「Artificial Intelligence(人工知能), 2020」
読書案内
メラニー・ミッチェル
Picador Paper, November 2020, USD 14.39
今年に入ってからメディアでAI(人工知能)に関連するさまざまな事件等が報道されている。AIを使用したウイルスの作成、情報漏洩、詐欺など多岐にわたる。それに伴い、AIによる事件やリスクについて議論が行われている。AIによる事件の事例、リスクや対応策、またそれにともなうビジネスの活用等を解説するコンサルタントまで登場している。
本書の著者はニューヨークの高校で数学の教師をしたあと、アメリカサンタフェ研究所において類推論、複雑なシステム、遺伝的アルゴリズム、細胞オートマトンの分野の研究を行なってきた。現在ポートランド州立大学でも研究を行なっている科学者である。早くからAIに関心を持ち、近年は勤務している研究所で「AIにおける意味の障壁の衝突について」などのワークショップを開催してきた。
彼女はAI研究への強い支持を表明しながら、ハッキングに対するAIの脆弱性と社会的偏見を継承する能力について懸念を常に表明している。
本書で一貫しているテーマは、人の思考に関する指針である。
科学者として著者は、時にAIの専門的な説明を行う際、わかりやすい図や独特のユーモア、逸話を多用し読者をAIの世界に引き込んでいく。また本書の随所で見られる参考文献の紹介はAIへのさらなる学習の助けになるであろう。
AIを説明するうえで多くの専門用語の使用は避けられないが、それらについても著者による明確な定義がされている。さらに科学者としての著者のAIに関する説明と共に、AIに対する哲学的、心理学的な視点での著者独特のAIに対する理解や知性、時には常識も見られる。
本書の最終章はAIの将来についての著者の考えが示されている。本書は、AI技術の専門家のみならず、科学技術に関心のある一般の読者にとっても理解が可能なものである。
本書を読み終えて、AIについて、そして改めて考えてみた。人間ではなく、AIが最終決定を行う社会はどのような社会であろうか。
資本主義社会においてAIの使用は、企業が成長し続け、社会における競争上の優位性を維持するために不可欠である。またその技術は、急速な技術進歩により、私たちの日常に不可欠になりつつある。しかしこの技術は社会のさまざまな分野に影響を与え始めている。
AIによる差別強化・増幅の危険性
「犯罪ナビ」による人種差別や、AIによる採用ツールやAIをもとにした信用スコアリングによる性差別などはそのほんの一例である。2016年、マイクロソフトのAIチャットボットが一般公開されたが、そのリリース直後、チャットボットが人種差別的な暴言を連発し、サービスは直ちに閉鎖された。
2019年、ゴールドマン・サックスは、同社の運営するAIがユーザーの信用スコアを計算する際に女性に対して不当に低いスコアを与え、サービスにジェンダーギャップが生じていることが判明した。
2020年、英国の試験規制当局が使用する予測採点システムが、労働者階級やマイノリティの学生に不利なスコアを付与していたことが判明し、同機関に対する強い批判がされた。その他AIをもとにした日常的なツールは、私たちの社会において人種、宗教、富、または健康状態に基づく差別を躊躇なく剥き出しにしている。
さらに近年問題とされているのは、AIがその差別を強化し、増幅することである。ユネスコ2020年の調査結果は、人種的イデオロギーがAIに与える影響を明確に示している。
調査結果は、特に女性やLGBTQIの人々に対するジェンダーバイアスがビッグデータを通じてAIソフトウェアに送信され、差別につながることを示した。利益志向の資本主義社会では、これらの問題に対処するための抜本的な措置は講じられず、その後も同様の問題が世界各国で再発し続けた。
一方、いわゆる「社会主義国」でもAIは権威主義的な技術として、ガバナンスの代替モデルを促進するために影響力を拡大した。 例えば、中国は機械学習の力を利用して人口の監視を強化し、ウイグル人や他の少数民族を取り締まり、支配してきた。
このようにAIの技術は、人々を差別化し、分類する状況を作り出す危険性がある。またAIチャットボットが日常的にオンラインで人種差別的なレトリックを吐きだす現実の中で、私たちはどのような対応を取るべきであろうか。
労働者管理と監督
私たちは、AIにリンクされた機械が自動的に人間の命を奪う社会に直面している。同時に、AIによって生み出されたデジタル植民地主義と監視資本主義は、人間の尊厳を脅かすレベルに達している。このような階級差別を生み出す技術には、適切な規制が必要である。
社会主義社会では、AIによる決定は最終決定ではない。社会主義社会の技術的基盤は、ジェンダー平等、性的自由、自然との望ましい関係のための主要な考慮事項として生命の尊厳を持って、労働者階級の民主的エンパワーメントの管理と監督の下になければならない。
(YN)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
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