論評 「100分de名著」で『資本論』がアンコール放送-NHKEテレ
NHKEテレで毎週月曜日の夜に放送される「100分de名著」で、今年1月に放送された「カール・マルクス『資本論』」の再放送が12月6日からはじまる。翌月の放送に合わせて発売されるテキストを店頭でみかけて再放送を知った。番組の講師とテキストの著者は、言わずと知れた経済思想家の斎藤幸平さん。
今年1月の放送を知った際、テキストの購入を知人らに促した。昨年2月放送の「ヴァーツラフ・ハヴェル『力なき者たちの力』」のテキストが大手書店の週間ベストテンにランクインしたことを思いだし、本体524円+税と安価なこと、斎藤さんの『人新世の「資本論」』が当時で10万部近く出荷されているベストセラーであることから、「書店で売り切れになる可能性もある」と促したのだった。週1回の会議を開催する組織細胞があったならば、青年らの格好のテキストになっただろうとの思いもあった。また、知人宅を訪問した際、手土産にしたが返されたこともある。
現在のテレビ放送のあり方に対して、否定的意見が私たちの論議の中で多数であるべきだと思う。なかでもNHKに対しては、政権交代や政府方針の更新の際に監視し、どのような対応をすべきかを提起し続けなければならないだろう。右派ポピュリストのN党の伸長に直面した近年では必須であったはずだ。この点は、多くの読者からの投稿を期待する。また、4回の再放送が終了した後で、投稿を寄せてほしい。
本稿では、①NHKにとっての『資本論』、②テキストの編集と放送の編集、③雑感などについて触れてみたい。
NHKと『資本論』
国家プロパガンダの象徴のようなNHK大河ドラマの第60作となる『青天を衝け』は、〝日本資本主義の父・渋沢栄一〟の生涯を描き、21年2月14日に放送を開始した。渋沢栄一(1840―1931)は近々1万円札の肖像となるという。ちなみに、渋沢とカール・マルクス(1818~83年)の生涯で重なるのは43年間、『資本論』は1920~22年に邦訳・出版されていたようだ。〝邦訳100年〟をNHK100分のテーマにしたとの記述はさすがに見当たらない。21年に自民党総裁に選出された岸田文雄は「新しい資本主義」として分配の見直しを唱え、第二次安倍政権の官製春闘をなぞっている。
NHKのHP内などを探ってみた。斎藤さんは、数年前からNHKには出演していた。18年にマルクス・ガブリエルが来日し、その際の映像が『欲望の哲学』という番組が製作・放送された。このときに斎藤さんは通訳だったらしい。この出会いをきっかけに集英社新書『未来への大分岐』での対談につながったようだ。21年8月、「SWITCHインタビュー達人達」という番組で宝塚歌劇団出身の俳優・柴咲コウさんとの対談を行っている。HPでは、斎藤さんを「マルクス研究期待の星」と紹介、柴咲さんは大河ドラマ主演経験者でもある。NHK地域づくり情報局のブログにインタビュー記事が9月に前後編と2回にわたって掲載している。このページの短い紹介文に「日本をリードする知の巨人たち」とあるので、NHKは「知の巨人」のひとりが斎藤さんだという位置づけがある。番組ごと(NHK内の部署ごと?)に、様々な出演形態があるようだ。これは報道局になるのだろうか、平日夜9時台放送の総合ニュース番組では9月、「いま『資本論』が熱い」と題した特集を報じ、書店の特集コーナーや各地の読者会と参加者のインタビュー、映画『マルクスの娘』の紹介と監督インタビューを放送している。
出版のために書かれた原稿にも、撮影された映像にも編集が施される。あるいは、放送された内容を文字起こしして出版物に仕上げることもある。「100分de名著」は前者であるようだ。テキストと読み比べながらダビングした1月放送のDVDを視聴すると、テキストにはない放送が、テキストから外れた放送がある。テキストの著者は斎藤さんだが、出版社に編集権があるので、原稿から削除され、訂正された文章がそれなりの分量であったことだろう。出版されたテキストと放送で一致するのは、『資本論』の朗読文章だろう。これは斎藤さんがドイツ語から訳出したものだ。
放送では、局アナとタレントの伊集院光さんと斎藤さんとの対談だ。これは当然にも出版物のテキストには対談はない。関係者だけが共有し、視聴者から分断された放送用の台本は別にあるはず。対話によって生まれる想定外の発言が、番組や出演者に対する好感度を生むのだが、どうだっただろうか。
『人新世の資本主義』の出荷部数では、この1年間で5倍程度にはなっただろう。NHKが再放送する理由のひとつは、この集英社新書のロングセラーと読者の増加をあてこんだのだろう。ところで、11月放送には直前ともいえる差替えがあった。実際に11月に放送されたのはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の再放送だったが、当初予定されていたのは村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』のようだ。ロシア・東欧文学研究者の沼野充義さん執筆のテキスト発売が予定されていた。ドストエフスキーは今年11月11日に生誕100年だった。「12月は村上春樹」と思って書店でテキスト売り場に向かったが、あったのは『資本論』の再放送テキストだった。
このテキストと放送を、新たな資本主義のプロパガンダに終わらせるか、新たな資本主義をつぶすために利用するのか。本紙読者のたくさんの意見を知りたい。
(11月28日KJ)
月曜日夜の放送は、水曜日早朝と昼に再放送される。
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