11.5アジア連帯講座
「香港はいま『香港の反乱』出版にあたって」
闘いの意義と未来を展望する
若者たちの思いにつながろう
11月5日、アジア連帯講座は、全水道会館小会議室で「香港はいま『香港の反乱』出版にあたって」をテーマに公開講座を行った。
講師は、新刊「香港の反乱2019 抵抗運動と中国のゆくえ」(著者・區龍宇/訳・寺本勉/柘植書房新社)の発刊に協力した稲垣 豊さん(ATTAC首都圏)。
「香港の反乱2019」著者の區龍宇さんは、2019年12月、「#FIG
HT FOR HONG KONG @ 2019」の招待で来日し、文京シビックセンターで緊迫した香港民主化闘争の中、「香港に自由と民主主義を~沖縄・日本・アジアのなかで」をメインに学生の陳怡(チェン・イー)さんとともに報告している。
また、稲垣さんは、民主化闘争の真っ只中の香港に駆けつけ、デモ、仲間たちとの交流を行ってきた。
香港は、どのような状況なのか。中国共産党による香港国家安全維持法(国安法)施行(2020年6月)後、香港当局は民主派への弾圧を強化してきた。政治団体、学生、メディア、教育界などの民主派団体の解散を強要し、多数の人々が香港警察に不当逮捕された。
とりわけ中国共産党政権、香港当局に対して批判してきた蘋果[ひんか]日報(リンゴ日報)が21年6月24日、廃刊に追い込まれ、創業者の黎智英氏が国安法違反などの容疑で逮捕(20年8月)され、幹部も相次ぎ逮捕された。日報社の資産凍結なども強行し資金繰りができず廃刊に追い込んだ。
さらに「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)幹部4人も国安法違反容疑で逮捕された(21年9月8日)。支連会は、天安門事件(1989年6月)に対して90年から犠牲者を追悼する大規模集会を香港で毎年開催してきた。当局は、民主派徹底弾圧を広げていくために不当逮捕を強行し、解散に追い込んだ。
このような弾圧を積み上げたうえで9月19日に行われた香港の選挙委員会の委員選挙が行われた。この選挙委員会は、12月の立法会議員選挙(定数90)で40議席を選出し、来年3月には次期行政長官を選出する。だがこの委員選挙は、事前に資格審査委員会で愛国者であるかどうかの審査を行い、民主派を排除し、親中国派で固めた。投票資格者も当局が認めた約4900人でしかない。しかも当局は、6000人の警察官を投票会場周辺に配置し、圧力をかけながらの投票だった。まさに中国共産党翼賛体制作りへと踏み込んだ。
一連の民主派弾圧プロセスをみると中国共産党と香港当局によって親中国派で制圧されてしまったかに見える。だからこそ區龍宇さんは、「香港の反乱2019」の中で「香港の未来が現状から直線的に発展していくと想像すべきではない。われわれは思いがけない事件や衝撃に備えなければならない。闘いは依然としてわれわれの先にある」、「将来の好機をつかむためには、2014年と2019年の両方の経験を通して考え、正しい教訓を引き出すことが必要である」と世界の仲間たちにメッセージを発信し、新たなスクラムの構築を呼びかけている。
講座は、區龍宇さんの呼びかけに応え、稲垣さんとともに模索していくスタートとして行われた。
なお稲垣さんは、以下の資料を配布した。
①現代中国研究第46号(中国現代史研究会) ②Wedge (ウェッジ)2021年 11月号 「中国を変える“中国人”」─「北京対香港」を乗り越え 連帯を訴える不屈の左派論客─區龍宇 ③「香港民主化運動の源流:民主回帰派、本土派、民主自決派、そして左翼」(『現代の理論』2020年号)
稲垣さんの報告から
「2019年反乱」とは
區さんは、1997年7月1日、香港返還デモで「主権在民 民生改善 中国と香港の人民が一緒になって闘おう」というスローガンを掲げていた。
2019年の闘いの中では、中国と香港の人が一緒になって民主化を求めよう、というスローガンはほとんど見られず、中国は香港に関わるなという香港本土派の主張が強かった。區さんは、一貫して中国の民主化がなければ香港では民主化はできないと主張していた。2019年の運動の中では、ごく少数の主張になってしまった。一都市だけで革命はできない、香港民主化運動の最大の友軍は中国の人たちだと訴え続けてきた。
2019年の反乱とはなんだったのか。最大200万人のデモがあったが、その公約として五大要求(①逃亡犯中国送還条例案を撤回せよ②抗議行動参加者を「暴徒」と呼ぶのをやめろ③抗議行動参加者への刑事告発をやめろ④警察の行動についての独立した調査をおこなえ⑤立法選挙と行政長官選挙の両方で、真の普通選挙を実行せよ)としてまとめた。
条例案は、中国の刑法に違反し容疑者となり、香港に行くとその時点で逮捕し、中国に送還できるというものだった。1月からこの条例案は、おかしいということでデモが拡大していった。
