読書案内「北から命がけで日本に来た男」

キム・ヨセフ著  光文社(1400円+税)

北朝鮮の生々しい実態を明らかに

 テレビに映し出される金正恩と娘、拍手喝さいする官僚たち、軍事パレードで着飾って踊る平壌市民ら……。これらは北朝鮮に住む1%にも満たない特権階級の様子に過ぎない。
 それでは残りの99%の人々の営みや、その人たちが何を考えて生きているのかなど、まったく報道されることもなかった。2008年、23歳の時に2度目のチャレンジで脱北に成功したキム・ヨセフという個人の目線と経験を通してではあるが、本書はその生々しい実態を伝えてくれる。

 母と姉たちは餓死した

 著者は1985年生まれであり、北朝鮮での大水害とソ連の崩壊の影響で300万人の餓死者を出したと言われいる「苦難の行軍」時代には、まだ10歳の少年であった。
 母と2人の姉はすでに餓死しており、父親はある日突然いなくなり、弟と2人で残飯や路上に落ちているものなど食べられるものは何でも食べたという。その後、著者は長男ということで貧しい生活をしていた祖父母に拾われるわけだが、幼い弟とは生き別れとなっている。
 「とにかく食うためだけに必死だった」「自国の矛盾に気づくこともない」「僕はなぜ自分がこんな暮らしをしなくてはいけないのかと疑問に思うことすらできなかったのだ」。
 この時期、北朝鮮には韓国をはじめ国際支援として大量のコメが送られているが、99%の飢えた人々にそんな話が知らされるはずもなく、官・軍から闇ルートで商人に売却され、商人はそれを市場で高値で売りさばいたのであった。貧しい人々はコメなど口にすることはできずに、トウモロコシと野草で飢えをしのがなければならなかった。

自由化と食べられる生活を

 著者は国内外の現状から「金王朝」は打倒できないと考えているようだ。その上で北朝鮮政権への要求として、①ベトナムのように自由化し、国民が自由に海外に往来できるようにしてほしい。②食べるものに困らない国になってほしいと、2点だけを提起している。
 その他本書では「北朝鮮人から見た韓国」「北朝鮮人から見た日本」など興味深い視点から書かれている文書も並んでいる。そして何よりも、1度目の失敗も含めて「2009年1月、約1万kmの命がけの道のりを辿り、僕はようやく自由を手にした」その道のりを、彼のナビゲートで読者はハラハラ、ドキドキしながら体験することになるだろう。       (竜)
 
 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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