「防衛費2%の無理と無駄」
読書案内
「世界」3月号 文谷数重論文
非現実性は自民党も承知の上
巨額軍事費への
抵抗の鋭い武器
グローバル日米安保体制下、自衛隊は米軍の戦力を担い、共同作戦を担いきる武装装置へと加速化している。必然的に軍事費は、2022年度予算では「防衛力強化加速パッケージ」と称して前倒しで21年度補正予算とあわせて6兆1743億円に膨らませた。自民党国防族、防衛省が強調する「敵地攻撃」能力のレベルアップ、日米軍需産業のために次々と巨額な武器を購入している。しかも「後年度負担」というローン制度に依存しながらローン残高は5兆8642億円に到達している。
筆者は、日本帝国主義打倒の立場から巨額な軍事費をやめさせ、民衆のために生命・生活のために配分せよと主張してきた。だが、軍事費削減にむけて具体的にどのように迫り、批判していくのかの回路は未提示のままであったと言える。この弱さをバックアップしてくれるのが文谷数重(軍事ライター〈元海上自衛隊3等海佐〉)論文だ。文谷は自民党が2021年衆院選で防衛費をGDP比1%から2%以上を公約に掲げたことに対して、「この2%引き上げは妥当か。机上の空論である。結論的に言えば、そうなる」と断言している。非常にストレートに、大胆な批判を展開している。
対GDP比2%
まやかしを暴露
「防衛費対GDP2%」が「机上の空論」だという根拠提示のうえで文谷は、「実施が不可能である」と言い切る。なぜならば「防衛費を2%とするには、それ以外の予算支出を一律で25%削減しなければならない」と政府予算案の総額を単純計算しただけでこの数字がはじき出てくる。だから「2%に倍増させるには、残りの八割の歳出から25%分を防衛費に振り向ける必要がある」が、こんなウルトラな予算案はできない。やれるとしたら「増税で五兆円を賄うかだ」が、この額は「消費税率なら2%の引き上げに相当する数字である」と明らかにする。
いずれにしても現在の予算案総額からいって、単純に無理であることを文谷は強調する。これは説得力があるかないかのレベルではなく、「防衛費を2%」というアドバルーンは、そもそも民衆生活を破壊する予算を強行突破することで成立する漫画的発想なのである。
第二は、中国との軍事的劣勢は、公然たる事実であり、「海空軍戦力でみれば日中の戦力差は二倍を超え」ており、「中国経済はいまなお成長している。その余裕から中国軍事力は今後も量質ともに成長する。単純にGDPを倍にし、自衛隊戦力を二倍に増やしても優位にたてない」のである。自衛隊は米軍頼りによって成立しており、「防衛費対GDP比2%」増大はこのことを表に出さないで(公然の事実だが)、つまり米軍のための兵器購入、米軍支援金の増額が本当の姿なのだ。軍拡派は、このことを積極的に押し出さずに言えない矛盾を抱え込んでいるのである。
文谷は、あきれながら(「防衛費対GDP比2%」は)「もちろんその非現実性は自民党自身も承知している。支持層の願望充足を目的とした大風呂敷であり、当の国防族にしても、本気で実現するとは考えていない」とまわし蹴りだ。
そのうえで文谷は、「だが、この2%論は看過してよいものではない」と批判し、論文の後半はその地平から次のようにアプローチする。元海上自衛隊3等海佐として実戦を積み上げてきた経験から、「仮に中国との対抗を追求するとし、そのために戦力増強が必要である」としても、防衛不効率、すなわち無駄な軍事予算削減のために①戦力上の未整備 ②装備国産化の継続 ③周辺国への強硬対応がそのままであることを浮き彫りにし、「防衛費対GDP比2%」論のインチキな願望を暴き出すのである。
文谷の切り込みは明解だ。
まず陸上自衛隊の無駄な戦力配備を取り上げる。「陸上自衛隊は中国との対峙の主力ではない。しかも内部には役に立たない戦力を多数抱えており、組織にも無駄が多い」と指摘し、「防衛セクター(自民党国防族、防衛省、安保専門家)は陸自の縮小整理には絶対に手をつけようとしない」と断定する。なぜならば「組織整理は将官以下のポスト削減を意味するからだ。……そのポストが減ると、その階級への昇進枠も減る」ことに、陸自は徹底反対している。その現れとして、「以前から陸自が出身議員を『国防族』として国会に送り込み続けているのが、その典型だ。特に1985年に与党から海空自衛隊重視論、つまり陸自削減論が台頭した後には対抗のための政治力涵養にも力を注いできた」。
さらに「国産航空機開発の冗費」として、「自衛隊装備の国産化は高コストであり防衛予算を圧迫しているが、なかでも航空機の国産化は桁違いの金額となっている」と強調し、新型戦闘機開発が1兆円から2兆円に膨らみ、しかも「防衛省も本当に高性能機能ができると考えていないだろう」と分析している。
なぜなら「日本の航空機製造業は戦闘機開発には習熟していない……戦闘機に関する知見の集積は弱い」し、「納期が読めない不利もある。予定されている2035年の開発終了には間違いなく間に合わない」と述べている。
文谷は防衛セクターがこのような無駄を全く顧みることもしないのは、「産業界の要請に抗しきれないためだ。航空機製造は重工各社の中核事業であり、しかも防衛省官需で支えられている。その官需がなくなれば重工各社の経営に打撃を与える。そのため政治段階から『国内開発は当然』と考えられている」と政府与党・防衛省・自衛隊幹部・軍需産業の持たれあいと自己保身的カネ獲得のために無駄が膨らんでいることを解き明かす。
第三として「緊張改善の忌避」というテーマから、「中・朝・韓との三正面で同時に敵対する過ち」、「中国への強硬対応を改めない誤り」について取り上げている。
そのうえで「本来は柔軟に対応する必要がある。極端な話をすれば、紛争発生や戦争での敗北を回避するには中国への無思慮な強硬対応をやめる必要もある」と述べ、「防衛セクターは合理的選択から逃げつづけている」と指弾する。
最後に、自民党公約に対して「中国との軍事対立の不利は改善したい。そのために海空戦力の予算を増やして戦力増強をはかりたい。だが既存権益も残したい。予算捻出に必須となる中・朝・韓との緊張緩和はやりたくない。そのような矛盾した願望を同時に充足するのが防衛費増額論であり、国防族が唱導する対GDP2%への増額なのである」と文谷は言う。
文谷の「防衛費対GDP2%」批判は、現在の自衛隊戦力配備・組織・予算、国際情勢などの分析要因を総括した結論だ。今後の反安保・反戦闘争にとって参考になると思われるので、ぜひ一読していただきたい。 (遠山裕樹)
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