「鳥取ループ」による「全国部落調査」復刻版事件 東京地裁が出版差し止め命令

控訴審完全勝利へ連帯強化を

差別とヘイトを許さない闘いを

東京地裁判決の骨子

 2021年9月27日、東京地裁民事第12部で、全国の被差別部落の地名をまとめた書籍の出版と、ネットへの掲載をめぐって争われた裁判の判決があった。
 「示現舎(じげんしゃ)」なる川崎市の出版社が2016年2月、全国5367地区の地名リストを記載した戦前の報告書「全国部落調査」の復刻版(以下『復刻版』)を販売すると告知した。翌3月には、同社サイト上に都道府県の地名一覧を誰でも閲覧できるように掲載した。さらに部落解放同盟幹部らの生年月日、電話番号などもアップした。
 これらの行為が差別を助長し、プライバシー侵害となるのは明白である。部落解放同盟と幹部ら234人が示現舎を相手取り、出版・公開の差し止めと情報の削除、さらに約2億6500万円の損害賠償を求めていた。法廷闘争は5年間に及んだ。
 成田晋司裁判長は、「公開は公益を図る目的でないのは明白」だとし、「プライバシーを違法に侵害する」と認めた。被告・示現舎に、出版・公開の差し止めに加えて、同社代表のM(鳥取ループ)に、原告219人に対する合計約488万円の賠償を命じた。被告は「地名リストの公開を禁止することは、研究や表現の自由の侵害」などと主張したが、判決は「地名公開は社会的に正当な関心事とは言いがたい」と結論づけた。
 同判決は、①「復刻版」の25都道府県分について出版差し止めと、ネット上でのデータ配布の禁止、当該データの二次利用の禁止 ②原告らの大部分について、一人当たり5500円から44000円の損害賠償(合計額488万6500円)を認めた。これを受け、被告である示現舎・M=鳥取ループと、原告団・弁護団の双方が控訴した。

「鳥取ループ」とは何者なのか

 「鳥取ループ」とは、示現舎の社長Mのアカウントネームである。Mはソフト開発を生業にしているパソコンのプロであり、社員のJは、『正論』などの右翼雑誌に投稿するフリーライターである。MはJと共に「示現舎」なる出版社を設立し、2016年2月に復刻版「全国部落調査」の出版を宣言。発売日を同年4月1日に決め「旅行のお供に」などと謳って広く宣伝を始めた。
 「全国部落調査」とは1935年、当時の政府の外郭団体であった「中央融和事業協会」が行った全国の「被差別部落調査報告書」である。全国36都道府県の被差別部落の地名、戸数、人口、職業、生活程度が詳細に記載されている。それだけでなく、Mはさらに昭和初期の地名の横に現在の地名を書き加え、被差別部落が一目で分かるように編集している。1975年にはこの報告書を使って身元調査を行った「部落地名総鑑事件」が発覚した。これにより数多くの部落出身者の就職や結婚の道が閉ざされる事態になった。

解放同盟による裁判の経緯

 こうしたMらの人権侵害行為に対し、解放同盟中央本部はすぐに反撃を開始した。
 法務省に販売を止めるよう申し入れを行い、通販会社「アマゾン」には「違反出品」として抗議した。アマゾンは販売を中止した。さらにMと直接会って出版を止めるよう厳しく抗議したが、Mはこれを拒否。そのため中央本部は、3月22日に出版差し止めの仮処分を横浜地裁に申し立てた。同地裁は事件の重大性を理解し、同月28日に出版禁止の仮処分決定を行った。
 これを受けMはネット上に部落の所在地一覧データを公開した。本部はこの措置に対しても、横浜地裁相模支部に削除の仮処分を申し立て、同支部は4月18日、「ウェブサイト掲載削除」の仮処分決定をした。
 横浜地裁の仮処分決定を勝ち取った中央本部だが、それはあくまで「仮の判断」であり、完全に出版を止めネット上から削除させるために4月19日、東京地裁に民事訴訟を起こした。
 訴状の内容は、①「復刻版・全国部落調査」の出版差し止め ②ウェブサイトの削除 ③「差別を受けない権利」の侵害 ④プライバシー権の侵害 ⑤名誉権の侵害――で、原告一人当たり100万円の損害賠償を求めた。個人名や住所・電話番号などを勝手に載せられた人々ら、全国31の都道府県から個人248人と解放同盟の計249人が原告になった。 