6月12日の議会で可決されてしまいそうになった時、1万人のデモを行っていた。だが議会の多数は、政府側なので可決の危険性があったため、議会の周辺に若者たちが泊り込んだりして議会開催を阻止した。機動隊との衝突があり、行政長官は「暴徒だ」と批判した。民衆は、そのような不当なレッテルを撤回しろと抗議した。
「真の普通選挙を実行せよ」という要求は、香港が1840年からイギリスの植民地、1942年から日本の植民地、大戦後もイギリスの植民地で議会がなかった歴史が続いてきたことを反映している。イギリスは、中国と一国二制度(中国の制度を50年間導入しない)を約束して1997年に返還した。今の議会制度は、中英交渉が始まった90年代につくられたものが原型でイギリスの権益を残すことが目的だった。民主派は、その議会を利用しながら直接選挙で民主派の議席を要求していった。1959年、イギリスのパッテン長官は、全て民主化すると言ってほぼ普通選挙に近い制度が導入された。だが2年後に中国に返還され、すぐに議会は凍結され、親中派でかためた臨時議会が開設され、さまざまな民主的制度が植民地時代の状態にもどされてしまった。97年以降、英国女王が任命していた香港総督がいなくなり、行政のトップである行政長官を間接選挙で選ぶようになったが、様々な規制条件とセットで、基本法で約束された「普通選挙」は実現しないままであった。
民衆は、植民地時代から一人一票の直接選挙運動を要求しつづけた。
2010年に雨傘運動があった。これも普通選挙を求める運動だった。学生たちが中心だった。3カ月ほど巨大なオキュパイ闘争が展開されたが最後に、排除されてしまった。これ以降、香港ナショナリストが登場する。「香港雨傘運動 プロレタリア民主派の政治論評集」(區 龍宇/早野一訳/柘植書房新社/2015年9月)にもその経緯が記されているので参照してほしい。
弾圧強化と運動後退
2019年6月の議会包囲闘争以降、数回にわたって200万人デモが行われた。だんだん弾圧が厳しくなり、「水になれ」という機動戦をやっていたが、より弾圧がエスカレートし、大学籠城戦に至ったが敗北してしまった。その後、区議会選挙で民主派は圧勝する。2020年1月、100万人デモで反撃していった。
しかし6月30日、中国共産党による香港国家安全維持法(国安法)が施行(2020年6月)され、運動が萎縮してしまった。これまで弾圧され、不当逮捕されたのは1万250人だ。そのうち2500人が起訴され、614人が暴動罪とか、違法集会とかの刑が確定し、そのうち295人が収監されている。
7月1日は、毎年、香港返還の日で、政府は祝典、民主派はデモをやってきた。去年のこの日は、数十人が国安法で逮捕されてしまった。その後、20年6月30日~21年6月30日までに100人以上が逮捕されている。議会選挙に向けた民主派の予備選挙に対しても国安法違反で55人の候補者を逮捕した(47人起訴)。
米トランプを支持していたアップルデイリー(香港の大衆紙)の創業者、役員らも国安法違反で逮捕している。6月24日に廃刊となった。
20年7月、当局はコロナ感染が拡大していることを口実にして、公共の場で集まってはだめだという規制を行ってきた。7月1日にデモが行われたが、無届デモだとして弾圧してきた。現在、153人が国安法で起訴されている。
香港の民主派各団体(50以上)、労働組合(教員労組や民主派ナショナルセンターなど)も、国安法でテロ団体と認定されてしまう可能性があるとして「自主解散」してしまった。6・4天安門追悼集会を続けてきた支聯会も解散してしまった。これは中国政府にとって念願の一つだった。1989年、天安門事件直後の香港中国民主化支援デモは100万人だった。
この間民主化デモを呼びかけてきた運動のプラットフォーム「民間人権陣線」も先日、解散してしまった。毎年、7月1日の香港返還日にデモを行ってきた団体だ。2003年に50万人デモを組織した。2019年デモでは大きな力を発揮した。中心人物は、予備選挙に立候補したということで逮捕されている。
民主化運動では、じつは労働組合も頑張った。植民地時代から労働法制は脆弱で、団体交渉権も法的に保障されておらず、最低賃金や労働時間規制もなかったが、植民地時代の90年に香港職工会連盟(職工盟)を結成し、親中派や中立系のナショナルセンターに対抗して、さまざまな待遇改善をかちとってきた。だがこの工盟も先日、解散に追い込まれた。
2019年8月には地域を中心して集会を積み上げ、ほぼ初めての政治ストを打った。キャセイパシフィックの航空労組がストに起ち上った。その後、中国政府の意向を受けた経営側からの解雇攻撃、そして予備選挙に立候補した委員長、キャロルさんも逮捕された。
普通選挙の要求
