読書案内『グリーン・ニューディール』(10月11日発行)

明日香壽川 著 岩波新書/946円
世界を動かすガバニング・アジェンダ
温暖化をどう捉え どう闘うか

 自民党総裁選が熱気を帯びている。18日に日本記者クラブ主催で開催された討論会を報じた翌日の新聞記事には「河野包囲網」などのタイトルが踊った。3人の候補者から包囲され、攻撃されたのは河野の核燃料サイクルの見直しに対してで、具体的には経済的にも成り立たない青森県の六ヶ所再処理工場は操業せず、これによる地元自治体の損失は国が補填するというもの。思い出させる言葉は「最後は金目でしょ」。石原元環境相が後に謝罪した発言だが、この金目的で人びとを分断する手法は、福島第一の汚染水海洋放出で〝風評被害〟が発生した際の処理法法案と同様だろう。
 むつ小河原開発がオイルショックでとん挫し、開発主体の青森県が巨額の損失を被ると、これが補填できるかのように財界は再処理工場の誘致を提案。1985年4月9日の県議会全員協議会で北村知事が受け入れ表明をすると、これが議会承認とされて建設と試験が進んできた。原子力船むつでの二の舞は踏むまい、「核燃まいね」と反対運動が沸き起こった。89年参院選では反対派候補が勝利した。その勢いで91年知事選に挑み、勝利によって「白紙撤回」実現が目の前にきたとき小沢一郎が第3の候補を擁立、反対派票が分散し、北村が再選した。自発的な運動の熱気に冷や水をかける行為だ。
 反核燃運動は労働者と農民、漁民らの様々なコミュニティが共同してきた。漁船を連ね海洋調査実力阻止闘争をし、県内各地から県都青森市でトラクターデモをし、弘前では母親たちがよびかけた定例デモが続き、建設用地の間近で女たちがキャンプを行った。誘致を白紙撤回させるために政治的、社会的、文化的な運動を継続し、操業開始の同意権限をもつ村長選と県知事選には必ず候補を擁立してきた。自民党総裁選で決まる話ではない。

 日本のメディアでは、〝グリーン・ニューディール〟を「グリーン成長戦略」とほぼ同義で使っている。本書「第4章グリーン・ニューディールの考え方および具体的内容」の著述は、2018年11月12日夜からはじまる。全米に散らばるサンライズ・ムーブメントのメンバー250人以上がワシントンの国会近くの教会に集まり、翌日、ペロシ下院議長の議員室の机の上に手紙を置き、そのまま座り込んだ。
 ――すべての封筒の表書きには「親愛なる民主党議員の皆さま、あなたのプランは何ですか?」と書かれており、封筒の中には、気候変動で失われるかもしれない、大切な人の写真や手紙が入っていた。占拠した若者の多くが10代であり、10歳以下もいた。そのうちの51人が「あなたは1人ではないよ」という歌声のなか、1人ひとりプラスチックの手錠をかけられて議事堂警察に逮捕・連行された。(114頁)――
 この占拠時「着ていたお揃いのTシャツに書かれていたグリーン・ニューディールという言葉が一挙にバズワードになった」と、明日香壽川(あすかじゅせん)さんは説明する。
 要求は、①民主党指導部の全議員が化石燃料会社からの寄付を拒否する、②下院にGN特別委員会を設けることの2つ。①に対しては上院議員だったカマラ・ハリスなどがイエス、②は気候危機特別委員会として設置されたという。サンライズ・ムーブメントは15年に10代であった2人が設立した〝政治団体〟で、18年の中間選挙で再エネ派の議員をなるべく多く選出することを目標にした。
 明日香は、グリーン・ニュディールをリーマンショックのあった08年ごろの第一波と、18年以降の第2波に分ける。そして第2波の特徴を、たとえば3つめは〝気候変動による格差の拡大〟、4つめは〝気候変動対策による格差の拡大〟などと8つに分類する(119頁)。4つめの対策の一つであるカーボン・プライシング(炭素の価格づけ、炭素税、排出量取引制度)は逆進性を持つため、導入の仕方を間違えると低所得者層により大きなマイナスの効果を与えると第6章でさらに詳述する。