横浜地裁判決をどうみるか

 今回の判決は、①一覧表の公表が身元調査を容易にし、部落差別を助長することを認めた。②「復刻版」に関して「出版差し止め」という強い措置に加え、ネット上でのデータの配布禁止や二次利用の禁止も認めた。③原告らの大部分に対して「復刻版」のデータ配布や「部落解放同盟人物一覧」のデータ配布を理由とする賠償を認めた。
 この3点を原告は「積極的に評価できる」とした。
 一方で判決は、④原告らが「法の下の平等」を定めた憲法14条に基づいて主張した「差別されない権利」について、「内実は不明確」として権利侵害を否定した。仮処分段階では様々な裁判官が認めていた。また、⑤一度でも情報が公開された者(被害者)は、公開した側(加害者)の行為に対する承諾を与えていないにも関わらず、「プライバシー権侵害」の成立を認めない旨の判断をした。つまり、「すでに部落出身者だと知られている原告(人物)」については、「プライバシーの侵害」にはならないと決めつけたのだ。
 前記④「差別されない権利」について判決は、「権利の内実は不明確であって、プライバシー等他の権利が侵害されている場合を超えて、どのような場合に原告らの主張の権利が侵害されているのか……判然としない」とした。憲法14条とは、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という「法の下の平等」を規定した条文である。Mらの行為が憲法14条を踏みにじることは明らかである。

暴露と告白は別物である

 また、判決は「他者が勝手に個人情報を暴露すること」(アウティング)と、「差
別をなくすという目的や動機に基づき、被差別部落の出身者であることを、信頼できる相手や集団にのみ慎重かつ限定的に明かす行為」(カミングアウト)の違いを無視している。ゆえに判決は、鳥取ループが何の了解もなく暴露した情報に対し、あたかも原告らが承認を与えたかのような見解で被害救済を否定しているのである。
 さらに判決は、⑥「プライバシー権侵害」に関し「復刻版」に現在の住所地・本籍地が掲載された原告のみ救済し、「親族の住所地・本籍地」や「過去の住所地・本籍地」(これらはすなわち『現住所と異なる住所』)が記載された原告の救済を否定した。公開された土地にいま住んでいなければ、被害は認定されないということである。この解釈も大きな問題である。
 さらに、⑦原告解放同盟に関する「業務を円滑に行う権利の侵害」も否認した。⑧「差し止め」の範囲について「復刻版」の「すべての記載」に対してではなく、一部の都道府県については認めなかった。
 ⑧の点では、出版物名が「全国」と称しているのだから、差し止めを除外された一部の道府県で一冊でも販売されてしまえば、全国の地名を知ることができる。「差別されない権利」を無視し、結果的に差別に加担する決定で到底容認できない。

差別とヘイト煽る確信犯

 示現舎とそのメンバーは、解放同盟の抗議や糾弾はじめ、行為を非難した東京法務局による「説示」、さらに法務大臣(岩城光英・当時)の答弁を無視し、それに真っ向から敵対して対決姿勢を見せる確信的な差別主義者であり、ヘイト主義者である。
 彼らの暴露は、これまで長い年月をかけて人々と行政によって取り組まれてきた「反差別・人権擁護」の成果を台無しにするものである。
 鳥取ループは、横浜地裁の仮処分決定による差し押さえに対し、在庫物を移動し部屋をもぬけの殻にして対抗した。彼らが「復刻版」をネットに掲載したことで、全国各地で被害が相次いだ。自治体や解放同盟事務所への電話が増え始め、「部落地域の確認」や「結婚相手の住所の確認」などの問い合わせが相次いだ。
 滋賀県の公共施設には「復刻版」をコピーしたチラシが何者かによって置かれた。チラシには朝鮮半島出身の芸能人やスポーツ選手の名前が列挙されていたという。さらに彼らは同和事業と関係のない事件や事故までも、解放同盟や部落出身者と強引に結びつけ、マイナスイメージを振りまき続けている。
 2018年11月、鳥取ループ・示現舎は、あろうことか部落解放同盟を相手取り賠償額518万円の損害賠償請求を起こした。復刻版が出版できず、学問の自由を侵害され、精神的損害を被ったなどというものである。社長のMはこれまでにも5回、行政当局や地方法務局を相手取り、部落関係の情報開示を求めた。Mはあくまで全国の部落の公表にこだわり、悪質で執拗な行動を繰り返している。

