投書 お母さん、ありがとう

匿名希望

 7月17日・日曜日、母が死んだ。86歳だった。母は糖尿病やガンをわずらっていた。自転車にのったサーファーにぶつけられたことも影響したのか、腰が悪かった。最後の方は、私は母や弟とははなれて暮らしていたが、はなれて暮らすようになってからはじめは週1回・後に週3回母のサポートのため実家にかよった。さまざまな人が母の面倒をみてくれた。病院(医師や看護師さんたち)にもお世話になった。
 7月17日、病院から延命治療をのぞむかどうかの確認の電話があった。そのときは考えなかったが、いまから思うと最終的な確認の電話だったのかもしれない。私には、医学的な知識もなく、延命治療がいいのかどうか本当のところはわからなかった。天皇や首相が重体になったら病院は家族に同じような対応をするのかという疑問もあった。
 だが、母じしんは延命治療をのぞまなかった(2021年5月7日・金曜日の診察で医師から「転移の可能性」をしてきされ「余命は半年から1年ぐらいかも」「延命処置につながる行為はしなくていいか」といわれて、母が「しなくていい」とこたえたことが私のノートに記録されている)。
 病院(医師)も延命治療に「批判的」だった。親せきも「延命治療はかわいそうだ」といっていた。弟はさいしょ延命治療をのぞんだ(延命治療をしてでも母に生きてもらうことをのぞんだ)が、私との話し合いのすえ、延命治療をしないことに同意した。私はよくわからないまま、延命治療はのぞまないむね病院側(医師)に返事をせざるをえなかった。病院側には弟との話し合いの内容についても話した。
 病院にかけつけ、母にはなしかけた。「がんばって」「いままで楽しかったことを思いうかべて」「いままでありがとう」。
 そんなことぐらいしかいえなかった。看護師さんは、「長男さんがきてくれましたよ」「よかったですね」「楽しかったことを思いうかべてって」「ありがとうって」「よくがんばりましたね」などと母の耳もとで話しかけてくれた。
 看護師さんは「耳は聞こえていますよ」といっていたが、「耳の遠い」母につたわったかどうか私にはわからない。ふだんは1番安いものをえらぶことが多いのだが、葬儀の話し合いの席では「無地の白い骨つぼ」ではなく、「花柄の骨つぼ」をえらんでしまった。
 葬儀は「君の誕生日」(原題 생일 、監督 イ・ジョンオン、2019年製作、韓国映画)にでてくるスホの誕生会のようなものにしたかったが、かなわなかった。
 父方の祖父は、戦争に反対した人をかくまったため弾圧された。母方の祖父は、商売で軍に協力したと聞いている。母方の祖父は私の両親の結婚に反対しなかったのだろうか。1度そこらへんのことも母に聞いてみたかった。聞いて記録しておきたいことがたくさんあった。
 だが、かなわなかった。母と父は、私のまちがいでなければ、コーラスかなにかでしりあったらしい。歌声喫茶かなにかだろうか。
 父の家は、特定の政党を支持する家だった(そのため、米軍で通訳として働いていたノンポリの父は不当解雇された)が、母に対するあつかいは封建的だったようだ。母はそのことに苦しめられたようだ。母が何を考えていたのか分からないが、母の経験が「あたらしい社会主義」「人間の顔をした社会主義」をもとめるところへとむすびつくことは残念ながらなかったようだ。
 生きているうちは責められてばかりで、「うるさいな」と思ったが、もう母に責められることもなくなった。母のために録画しておいた「七日の王妃」(韓国ドラマ)ももう録画する意味がなくなってしまった。結局、母はドラマを1話も見なかった。
 私は、死後の世界をしんじない。お母さん、さようなら。私は、これからも、生きているうちは、自分勝手をつらぬきたいと思います。ごめんなさい。差別も暴力もない世界、天皇も「それに類似する存在」もいない世界、みんなのいのちがひとしく尊重される世界をめざして。
(2022年7月24日)

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