読書案内「自民党の統一教会汚染 追跡3000日」

鈴木エイト著 小学館刊 1600円+税
極右ファシスト全面利用の実態

 本紙2023年新年号(1月1日付)で、ジャーナリストの鈴木エイトが書いた『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館刊 2022年10月1日初版第1刷 定価1600円+税)について紹介した。本書については、「かけはし」新年号に掲載した昨年12月の「緊急シンポジウム 統一教会の実態を徹底的に暴く」の記事で言及しているが、本書そのものの「読書案内」もあった方がよいだろう、と考えて、あらためて書くことにした。

大学闘争の中から


 本書は、「統一教会」という陰謀的犯罪集団が、韓国の独裁政権、そして日本の自民党政権と結びついていかにその影響力を伸ばしていったか、そのプロセスを描き出している。ついでに言えば、私が、この統一教会について知るようになったのも随分古い話で、全共闘運動さなかの1969年のことだった。
 当時私は東京の三多摩地域にある大学の2年生だったが、「共産主義研究会」とか言う名称のサークルで、「マルクス主義・共産主義は間違っている」と大書した横断幕やプラカードを掲げて、「反共」宣伝を繰り返すグループ(と言っても数人だったが)が突然登場したことを覚えている。そのうちの一人は私と同じクラスで、その正体については不明だったが、自治会執行部を握っていた共産党・民青の活動家も、新左翼系やべ平連(ベトナムに平和を市民連合)の支持者たちも彼らのことはほとんど無視していた。
 当時の全共闘運動の活動家にとっては、主要な「敵」は自民党政権であるとともに大学当局であり、「暴力学生批判」を前面に押したてた「日共・民青」も徹底的な批判の対象だった。私たちは、この突然出現した「反共主義者」の宣伝活動にもかかわらず、その背後にどういう勢力の策謀が潜んでいたかについて知るよしもなかった。

政権とのゆ着


 本書は、この「統一教会」の軌跡について以下のように説明している。
 「米CIAの後ろ盾のもとで『北朝鮮の共産主義に打ち勝って統一=勝共統一』をスローガンに反共活動組織を必要としていた韓国の朴正熙(パクチョンヒ)政権(1961~79)の庇護を受けるため、統一教会の教祖・文鮮明は、便宜的に反共産主義を掲げて朴大統領に取り入った」。「文教祖は67年に山梨県の本栖湖畔で行った戦後右翼の大物らとの日韓反共首脳会談を契機に、翌68年1月、韓国で国際勝共連合を創設、日本でも同年4月、岸信介総理大臣の後ろ盾を得て国際勝共連合を創設するに至る」「当時の日本といえば、東西冷戦下で安保闘争真只中という時代だ。そんな時代背景のもと、献身的に反共運動に邁進する青年を抱える勝共連合は政財界へ浸透していく」。
 各大学での「多数派」であるノンセクト系の活動家たちの間でも「『共産主義は間違っている』と言っても『スターリニズムは間違っている』と言っているだけでしょ」と相手にしていない人たちも多かった。そんな「正体不明の反共集団」が、自民党の中枢にまで食い込み、政治を動かすだけの影響力を持つようになってしまったことは、当時の私たち「全共闘派」にも応分の責任があると言わなければならないだろう。
 本書は「プロローグ 安倍元首相が殺害されるまで」、「第一部 安倍政権との癒着(2013~2020)」、「第二部 菅・岸田政権への継承(2020~2022)」、そして短い「エピローグ」としての「我々は何に目を向けるべきなのか」からなっている。以下、本書の記述に沿って紹介する。
 ところで安倍晋三と統一教会の関係は、最初から親密なものだったのだろうか。
 著者は「そうではないのではないか」と述べる。祖父の岸信介元首相や、父親の安倍晋太郎元外相と異なり、安倍晋三は統一教会とは一定の距離を置く関係にあったのではなく、むしろ統一教会に対しては「北朝鮮」との関係もふくめて警戒をしていた形跡があるという。
 その「変化」の兆候は2010年の参院選だったというのが筆者の推測だ。この参院選の時点での「国際勝共連合」の内部通達文書での「山谷えり子必勝」を訴える記述と共に「山谷先生、安倍先生なくして私たちのみ旨は成就できません」との文言があること、を根拠に著者は「この時点で既に安倍晋三と教団には何らかの関係性が構築されていたのではないか」と主張している。
 著者は、2002年以来、統一教会から勧誘被害者を救い出す活動などを、あらゆる圧力をはねかえして闘うとともに、この統一教会の活動の実態、政治家との深い関わりについて明らかにする努力を積み重ねてきた。その重要な契機となったのは2013年の参院選における「裏取引」だったという。
 この時、第一次安倍内閣の官房長官である菅前首相が、統一教会との関係を極秘のうちに取り持って画策していたことが明らかになった。すなわち安倍(首相)・菅(官房長官)の下で統一教会がらみの自民党候補への支援が進められたわけである。
 著者は詳細な調査に基づき、安倍政権の下で、「統一教会」を媒介としながら、「ジェンダー・フリー」へのバックラッシュ、「霊感商法摘発」への妨害、「国際勝共連合新会長」就任式への多くの自民党議員の参加などが進められることになったことを明らかにしている。
 2015年8月、統一教会は正式名称を「世界基督教統一神霊協会」から「世界平和統一家庭連合」に改称した。それまで文化庁は悪名高い「統一教会」からの名称変更を認めていなかったのだが、ここで一転して認めることになった理由は、下村文科相が文科庁に強引に認めさせたから、というのである。
 下村は「統一教会」ときわめて密接な関係にあり、当時の安倍政権も「統一教会」と親密であった、ということが、その背景にあった。文科省宗務課の中では「世界平和統一家庭連合」という別の団体に見せかけ、悪名高い「統一教会」であることをごまかそうという策略だとして、反対の意向でほぼ統一していたものの、最終的には政権の意向を受けて、承認することになった、ということらしい。当時文化庁宗務課長だった前川喜平は、「政治的圧力で認可されてしまった」と言明している、とのことだ。
 後に民主党副代表となった鳩山邦夫は、この時「わたくしは皆様が世界平和を脅かす内外の共産革命勢力とこれまで敢然と戦ってこられた勝共運動に対し心から敬意を表明しております」との祝電を打っている。

