投書DVD「ミナリ」を観て

韓国からのアメリカ移民が直面した現実を問う

 ツタヤで借りて「ミナリ」(監督 リー・アイザック・チョン、原題 MINARI、アメリカ、2020年製作、116分、字幕翻訳 根本理恵)のDVDを観た。映画館で観た時は、体調が悪くてウトウトしてしまったので、DVDになったらもう1回観てみたいと思っていたのだ。
 「ミナリ」は「カリフォルニアからアメリカ南部のアーカンソー州の高原に移り住み、ひと山あてようと韓国野菜を栽培する家族が主人公となっている」(李里花さん・中央大学准教授、パンフレットから)。ジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は「農業で成功することを夢見てい」るが、妻のモニカ(ハン・イェリ)とはケンカがたえない。2人には子どもが2人いる。長女のアン(ネイル・ケイト・チョー)と「心臓に病を抱える」弟のデビッド(アラン・キム)だ。そこへ「料理は全くできず字も読めない。唯一の特技は花札」というスンジャ(モニカの母、ユン・ヨジョン)がやって来る。5人はアメリカで幸せをつかむことが出来るのだろうか。そういう話が描かれる。  
 この映画は「半分以上の会話が韓国語で交わされる」(永千絵さん・映画コラムニスト)アメリカ映画だ。タイトルの「ミナリ」は、「韓国語で香味野菜のセリ(芹)を意味する」。「デビッドのおばあちゃんが誤って火事を起こしてしまうくだりは、チョン監督が経験した実話に基づいている」(「PRODUCTION NOTES」)。
 「ミナリ」は、「国籍や宗教を越え、アメリカにやって来た移民の最初の一歩を思い起こさせるとして、アメリカでの公開後、多くの観客の支持を得ている」(金原由佳さん・映画ジャーナリスト)。

アメリカン・ド
リームの現実
 チョン監督は、スンジャ(モニカの母)を演じたユン・ヨジョンについて「正真正銘のアーティストで、この道の第一人者。抜群の勘とスキルを備える、最も偉大な俳優のひとり。アメリカでももっと知られて当然の俳優だ」(同)といっている。
 ユン・ヨジョンは、2021年の第93回アカデミー賞で助演女優賞を受賞している。ユン・ヨジョンは2019年製作の韓国映画「チャンシルさんには福が多いね」(監督 キム・チョヒ、96分、原題 찬실이는 복도 많지 )にも出演している。
 ジェイコブを演じたスティーヴン・ユァンはインタビューで「今確実に言えることは、アメリカン・ドリームは、特定の人たちにとってのみの現実だということ。この物語は、それを見事に描き出している」と語っている。「本作の第一のテーマは“家族”だが、もうひとつのテーマに“大地”がある」(同)。
 チョン監督は、「……農業は常に一定のリスクを伴うけれど、それを描いている映画は非常に少ない。だから、そういう部分を見せたかったし、それと対比して自然が優しさを見せてくれる部分も表現したかった」と解説する(同)。
 「チョン監督は、アメリカ文学からも影響を受けたと明かす。特に参考にしたのは、……フラナリー・オコナーの小説だ」(同)。「さらにはウィラ・キャザ―の作品も参考にしたと言う」(同)。
 李里花さん(中央大学准教授)はのべる。
 「韓国からの移民は1970年代から徐々に増え、この映画の舞台となる1980年代には毎年3万人を超える人びとが移民するようになった」。「アメリカ国内の朝鮮半島をルーツにする人の数は、1970年に7万人程度であったが、2018年には190万人に達している。アジア系の中で中国系、インド系、フィリピン系、ヴェトナム系に次ぐ5番目に人口が多い移民となった」。
 「……韓国は停戦状態にあり、軍事独裁政権が1961年から1986年まで続いた。治安維持という名の下で、学生や労働者のみならず、朝鮮半島の北部を出身とする人や熱心なキリスト教信者なども監視下に置かれた。また当時は大学を卒業しても男性の6割から7割、女性の4割から5割しか職に就けない時代だった。たとえ就職できても、階級社会のため一部の限られた人にしか社会的地位の上昇が叶わない。このような社会事情から、アメリカに移民した人は社会的に疎外された人から高学歴者までさまざまな背景をもった人たちによって構成され、その多くは自分の力で未来や将来を切り拓く可能性を信じてアメリカに移民しようとした人たちであった」。
 「また、この他に米軍基地を抱える韓国では、米軍関係者との結婚を通してアメリカに渡った女性も多く、その数は10万を超えると言われている。しかし競争が激しいアメリカ社会では、英語が流暢に話せることやアメリカの学位をもっていることがホワイトカラーの職に就くための暗黙の条件となっている。高学歴であっても韓国の大学を出て、訛りのある英語を話す韓国系移民の多くは単純労働の仕事にしか就けなかった」。
 「……移民や人種民族的マイノリティは、昇進も社会的地位の上昇も難しいアメリカ社会の現実がある。『普通』に働くだけでは、アメリカン・ドリームは夢に過ぎない現実を肌で感じていった。こうした中、商売を始めて一国一城の主となり、経済的な豊かさを目指す移民が多く現れた。韓国系は小さな商店を営む人が多く、都市部はもちろん、競争が激しい都市部を避けて商店を開くことも多かった。アメリカ全体で自営業に就く人の割合は80年代において9~10%であったが、韓国系は1980年に16%に上り、1990年には24%に達している。これは他のどの移民よりも高い数値である」(「COLUMN アメリカン・ドリームの背景にあったもの」)。

差別・暴力の
ない社会とは
 すべての韓国人・朝鮮人が幸せになれる世界が実現するように。「外国人」や「外国」出身の人も「そうでない人」もひとしく幸せになれる世界が実現するように。いい意味で「格差がない世界」が実現するように。私は、この映画を観てそう願わずにいられない。ウィシュマ・サンダマリさん、私はあなたが入管に殺されるのを阻止することが出来なかった。本当にごめんなさい。
 必ず「差別も暴力も許されない世界」を実現しよう。「格差も死刑も戦争も内ゲバも許されない世界」を実現しよう。「不正義だらけの世界」を根本的に変革しよう。
    (9月26日/SМ)

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