性癖を徐々にだが気づいており、覚悟ができていたようだ。保養先から帰ったエイブリングが寝付いた。これまで忌避してきたアヘンを吸い始め、パンクバンドのダウンタウン・ボーイズがカバーしたブルース・スプリングスティーンの「ダーク・イン・ザ・ダーク」にのせて踊る。これが広告の下段の写真で、自死したことを告げるスーパーで作品は閉じる。
 エンゲルスの散骨の場面では、ポール・ラファルグ(エリノアの姉、ラウラの夫で平凡社ライブラリー『怠ける権利』などの邦訳あり)が追悼の「インターナショナル」斉唱の音頭取りをする。17歳のエリノアは、パリコミューンで監獄に入った。ダウンタウン・ボーイズの「インターナショナル」も挿入されている。
 今年はパリコミューン150年で各地で行事がある。本作はそのひとつかもしれない。ここまで書いたことで、佐藤忠夫の映評の意味不明さが解明できた。パリコミューンの凄惨さと比べ、小市民的で弱弱しくも感じたのだろう。映画館などで入手できるリーフレットには、先述の広告でコメントを寄せた4人以外に、7人の女性のコメントが寄せられている。男性は斎藤幸平ただ1人。11分の1でもなく、10人分でもなく、偶然だったのだろう。
 み終わって、マルクスの家族たちのことは一定の知識をもってから鑑賞すればよかったとの後悔が残った。みすず書房は『エリノア・マルクス1855―1898ある社会主義者の死』(1984年/都築忠七)のオンデマンド版を出したようだ。わたしはどうにか、定価より半額(送料別)の古書の入手ができる。
 監督/脚本はスザンナ・ニッキャレッリ、製作国はイタリア、ベルギー、出演はロモーラ・ガライ。107分。字幕スーパーで、英語が主でたまにドイツ語。もうひとつの音楽グループ、ガット・チリエージャ・コントロ・イル・グランデ・フレッドがよかった。昨年のヴェネチア国際映画祭では本作のサウンドトラックが賞を得ており、日本語版のHP内で視聴できる。なお、全編視聴の場合はアプリケーションのダウンロードが必要。「インターナショナル」は仏語のはず。      (KJ)
https://missmarx-movie.com/

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