 ――温暖化懐疑論との出会いは、二〇〇六年に筆者が属する環境経済・政策学会で物理学者の槌田敦氏との討論となったことに遡る。(29頁)――
 この討論で、槌田さんは温暖化の原因は人為起源のCO2ではないと主張し、著者は反論。槌田さんの「では公開の討論会をしましょう」という申し出を承諾。他の研究者の助力を得て討論会を行い、東大の研究組織から報告書を出した。槌田さんは「東大という公的機関が温暖化問題に対する一方的な議論のみを載せた出版物を無償で出したのはけしからん」と、出版時と当時の東大学長2人と明日香さんを被告として東京地裁に提訴、裁判は原告敗訴となった。この槌田さんの裁判闘争を、東京のたんぽぽ舎に集う活動家などの多くが支持・支援してきた。
 明日香さんはこの裁判で、研究室を出てたたかう研究者の矜持を得たのだろう、研究の場を東北大に移ると、仙台パワーステーション操業差止訴訟原告団の事務局長を担った。1審は敗訴、2審は明日香さんが弁護士をたてずにたたかっている。(1審については、本紙2608号「仙台PS石炭火発の運転差し止めを」参照)
 229頁から、斎藤幸平さんの『人新世の資本主義』を読んで、「どうかな」と思った点を具体的に6点、広く読まれたことでの2つの心配を次のように書く。
 1つ。「再エネや省エネは意味がない。その代わりに脱成長的なコミュニズム的な考え方をすれば温暖化対策は問題ない」、これでは氏の本を読んだだけでは、多くの人は、今すぐに具体的に何をやればよいのかわからないだろう。
 2つ。「再エネや省エネは意味がない。コミュニズム的な考え方や生活はいやだ」の場合、CO2排出削減はまったく実施されない。多くの人が再エネ・省エネの導入に否定的になることで、結果的に温暖化対策を大きく遅らせてしまう結果を持つことを危惧する。
 斎藤幸平さんは明日香さんの指摘に対し、岩波の月刊誌「世界」10月号で次のように述懐する。
 ――脱成長論は当然ながら不人気だ。脱成長の主張がいくら倫理的に正しくとも、この不公正な世界では主流派になれない。そのせいで、「切迫感が乏しい」理想論のように聞こえてしまう。これが脱成長のジレンマです。(100頁)――
 ――再生可能エネルギーなどへの大型投資や省エネ化が必要だし、そのおかげで私たちは江戸時代に戻る必要がない。そのようなポジティブな面をもっと打ち出すべきだったかもしれない。(107頁の注8)――
 斎藤さんは、ドイッチャー賞受賞の『大洪水の前に』では、「社会主義」という活字をちゅうちょなく使用していたが、2つの集英社新書では避けているようだ。共産主義という和訳をカタカナに戻したイメージ、明日香さんのように真剣に考え、オープンにして指摘するほど影響力がある。
 あとがきを読むと、明日香さんはFridays For Future(未来のための金曜日)のアドバイザー的位置にいるらしいとの自覚があるようだ。岩波新書の読者の想定は〝一般(大学生以上)〟で、高校生で学ぶ基礎カリキュラム以上の知識は必要だ。理解したつもりになるには、夏休みいっぱいはかかったかもしれない。データの出所・原典を確認すれば、自公政権の政策を論破できる内容の豊富さがある。
 先日、本紙を論争に使えという意見が寄せられた。論争の仕方はいろいろあるだろう。短期的には間もなくはじまる総選挙に間に合わなくとも、12月1日から開始するCOP26までには一読してほしい一冊だ。
    (9月19日 KJ)

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