映画紹介「ムクウェゲ『女性にとって世界最悪の場所』で闘う医師」

立山芽以子監督/2021年制作/日本

テレビドキュメンタリー
をもとにした劇場作品

 2018年のノーベル平和賞を受賞した産婦人科医師で人権活動家のデニ・ムクウェゲを追ったドキュメンタリー映画『ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』(75分/立山芽以子監督/TBSテレビ制
作著作)の劇場公開が3月4日から始まった。ミニシアターなどで時期を変えながら全国で順次公開されるという。これまでTBSテレビが放送した2つの番組(*1)に、あらたな取材映像を加えた作品だ。
 舞台の一つはコンゴ民主共和国東部のキヴ湖岸の都市、ブカブだ。海抜1500mの高原に位置し、キブ湖南端からタンガニーカ湖北端へ注ぐルジジ川をはさんでルワンダに接する。
 隣国ルワンダでは1994年4月、国家権力を握る多数派フツ人(*2)による組織的なプロパガンダによって少数派ツチ人に対するジェノサイドがはじまり、約100日間で80万人が虐殺された。そのプロパガンダには「ツチ女性はフツ男性を弱体化させる性的な武器」というものがあり、性暴力を組織的、軍事的に扇動した。98年のルワンダ国際戦犯法廷は戦時性暴力をジェノサイドの構成要素の一つと見なした。
 ジェノサイドがおさまると、報復を恐れたフツ人の大量難民が発生、旧政権指導層や軍人、民兵が一般人に紛れて周辺地域に疎開、これが地域紛争の種となった。この難民危機は、モブツ政権が崩壊した第一次コンゴ戦争(96~97年)の〝遠因〟ともなり、鉱物資源の豊かなコンゴ東部もし烈な紛争地域となった。武装勢力は鉱山を資金源にし、残虐な暴力で支配する。住民に恐怖感を与えて支配する手段として性暴力を利用し、「世界のレイプの中心地(首都)」ともよばれている。

ルワンダのジェノサイドと
新しい武器としての性暴力


 ブブカの宣教師の家に生まれたムクウェゲは、「父が祈るひとなら、僕は白衣を着て薬を配る人になる」と医師になることを心に決めたという。1983年、医師として働き始めた。山間部の困難な出産状況を知り、婦人科医をめざしてフランスに留学。89年に帰国し、専門的な医療を受けていなかった女性たちの出産ケアに取り組んだ。
 1999年にブカブにパンジ病院を設立、患者の多くが性暴力被害者で、鉱山を支配する武装勢力が、性暴力を支配のための武器として利用していることに気づいた。04年、診療所が襲撃を受たことをきっかけに、「根源を断ち切らない限り、コンゴの女性たちに平和は訪れない」と、被害女性の治療と支援に加え、国際社会に向けて組織的性暴力の禁止を訴え始めた。「コンゴ民主共和国の東部で行われている、戦争の武器としての性暴力は、それが集団に対し体系的に、見境もなく行われていることが特徴です」「個々の武装集団がそれぞれ独自の方法を使って行っているからです。国の遠方から私の診療所に来た女性たちを診察したとき、地域によって、体の傷つけられ方が違っているのです」と、2019年10月の広島講演で訴えた(*3)。
 この作品を紹介する目的がいくつかある。
 まず「教育」として。そしてその内容として「性暴力」と「資源の収奪」がある。いずれもが、ムクウェゲの広島講演のなかにある。
 「新しい戦争の武器は、銃などの従来の武器より安いどころか、一銭もかからない物なのです。それは12歳から14歳の若い子供たちに対して行われる『洗脳』という武器を除いての話ですが(つまり、洗脳も安い武器なのです)」「性的暴力を予防するという点において一番重要な『道具』は、教育です。この教育は、ゆりかごから始め、成人になるまで続けなければなりません」。映画には元少年兵や、ムクウェゲが性暴力被害者からとりあげた女児が成人して母同様に被害者となり、母同様にムクウェゲに命を助けられる場面がある。残念ながら、映画では「教育」の必要性をとりあげてはいなかった。

広島・長崎のウラン原料と
共通するスマホの原料鉱物

 講演地を広島に希望した理由は、人権活動家となったナーディーヤ・ムラードとムクウェゲがノーベル平和賞を受賞した前年に、ICAN(核兵器廃絶キャンペーン)が受賞したことばかりではなく、広島に投下された原爆の原料が旧ベルギー領コンゴで産出されたウランだったことが理由だ(長崎原爆のプルトニウム原料のウランも同様)。
 ICANは、対人地雷全面禁止条約が地雷禁止国際キャンペーンの主導で成立したことに着目して核兵器禁止条約の成立に向けて結成された。クラスター爆弾や化学兵器など、非人道兵器禁止の流れだ。ムクウェゲは「新しい戦争の武器」としての性暴力を、非人道兵器として禁止させるための国際活動をしている。この新しい武器は「資源の収奪」のために用いられている。
 ムクウェゲは来日時に「利他」という日本語を覚えたと、映画のエンディングで語っている。2016年結成の「コンゴの性暴力と紛争を考える会」は3年半の活動を経て19年12月にNPO法人化、「RitaーCongo」と改称した。RitaーCongoは3月8日、NPO法人 開発教育協会と共催で「スマホから考える世界・コンゴ・わたしたち」と題したワークショップをオンラインで開催、こうしたワークショップはYouTube(*4)で順次公開されている。
 数年前から日本でも再び、子どもへの性教育はできるだけ早く行うことへの理解が進んできた。再びとは、しんぶん赤旗の主張に「2000年代、東京の養護学校で行われていた性教育に政治が介入する事件が起きました。自民党は『過激な性教育』調査プロジェクトチームを発足させて性教育を妨害・攻撃するキャンペーンを行いました。これが教育現場を萎縮させ、公教育で性教育を実践する困難に拍車をかけました(2021年12月20日)」とあるように、前世紀末まで進んできた子どもへの性教育の実践にバックラッシュがあったからだ。
 日本には、ムクウェゲが望むような性教育を受けられた人の比率は極めて少ないといえる。筆者自身も含め周辺で受けた者は皆無だ。ムクウェゲは学んでいないことを教えてくれた。
    (3月25日 KJ)

注記
 *1 テレビ放送された2つのうち1つは、19年2月にテレビ放送された「ムクウェゲ医師の闘い~なぜ、コンゴの悲劇は終わらないのか」(24分)。youtube のTBS NEWSチャンネルで視聴できる。
https://youtu.be/p_kqhHlOWg4
*2 共同通信社の『記者ハンドブック―新聞用事用例集第14版』の476頁【民族表記】にを準用。従来の「フツ族、ツチ族」を「フツ人、ツチ人」とした。
 *3 広島講演の全文は、中国新聞の次のページで読める。
https://www
.hiroshimapeacemedia.jp/?p=94743
 *4 コンゴ研究シンポジウム「紛争下の資源採掘と人権侵害」などがyoutube のRita-Congoチャンネルで視聴できる。
https://www.youtube.com/channel/
UCJJ46OHZgNUYA6Ki1ez-1FQ
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