映画「ミャンマー・ダイアリーズ」

第72回ベルリン国際映画祭パノラマ部門受賞 2022

圧政に突如奪われた市民の日常

世界に向けた”命がけのSOS”

 映画「ミャンマー・ダイアリーズ」が東中野ポレポレで、公開されたので観にいった。2021年、ミャンマー軍のクーデターによって、民衆弾圧が厳しく行われ、現在も続いている。国内外に情勢を伝えることが困難ななか、若手映画作家たちが匿名性の10人の短編作品と、SNSに投稿された一般市民による記録映像をつないで制作した映画だ。2022年・第72回ベルリン国際映画祭パノラマ部門でドキュメンタリー賞を受賞した。

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 クーデター直後、ヤンゴンなどでものすごい数の若者たちが軍に対して非暴力で立ち向かっていく。中年の女性が軍の前に立ちはだかり、軍に撤退するように説得する。CDM(市民的不服従運動)が広がる。3月になり、軍は銃を使いデモ隊員を殺害し弾圧を強める。捜索令状もない自宅の母親を連行しようとする。子どもたちが泣きじゃくり、「お母さんを連れていかないで」と訴える。恋人の妊娠を知らずに、若者が森に入り軍事的抵抗に行く。そのつらい別れ。密林の中での若者たちが反政府派の軍事訓練を受ける。実写と物語がつながり、深い映像となっていく。そこには、自由を切望する抵抗のまなざしがある。「どうか私たちの声が届きますように」。

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 製作者のひとりである、マイケル(仮名)さんが訴えている。
 「この映画は2021年の末に完成しましたが、私たちを取り巻く状況はさらにひどくなってしまっています。いまや『戦争状態』とさえ言える状態になっていることを知ってほしいと思います。抵抗勢力の力が強まり、軍の力が弱まってきて、戦闘が至るところで見られるようになってきました。東京に例えれば、長野あたりで戦争が起こっているという距離感です。身近なところで大変なことが起こっている、という感覚がずっと続いています」。
 「軍の行動が残酷になってきていて、最近も抵抗する活動家が2人、公式に処刑されました。違法な形でも、10人以上の活動家をある刑務所から別の刑務所に移管するという理由で連れ出しながら、逃亡したと見なされ処刑されました。いま、そんなことが現実に起きているのを、この映画を通じて知っていただきたいと思います」。
 映画上映後、ジャーナリストの北角裕樹さんの報告があった。     (M)

ジャーナリスト
北角裕樹さんの話


 2014年からミャンマーで取材をしてきた。2021年のこの映像の時に、一カ月拘束され、その後日本に戻ってきた。同じような境遇にあった久保田徹さんといっしょにミャンマーのジャーナリストを支援するDocu Athan(ドキュ・アッタン)を設立して、ミャンマーのジャーナリストたちといっしょに活動している。
 2021年の前半の映像はぼくが見ていたそのままが映像に残っている。例えば、デモ隊が危なくなって階段を上がっていくシーン。あれはぼくが経験したシーンだ。ここでは断片的映像になっているが、市民たちがこぞって参加していた。私のようなジャーナリストをかくまってくれた。

実情を世界に
命かけた快挙
 この後、会場の質問を受けて、北角さんのお答え。
 
――どういう形でこの映画は作られたのか。

 10人とされる監督はみんな匿名。海外のプロジューサーが個々の人たちを知っていてこの作品を作ったと理解している。送信だとかフィクション部分の撮影とか非常に危険だった。ここに映っているのはクーデター後半年ぐらいもの。4月以降は厳しくなっていった。ヤンゴンの場面が多く出ているが、そこから田舎の方に逃げた。後半の映像で解放区、民主派が支配しているであろう所が出てくるが、そういった所に逃げたりした。そこから自分の安全を確保して何らかの方法で映像を送る。映像を送るのもたいへんで、インターネットが軍によって切られたりもしている。どういう方法で送ったのか分からない。人によってはディスクを国境を越えてタイから送った。
 匿名になっているが彼らも望んで匿名にしているわけではない。討論して10人で一つの作品となったのではないか。本当は名前を出して撮りたかっただろう。2022年ベルリン映画祭で、ドキュメンタリー映画賞を受賞した。ミャンマー映画としてはこれまでになかった快挙だ。
 
――日本政府とミャンマー政府の関係について。

 クーデター前の10年間は民主化に向かっていた時代だ。その内の5年間はアウンサンスーチー政権。日本政府はその10年の間に多額の援助を開始した。鉄道、教育、医療などに。一年に一千億円を超えた。日本政府の建前はこれからミャンマーが民主化するんだから、応援するというものだった。それがクーデターで破綻した。鉄道は兵士に利用され、タイ国境にあったカレン州の難民キャンプは国軍によって破壊された。日本政府としては予想外のことだった。しかし、日本政府はそこから民主化に逆行していると話すべきだったが、クーデターを起こした軍に援助を行っている。すでに決まったもの、新しいものはやらないとしている。
 なぜか。非常に不合理だ。長年ビジネスをやっている。それが失敗だったと言えない部分もある。日本が援助をやめればロシアや中国の方にミャンマーが行ってしまうのではないか、という意見もある。ただ、最終的には日本政府が決断できない。止めようとすると誰が責任を取るのか大変なことになる。状況(クーデター)が変わって、ミャンマーの人が苦しんでいるところに、援助をするのはおかしいと判断すべきだ。

軍の行動に
制約はない
――映像の中で、「お母さんを逮捕しないで」と子どもたちが叫ぶ場面がある。逮捕令状がないのではないか。拘束された場合どんなことが起こるのか。逮捕リストに載ったから逃げないといけないと若者が言っていた。それがどういうものか。

 私も当事者で拘束された。捜査令状は基本的にない。午後7時半ころ、私の家にやってきて、ドアを叩かれるので開けたら、POLICEと書いてあるシャツを着た7人ぐらいがいた。罪状も告げられずに連れていかれた。クーデター後に、身柄の拘束に関する法律が改正された。好き勝手に人を連行していくという状況になっている。私は外国人ということもあって、捕まった直後にインセン刑務所に連れていかれた。多くのミャンマー人はそのまま軍の施設に連れていかれる。軍の施設はひどい所で、ある種法律の枠外になってしまっている。私の友人はそこで、10日間収容された。その間、目隠しをしたまま警棒で殴られる。何かを言おうとしたらまた殴られる。非常に凄惨な拷問を受けた。言っていないような調書が出てきてそれにサインさせられてしまう。
 その後、裁判もあったりなかったりする。例えば軍の施設に連れていかれて、十分痛めつけられて、もういいやと解放される人もいる。司法手続きはまったくされていない。司法手続きにのる人はその後、刑務所に移されて裁判がある。その裁判も拷問でとられた調書が出てきたりで、ほぼ何を言ってもダメだという状況になってしまう。出てきた人もいるので、その後の人生に関心をもってもらいたい。

==一言、告知を

 匿名ですが声を上げようとする人たちがいる。私たちはミャンマー人を支援するドキュ・アッタンで作ったTシャツを販売している。ミャンマー人のアーチストがデザインしたもの。アーロンという所の停電の様子を描いたもの。クーデター下で電力が足りなくて一日何時間も停電がある。そこでひっそりと生きざるをえない、沈黙せざるをえないことを描いたもの。このTシャツの売り上げはこのアーチストの潜伏中の生活費にあてる。ドキュ・アッタンのサイトで映像が見られるのでよろしく。
(発言要旨、文責編集部)

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