「五大要求」の最大の要求が普通選挙だった。当時の香港議会の定数70議席のうち35議席は、中選挙区の直接選挙枠。のこり6議席は区議会からの選出となっている。29議席は、29業界や社会組織から一人ずつ議員を選ぶ職能制枠となっている。職能選挙枠は産業界や中国政府の意向を反映する。香港政府は21年3月に、議会改革として70議席から90議席にするとした。しかし新設された選挙委員会からの選出枠(40議席)は中国政府の意向が強く働く。より民意が反映する改革だと言っている。しかし増加した300人は中国の全人代や協商会議の香港代表などで、当然中国政府の意向が強く反映される。また従来は区議から100人あまりが選挙委員に選出されていた。2019年11月の区議選挙で民主派が圧勝していたので、区議からの選出はやめて、消防委員などの「地域代表」から選ぶとしたが、これも香港政府の意向が強く反映された人選になるだろう。
行政長官に立候補するには中国政府の意向が強く反映されたこの選挙管理委員から一定数の推薦が必要になる。立候補資格審査委員会を作り、中国憲法と香港法に則る愛国者でないと立候補できない仕組みになった。香港独立派や自決派、民主派の議員宣誓は虚偽だということで議員資格をはく奪する、民主派は、制度圏内の取り組みができなくなってしまった。
運動内部の民主主義
「香港の反乱2019」のポイントは次の点にある。
①2019年の運動と1989年の北京の春は、負けたが類似性がある。闘争の歴史を残すことが重要だということ。
②リベラル派は、50年香港が変わらない一国二制度を承認してしまった。植民地支配、資本主義はそのままで、労働者が無権利な状態を認めてしまった。そして中国と香港は違う世界だという、思想的には、香港本土派とつながるところがある。
②中国の民主化がなければ香港の民主化運動は勝てないだろう。また中国を越えて世界的に民主化運動が進まなければ香港の民主主義を作れないというのが區さんの主張だ。
③區さんは、97世代(20代前半)の役割について強調している。雨傘運動、2019運動、実力闘争へと押し上げた世代だ。リベラル派にはできなかったことだ。
④労働組合は、民主化運動を取り組むとリベラル派と一緒にならざるをえない。だから妥協路線に引っ張られる。2019年は、若者たちの闘いによってリベラルを乗り越えた活動家も登場した。組合活動家も政治ストを呼びかけたりもした。ゼネストはできなかったが、拠点組合ではストライキを行い、民主化運動と労働運動は一体であることを示した。
そして2019年8月5日には、ストライキや18地区の地域集会で30万人の集会などを実現した。若い組合員たちが奮闘した。教員労組、社会福祉労組、航空労組などの組合、少数組合も生まれ、果敢に闘った。その後、解雇などの報復弾圧、逮捕などが強行された。
香港にコロナ感染拡大するのが、20年1月からだが、新しくできた公立病院労組は、中国政府の意向を気にして断乎としたコロナ対策を打てなかった香港政府の検疫体制を批判して、コロナ・ストを打った(20年2月3日~7日)。医療従事者は2019年のデモで負傷した活動家らに共感してきたこともあり、6000人ぐらいを組織した。当局に対してコロナ対策を強化せよと要求した。民主化闘争の渦中で組合を結成、そして政治ストライキを行った。規模は異なるが、こんな事態はかつて国民党と共産党が指導した1925年の省港ゼネスト以来、香港では100年ぶりではなかったか。
だが弾圧も激しい。予備選挙に立候補した公共病院労組の委員長のウィニーさんや民主派ナショナルセンター工盟の委員長のキャロルさんは(ともに女性)、予備選挙に立候補したことで国安法違反でいまも獄中にいる。
⑤4章、5章は、運動内部の論争について取り上げている。ナショナリストとの論争、自然発生性と指導者、香港アイデンティティについて紹介されている。
例えば、「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」というスローガンは、今回の運動で大いに使われたが、そもそも右翼本土派の選挙スローガンだ。本土派やアップルデイリーも米大統領選挙であからさまなトランプ支持だった。これら運動の限界をどう考えるのか。左翼はいかに介入するのかなどの総括や論争はつきない。
さらに民主派と本土派が対立したとされるポスト雨傘運動の反省から(実際には民主派が本土派を攻撃したことはほとんどない)、今回の運動では「分裂しない」という雰囲気が運動の中に定着したが、それは一方では「論争しない」とも受け止められ、運動方針や路線の違いを批判したり論争すると、「分裂をたくらむのか」と逆に批判される状況があった。それは最終的には、より過激な路線を主張する声の大きな人々がイニシアチブをとることにつながったという。運動内部の民主主義をどのようにつくっていくのか、考えさせられる内容だ。(発言要旨、文責編集部)
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