映画紹介「風よ あらしよ」(劇場版)

100年前、自由を求めて闘った一人の女性の生涯

 2月23日、新宿ピカデリーで映画「風よ あらしよ」(劇場版)を見た。関東大震災時に、大杉栄、甥の橘宗一とともに、甘粕正彦憲兵大尉らによって虐殺された伊藤野枝(当時28歳)を主人公にした物語だ。NHKが制作したものを劇場版として上映している。偶然1日前にFacebookで友人がこの映画を紹介したのを見て、東京では23日午前中の上映のみのようなので急きょ観た。
 真冬並みの寒さと小雨が降るあいにくの天候だったが、ピカデリーに着くと、映画館は人で溢れかえっていた。関東大震災時の虐殺事件を扱うような映画が大衆に受けるのだろうかとちょっと不安と興味があった。映画を観ていた人は客席の三分の一くらいだっただろうか。
 私はこのテーマの映画を見るのは三回目だ。一回目は1970年の「エロス+虐殺」、次に観たのが四女ルイ(1922~96)の生涯を描いたドキュメンタリー映画「ルイズその旅立ち」(1997年制作) だ。
 映画は私が想像していた以上に、伊藤野枝の社会を変えたい、女性差別を打ち破りたいという強烈な意志に圧倒されるものだった。

野枝の力強さに
必死にしがみつき
 野枝を演じた吉高由里子が映画パンフレットのインタビュー記事の中で、このことを伝えてくれているので紹介する。
 「野枝の覚悟と力強さ 全部の行動がいわば命懸けなので、野枝本人も『自分は畳の上でなんか死ねるわけがない』と書いていた。…ものすごく人間的で、ひきつける引力がある。演じている私が野枝の力強さに置いていかれないように、…日々必死にしがみついている感じでした」。
 「伊藤野枝 10代の若い時から、闘う姿勢というか、命を燃やし…削り、研磨していくような、どんどん鋭くとがっていって貫いていくような、心の中に『矢』を持っている人だなと感じました。…野枝が命がけで当時挑んでくれたから、つながる今があるのかなという風に感じています。…男の人もすごく恐れた人物だと思います」。
 「野枝の人生 『伝え続ければ必ず届くはずです』というセリフが青鞜社のシーンであるんですけど、『響かない』と思っていたとしても、またそう見えたとしても、熱意というのは絶対どこかで誰かには伝わっているし、それが時を経てのちのち残っていくものなんだなという事を感じました。…男女平等というのが当たり前のような時代に生まれている私にとって、窮屈な時代の中で『間違っている』と訴え続けていく女性としての強さは本当にすごいなと思いました。ずっと言っていることは変わらないし、やりたいことも変わらない。すごく女性として息をするのも苦しい時代によくぞ闘っていたなという風に思いますね」。

青鞜社社員から
より深く運動へ
 映画のあらすじ。1912年、17歳で無理やり婚姻させられようとするのを蹴って、東京で「元始女性は実に太陽であった」平塚らいてうの青鞜社(1911年に『青鞜』創刊)に出向き社員になる(1910年、大逆事件がでっち上げられ、1911年には幸徳秋水ら12人が処刑される)。ダダイスト・辻潤と同棲を始める。弾圧が強まり、1914年にらいてうから『青鞜』を引き継ぐ。より実践的な貞操論争、堕胎論争、廃娼論を始める。
 大杉栄とめぐりあった野枝は現実離れしていく辻より、実践活動家の無政府主義者・大杉との関係を深めていくことになる。大杉の「自由恋愛論」などとして神近市子、妻、野枝との関係を維持しようする中、神近によって大杉が襲われる事件が起きた。その後、大杉は自分の考えの誤りを自己批判し、野枝と暮らすようになり、政治・労働運動などに深く関わっていく。
 映画で取り上げられるのが足尾銅山鉱毒事件。足尾銅山と明治政府は鉱毒を取り去るのではなく遊水地を作り、そこに鉱毒の混じった汚染水を流しこみ沈殿させるという何の解決策にもならないことを無理やりやってのける。農地を取り上げられた農民たちは必死な闘いを組んだが、結局農地を捨てる以外に生きる道はなかった。こうした理不尽な谷中事件を知り、野枝は怒りに燃えた。

光る演技の
出演者たち
 映画の結末を知っているだけに、殺害の場面では涙が溢れた。甘粕が「関東大震災を利用して朝鮮人が暴動を起こしている。その裏のリーダーとして主義者が政府転覆を図るものだ。万死に値する」と野枝に迫る。それに対して、野枝は「私たちは人々が困っている時にそんなことはしない」と決然と主張する。大杉の遺体の所に連れていかれた野枝が甘粕に向かって「犬、犬、犬」と連呼する。甘粕が鬼の形相に変わる。次の場面で死体が袋に詰められ、井戸に投げ入れられる。
 吉高由里子が17歳の少女から28歳の堂々とした女性活動家までの伊藤野枝を見事に演じていた。そして、大杉栄役の永山瑛太、平塚らいてう役の松下奈緒、辻潤役の稲垣吾郎の演技も光っていた。    (滝)
 
 

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