書評『釜ヶ崎に、グランマ号上陸す―チェ・ゲバラの最も出来の悪い弟子になるまで』
宮本信芳著/東方出版 定価1900円税込
本書のタイトルにあるグランマ号とは、1956年のキューバ革命の際、メキシコへ亡命していたフィデル・カストロがチェ・ゲバラら革命の同志82人と、再びキューバに上陸した船の名前である。この書は、横浜生まれの著者宮本信芳が、自らを尊敬するゲバラになぞらえ大阪の釜ヶ崎にたどり着き、「グランマ号」と名付けた居酒屋を始めるまでの破天荒な人生を気取りのない文章で描いた自分史だ。
◆ ◆ ◆
宮本は1962年生まれ。土建屋宮本組の三男として生を受けるが、会社の倒産や両親の結核入院などにより、水上生活者の児童を養護するキリスト教系の施設、日本水上学園で小学5年生より中学2年生までを過ごした。同学園は、当時港湾労働者が川に係留されていた無人の船で生活し、住民票がもらえなかったため就学児童の多くが学校に通えなかった。そのためキリスト教関係者が開いたのがその前身となる「水上学校」だった。
ここで宮本が仲間たちとやっていたのは、シンナー、タバコ、万引き、窃盗など非行少年そのものの毎日だったと記している。その咎により内偵を進めていた本牧警察署に13人の仲間とともに連行され取り調べられた経験もあるという強者だ。
◆ ◆ ◆
ゲバラに出会ったのは、両親が退院して、水上学園から市営住宅に移り、父が事故により亡くなった1カ月後、高校2年生のころと記してある。2度目となる喫煙や家出により言い渡された無期停学中、毎日書くことを義務づけられた日誌に書き綴った読書記録がそのきっかけだった。外出許可をもらって出かけた書店の棚で、三好徹の『チェ・ゲバラ伝』を見つけその生き様に夢中になったという。本文からその一節を引用すれば、「キューバ革命成功後、権力にしがみつくことなく、新たな革命の地を求めたチェ・ゲバラ。その生き様、死に様に強い衝撃を受けました」と綴られ、宮本にとってまさしく生涯の糧になった出会いだったと言い切れる。
その後、喧嘩による暴力事件を引き起こし、危うく退学処分となりつつも教師たちの「卒業まで処分保留」という温情に恵まれ、大学進学を目指し浪人必至といわれた福祉専門の厚生労働省管轄「日本社会事業大学」に合格。学生運動、そして福祉労働者の道に進むことになる。
◆ ◆ ◆
目次を見るとこの章のなかに「管制塔戦士に憧れて」という項目が目を引いた。大学で民青のオルグにより加盟したものの、共感していた三里塚闘争を全否定されたためほどなく離脱。10・21国際反戦デーなどの左翼集会を渡り歩いたと述懐している。その中で、ミッドウェイ横須賀寄港反対集会の際は、管制塔を占拠した「第4インター」の「もっと陽気に! もっと野蛮に!」と記された機関誌「世界革命」の大見出しに触発され始められたフランスデモに参加し、機動隊との攻防を満喫したともある。三里塚現地の熱田派、北原派双方の集会に参加し、最後は熱田派を選んだとも記してある。しかし、その章の最後に「第4インター」の性暴力事件や、社事大内の問題に没頭していき、三里塚闘争とは疎遠となっていったという下りは、今もなおインターが引き起こした女性差別差事件が現在もって解決も真摯な自己批判も行われていないことを改めて実感させられた。
◆ ◆ ◆
宮本は、男子寮反対運動が終結したのち、民青が執行部を握っていた自治会選挙に立候補し自治会委員長に当選。全学連加盟分担金20万円の支払いを停止したという。また、前述した廃寮反対運動の全容を「世界革命」に「赤いウサギ」というペンネームで投稿していたとの話には驚いた。また、福祉実習先の担当教諭が「世界革命」の定期購読者だったというエピソードにもまた驚かずにはいられなかった。
留年や結核を発病したものの宮本は無事卒業し、社会福祉法人東京コロニーへ就職。福祉労働者の道を進むと思いきや、不審者と疑われ組合加入を拒否され、私生活ではアルコール依存症になりコロニーを退職するなど、日本水上学園時代と破天荒な暮らしぶりは変わらず、ここでは割愛するがその後はキャバクラ、ソープ、サラ金などを転々とし最後は横領、自己破産という荒れた生活を送ったと書いている。
そして、最後にたどり着いたのが逃亡先でもある釜ヶ崎。そこに待ち受けていたのは前述した横領の逮捕のため東京からやってきた刑事だった。最後のくだり、そして現在の様子を知りたい方はぜひこの本をご一読ください。本書のタイトルの意味がよくわかる。
同志諸君! 釜ヶ崎の居酒屋「グランマ号」で会いましょう。 (雨)
The KAKEHASHI
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社