読書案内『靖國神社と聖戦史観――A級戦犯こそ靖國にふさわしい』

内田雅敏著 藤田印刷エクセレントブックス 900円+税

 弁護士の内田雅敏さんの最新の著作である本書は、天皇制日本帝国主義のアジア侵略戦争にあたって、人びとを戦争に動員する上で重要な宗教的・イデオロギー的役割を果した「靖國神社」について、あらためて分析と批判を行おうとする思いから執筆された。「はじめに」の項が、2019年のラグビー・ワールドカップから始まっているのは、ラグビーファンである内田さんらしい。
 実はワールドカップと同じ時期に、防衛省主催の「国際防衛ラグビー競技会」が陸上自衛隊朝霞駐屯地などで行われ、日本の自衛隊、英国軍、ニュージーランド国軍など10カ国の軍隊が競いあった。その中で英国軍チームが靖國神社を訪問・参拝し、「戦争博物館」である遊就館も見学し、日本の自民党国会議員や、右翼団体から感謝・賞賛をあびた、という。一方、こうした動きに対して駐日英国大使が厳しく叱責したとされる。当たり前のことだ。
 いずれにせよ「靖國問題」は、日本の侵略戦争にどのような歴史的批判を行うのかをめぐるホットなテーマであり続けていることは間違いない。それは決して、日本の侵略戦争・植民地支配によって被害をこうむった中国、朝鮮、韓国やアジア諸国の人びとからの批判にとどまらないことを忘れてはならない。
 なお出版社の藤田印刷エクセレントブックスは北海道釧路市の地域出版社で、代表の藤田卓也氏は、死刑判決を受け病気で獄中死した東アジア反日武装戦線の故大道寺将司の古くからの友人だったという。

「聖戦史観」に
貫かれた靖國
 国際的なラグビー大会のエピソードで始まった本書は、全体として3部構成になっている。第1部は「靖國神社とは」と題する総論であり、「靖國神社の創建」、「『聖戦史観』に拠る靖國神社」、「靖國神社の宮司辞任騒動が明らかにした戦死者の『魂独占の虚構』」、「遊就館の展示」、「靖國神社を支えた援護行政」、「靖國神社と昭和天皇の参拝」の各章から成っている。
 第2部は「歴代日本政府の歴史認識と靖國神社」で、「歴代日本政府の歴史認識と真逆な靖國神社の聖戦史観」、「三木、中曽根、小泉、安倍、菅首相らの靖國神社参拝、供物の奉納」、「靖國神社参拝についての中国、韓国の怒り」、「靖國神社参拝に欧米からの批判」、「靖國神社の『聖戦史観』と重なる安倍史観」、「東京裁判とA級戦犯の合祀」、「A級戦犯分祀論の不毛」各章から構成される。
 第3部「靖國問題の解消に向けて」は「「特攻平和記念館」で涙を流すだけでよいのでしょうか」、「遺族の死者への思いに依拠して生き延びた靖國神社」、「『靖國問題』を克服できない戦後市民革命の欠如」、「死者たちの声に耳を傾ける国立追悼施設を」の各章と補章から成っている。
 内田さんのこの新著は、「聖戦」とされたアジア侵略戦争の歴史的経過と真実が、膨大な歴史資料に基づいて否定しようもなく明らかになっていることと反比例する形で、「自虐史観」批判や、中国や朝鮮・韓国による「歴史偽造」といった言説が幅をきかす風潮が拡がっていることへの、正面からの異議申し立てである。

どう問題にす
べきなのか?
 およそ左翼ではない、むしろ左翼批判の論客でもある梅原猛による、明治以降の神道のあり方への批判をも内田さんは引用している。
 「靖國神社はどう見ても日本の神道の正当な継承者であるとは考えられないと思う」「明治政府は神道を国教にしたように見えて、しかし、神道を完全に、無思想にして国家主義の日本的現われ以外の何物でもないものに変化せしめたのである」「明治の日本は、神道から国家主義に必要なもののみを切り取って宗教をつくりそれをあたかも悠久の昔から、もっともすぐれた日本の伝統宗教であると見せかけようとしたのである」。
 梅原の「靖國批判」はさらに続く。「明治の国家神道は機能的に、伊勢神宮、明治神宮、靖国神社の三位一体の信仰として成立したと見られるが、皇室の祖先神、伊勢神宮、現在の皇室神、明治神宮、それにその国に命を捧げた兵士を祭る靖国神社、すべて伊勢的な神社で出雲的神社ではないのである。ここに正に、自国の拡張しか考えることの出来なかった明治の日本の余裕のない精神が現れている」と。
 余計な方向にいってしまいそうなので「伊勢か出雲か」の話は、ここでストップ。
 内田さんの結論は次のようなものだ。「今からでも遅くありません。軍人、軍属であった人たちだけでなく、すべての戦没者を追悼する無宗教の国立追悼施設を設けるべきです。但しそこでは戦没者に感謝したり、戦没者を称えたりしてはなりません。称えた瞬間に戦没者の政治利用が始まり、戦没者を生み出した者の責任が曖昧にされます。戦没者に対してはひたすら追悼し、再び戦没者を生み出すことをしないという誓いがなされなければなりません」。

司法判断の限
界突破こそ
 その点では、2004年4月7日の福岡地裁判決(亀川清長裁判長)を内田さんは高く評価している。同判決は、靖国参拝の違憲性を判断しつつも、「不法行為は成立しない」として原告敗訴の判決を下したが、同時に次のように述べている。
 「本件参拝は、靖国神社参拝の合憲性について十分な論議も経ないままなされ、その後も参拝が繰り返されてきたものである。こうした事情に鑑みるとき、裁判所が違憲性について判断を回避すれば、今後も同様の行為が繰り返される可能性が高いと言うべきであり、当裁判所は、本件参拝の違憲性を判断することを自らの責務と考え、前記の通り判示する」。
 「違憲だが原告敗訴」とするこの判断は、きわめて異例で複雑な論理展開をみせている。
 問題は、この制約を突破するためには何が必要か、ということであろう。最終的には「世論と運動の力」ということになる。
 ただその上で、大規模な非宗教の「国立追悼施設」自体が必要なのか、という思いもあるのだが、ここではそれ以上は踏み込まない。        (純)

【訂正とおわび】前号「かけはし」4面「石木ダム建設反対」の記事の集合写真は間違えて使いました。関係者にご迷惑をおかけしました。おわびします。同投書の4ページの最後の行の「カラマーゾフ万歳!」は「カラコーゾフ万歳!」に、3段目前から27行、ロシア文学者を、「ロシア文学者、に訂正します。

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