書評『硫黄島上陸友軍ハ地下二在り』著 酒井聡平 講談社/1650円

 日本国内の島々の中で、一般人が上陸できない島がある。そのひとつが第二次世界大戦下、日米の激戦地「硫黄島」だ。硫黄島は、小笠原諸島の先、東京から直線で約1200キロに位置する火山の孤島で、敗戦間近の1945年2月19日から3月26日までの約1カ月半にわたり日本軍とアメリカ軍が想像を絶する死闘を繰り広げた島として知られる。
 その戦死者は、日本軍約2万人、アメリカ軍約7000人と言われ、未だ日本軍戦死者の遺骨1万人が不明だという。アメリカ軍は、当初5日間で攻略する計画を立てていたが、島内にトンネルを張り巡らし地下陣地を構築し、島全体を要塞化した日本軍は従来の水際作戦に加え地下陣地を活用した持久戦、そして遊撃戦によってアメリカ軍の思惑を超えた出血を強制した。日本軍の指揮官は栗林忠道陸軍中将、アメリカ軍は第5艦隊司令官レイモンド・スプルーアンス提督らがその任についていた。日本軍もアメリカ軍も硫黄島は戦略上重要な場所だった。アメリカ軍にとって、この島の滑走路は日本本土空襲に絶対的な有利な位置に有り、日本軍にとっては絶対国防圏に位置するからだ。

忘れてはいけないこと

 本書は、前述したように未だ見つからない日本軍将兵の遺骨1万人のありかを北海道新聞記者であり戦没者の遺族である酒井聡平氏が、4回にわたり渡島し、政府派遣の硫黄島戦没者遺骨収集団(3回)の一員として遺骨、遺品を捜索した記録である。硫黄島には民間人は存在しない。居住するのはアメリカ軍と日本の自衛隊のみだ。そして皮肉なことに宿泊するのは、自衛隊の管理地区にあるアメリカ軍の下士官用の施設だという。
 さて、1万人におよぶ遺骨はどこで眠っているのであろうか。着目したのは地下壕。それも滑走路の下に存在するであろう未知の地下壕である。
 硫黄島が火山島であることは先に記した。つまり、地下壕には火山によるガスが充満し、地熱により灼熱地獄を思わす所も少なくない。文字通り危険を伴う捜索である。
 滑走路の下に位置する地下壕はマルイチと呼ばれていた。現在の滑走路は、全長2650メートル、幅60メートルという広大なもの。今は、自衛隊とアメリカ軍が使用している。そのため、マルイチの地下壕の捜索調査は、土日に限られていた。内部調査は、はじめ無人カメラで危険物があるかを調査し、ガス濃度や内部温度を測りなど入念な準備のあと、有人による調査を始めたという。70度にも達する内部の温度を少しでも下げるために冷風機を設置したと書かれている。
 しかし、30分交代で幾度か行われた捜索では遺骨は発見できなかった。さて、それでは遺骨はいったいどこに眠っているのであろうか。本書には、未だ見つからない戦没者の遺骨を探し求める執念と、戦争の愚かさを読者に伝えてくれる。
 著者は最後に、自分の座右の銘として高木いさお氏の原爆詩「8月6日」の一節を記している。
 忘れてはいけないことは
決して忘れてはいけない
(雨)

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