国際的な拡大


 「2016年、2世信者組織ユナイトを使った運動が進められる中、並行して統一教会は世界各地に議員連合組織を創設。教団と安倍政権との取引疑惑を追う私は、この議員連合の日本での創設大会に、閣僚をふくむ63人の国会議員が出席していたことを突き止めた。入手した内部資料から明らかとなった教団の狙いは、統一教会を日本の国教にする、“国家復帰”の野望だった」。
 2016年、統一教会は、その配下にある「天宙平和連合」という組織を前面にたて「世界平和国会議員連合」(IAPP)を大陸別・国別に立ち上げていく。
 「16年2月に韓国の大韓民国国会会館で開催した発起人大会を皮切りに、7月にネパールでアジア―太平洋・オセアニア・中華圏大会、8月にブルキナファソで西アフリカ及び中央アフリカ大会、9月にイギリスの国会議事堂で欧州・中東大会、10月にはコスタリカで中米大会、パラグアイの国会議事堂で南米大会、11月上旬にはザンビアの国会議事堂で東アフリカ大会と、世界各地においてIAPPの創設が進められた」。
 「日本でも(2016年)11月17日、参議院議員会館特別会議室でIAPPの創設大会『ILC(国際指導者会議)―JAPAN2016」』が開かれた。……この大会に閣僚5人を含む国会議員63人が参加。ほとんどが自民党議員で、代理出席の議員秘書を含めると総勢100人以上が出席した」「教団サイドからは文鮮明・韓鶴子夫妻の五女で宗教部門の後継者とされる文善進世界会長をはじめ教団の徳野英治会長、宋龍天総会長、勝共連合の大田洪量会長、UPFジャパンの梶栗会長ら首脳が参加した」。民進党(当時)の鈴木克昌議員の姿も見られる、という。
 この日本での「国際指導者会議」に多数の国会議員が参加したことはかつてなかったことであり、自民党を中心とする国会議員団と「統一教会」との緊密な「連携」というより、事実上、「統一教会」の「言うなりに与党を始めとする議員たちが動かされていく現実」を改めて明らかに照らし出していく結果となった。
 12月1日には、教団はワシントンDCの上院議員会館で北米大陸の世界平和国会議員連合創設大会を開催し、米上院と下院の議員80人が参加した。翌2017年2月には、ソウルの大韓民国国会会館とロッテホテルで、韓国の現職国会議員12人を含む世界各大陸40カ国国会議員150人(日本からは現職国会議員4人と元防衛庁長官が参加していた)、という。

自民党政権の責任


 2019年、安倍政権の下で9月11日に行われた第4次内閣改造について、著者は「統一教会系内閣」と位置づけている。ここでは初入閣の者を含めて「異常と呼んで差し支えないレベルで同教団への貢献度が高い議員が並んでいる」と著者は述べている。武田良太(国家公安委員長・防災・行革担当相)、竹本直一(IT政策・科学技術担当相)、萩生田光一(文部科学相)、加藤勝信(厚生・労働相:再任)、衛藤晟一(沖縄・北方・1億総活躍担当相)、田中和徳(復興相)、菅原一秀(経産相)の7人だ。その中でも菅原は本書の著者の取材活動を「建造物侵入」を口実に刑事告訴するという暴挙にうってでた人物だった。
 こうした教団との異常な関係は、安倍内閣に替わった菅内閣、そして現在の岸田内閣にも引き継がれている、と著者は強調している。
 著者は本書の「エピローグ 我々は何に目を向けるべきなのか」の中でこう記している。
 「山上徹也の起こした事件は正当化されることではない。安倍が暗殺されるに至った事件の背景には、政治家がカルト被害者のさらに背後にいる被害者、カルト被害者の家族――特に子供の被害実態を見ておらず、軽視および放置していたことも要因の一つだ。本来、政治家はそのような社会的弱者に目を向けるべきである。にもかかわらず、選挙に勝つことや、保身に走り『使わなくては損』とばかりに安易に教団やそのフロント組織と関係を持ち、そのような反社会的なカルト団体を積極的に受け入れ、バーター取り引きをしてきた政治家たちの道義的な責任は限りなく重い」。
 著者の自らへの批判を込めた訴えを、私たちもまたそうした問題提起を自らのものとするために歩んでいかなければならない。それはこの不正・不平等に貫かれた資本主義社会を変革するための闘いである。
       (平井純一)

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