鳥取ループの歪んだ主張

 彼らの歪んだ思考、倒錯した主張には驚くばかりである。その最たるものが「部落差別が残っているのは、部落解放運動と同和行政のせいだ」というものである。
 彼らは、解放運動の成果として「改良住宅や隣保館などが建てられた所には差別が残っており、同和対策事業が行われなかったところでは差別はなくなっている」と言い張っている。だから「差別をなくすためには解放運動と同和事業をやめることだ」と主張し、「住民が離散すること、解放同盟から離れ自立すること」だと結論づけるのである。
 「同和地区を晒すことが解放につながる」という身勝手な理屈で自らの行為を正当化し、「部落探訪」などと銘打って部落に潜入。個人の家の表札や商店の看板や工場などを写真や動画を撮り、インターネットにアップしている。動画の視聴者が恐る恐る現地を訪れ、「自分たちとは違う世界」だと差別意識をより強固にすることを期待し、扇動を繰り返している。
 この価値観には、無知無学と傲慢が端的に表れている。差別の原因は差別される側にあり、差別解消のために、差別される側に努力と責任を転嫁する。これこそが歴史上使い古されてきた多数者側の差別の論理なのである。

「表現の自由」の悪用を許すな

 今回の判決は、積極的に評価できる部分を内包しつつ、裁判所が事件の本質を理解していないとしか考えられない文言もあり、非難されるべき代物である。原告団・弁護団は10月11日に東京高裁に控訴した。
 来年は全国水平社創立から100年となる節目の年だ。鳥取ループ・示現舎の悪質な差別・憎悪行為は、解放同盟員のみならず、部落出身を自覚する者、在日のマイノリティや障がい者、すなわち差別と横暴を恐れて静かに暮らす人々の生活を脅かすもので、断じて許されない。
 裁判で被告は、「同和地区の研究をする自由や表現の自由」などを口実に公表を正当化したが、差別やヘイトを以って被差別者に回復不可能な打撃を与え、自死に追い込んだりする「表現の自由」や「権利」など存在しない。そうした独善的・組織的な「自由」や「権利」は、厳しく規制・統制され、罰せられなければならない。
 控訴審での完全勝利に向け、いっそう連帯を強めよう。鳥取ループと示現舎を徹底的に糾弾・追及し、その犯罪性を満天下に明らかにしていこう。(桐丘 進)

解説

「部落地名総鑑事件」とは何か

 部落解放運動は、戦前の「高松結婚差別事件」や戦後の「オールロマンス事件」、そして「狭山差別裁判事件」など、数多の差別事件に糾弾闘争を中心として取り組んできた。とりわけ1975年に発覚した「部落地名総監差別事件」(以下『総鑑』)は部落解放運動史上、最も悪質な事件と捉えてられてきた。
 「総鑑」は全国に散在する被差別部落の名前と住所、さらに戸数や主な職業を都道府県別に編集したものである。当時の作成者は、興信所や探偵社とそれにかかわる人物らと見られ、購入者の大半は企業や銀行、それもトヨタや日産、キリンビールや関西電力、東洋信託銀行など、誰もが知る巨大組織が中心だった。さらに大病院や大学などの教育機関までもが入手し、個人で購入した者もいた。
 膨大な全国の部落データは、「財団法人・中央融和事業協会」による実態調査を基に作成されたと判断するのが合理的である。これらが高価な一冊の本としてまとめられ、企業向けの人材リサーチ団体や労働問題調査機関、さらにそれらを装う興信所や探偵社に流れていった。
 総鑑が販売された時期が以下のように集中していることも、偶然ではない。
 第一期は1970年前後。運動の成果により「同和対策事業特別措置法」が制定(1969年)され、壬申戸籍が国家により厳重管理され始めた時期にあたる。
 第二期は1975年前後で、石油危機による不況が始まり、企業が経営合理化を余儀なくされた時期であった。
 就職差別や結婚差別は、今なお残根強く残る部落出身者への、不当な選別の象徴である。総鑑を購入した企業は、人事考課や人員削減すなわち首切りや左遷・配転のために利用した。深刻な人手不足の折には、部落出身者は最後に採用され、人件費カットの際は最初に候補に挙がった。
 入手した個人は、結婚相手の身元調査のために活用した。役所で戸籍を調べるよりもはるかに手軽に相手の身元確認ができた。売る側は解放運動の進展と人権意識の高まりに逆行することを承知のうえで、巧妙に人々の内心に潜む差別意識を掘り起し、ひと儲けした。
 インターネットの普及によって、差別者の悪意が瞬く間に国境を超えて広がり、規制や統制が困難になっている。印刷物としての「復刻版」を入手せずとも、企業の労務担当者はもちろん、市井の人々が自宅やスマホで全国の部落を俯瞰できるようになっている。差別やヘイト行為の動機づけと裾野は、当時とは比べ物にならないほど拡大しており、草の根保守層やネトウヨらを勢いづけている。
 全面的な出版差し止め・公表の禁止を決定し、サイトからは完全に削除させるべきである。公表を放置することは、差別を助長し、加担していくことに他ならないのである。

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