「グリーン資本主義」に未来はない

かけはし 第2659号 2021年3月29日

エコ社会主義へ!
脱原発がめざす社会とは
根本的変革への討論深めよう

新しい成長戦略

 2015年9月の国連におけるSDGs(持続可能な開発目標)と、同年12月の地球温暖化対策のための「パリ協定」の採択を受けて、不十分ではあったとしてもいち早く対策に乗り出したのがEUだった。
その背景は1986年のチェルノブイリ原発事故の影響で放射線被害を経験してきたこと、「緑の党」などに代表される環境保護運動が定着していたこと、そしてここ数年の気候変化を体験して「気候変動」への危機感が強まるなかで、CO2の削減を求める若者たちの巨大なデモが頻発したからであった。そうした流れの中で、19年5月に実施されたEU議会選挙では、ドイツの緑の党が過去最高の20・5%(前回を倍増)を獲得している。
 そして10年前の福島原発事故も大きな影響を与えた。ドイツは2030年代のうちに脱原発と脱石炭火力発電を決定して、再生可能なエネルギー政策に舵を切り、19年には国内発電量に占める再エネの割合を42%にまで拡大している(同年の日本の割合は19・2%)。EUではそうした再エネへの転換を通して、シーメンスやヴェスタスに代表される洋上風力発電事業とそのサプライチェーンを着実に造り上げてきたのである。こうして洋上風力発電市場はEUの独占状態となった。
 19年12月、EU委員会は50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とする「欧州グリーンディール」の法制化を発表し、グリーン資本主義の推進を新たな成長戦略とすることを明らかにした。18年までに持続可能な環境関連分野(その分類には相当怪しいものもあるが)には、3000兆円が投資されている。主要政府による金融緩和と補助金などの財政出動と金融市場のカネ余りを背景として、グリーン市場に大量のカネが流入している。コロナ危機はこうした動きを加速させていて、現在の異常ともいえる株価上昇の大きな要因にもなっているのだ。

「グリーン資本主義」か

こうしたEU資本の攻勢に対して、グローバルな「グリーン経済戦争」が勃発していると主張する声もエコノミストの中で上がっている。「地球温暖化による気候危機に対処するための脱炭素」という「御旗」は、トランプのようにそれは「フェイクだ」と何の科学的な根拠も示さずに否定するような政治家を除けば、誰もそれを否定することはできない。再エネ電力生産で先頭を走ってきたEUは、脱炭素のグローバルな覇権を構築しようとしていることは明らかである。現在極めて曖昧なESG(環境・社会・企業統治)投資に対して、それをEU主導の分類基準を一般化することによって、莫大な投資をEUに有利なように誘導しようとしている。
さらにEU委員会は昨年5月に、新型コロナウイルス対策として総額90兆円の復興基金歳出を決めて、そのうちの30%を「経済復興のための公共投資は、環境に害を及ぼさない」とする「次世代EU」基金と位置付けた。そして7月には、大規模な洋上風力発電の電力を利用して水素を大量製造する「水素戦略」を発表している。
水素は水を電気分解して取り出すわけだが、その能力を飛躍的に高めて30年までに1000万トンの製造を目標としている。このプロジェクトは、石油メジャーのシェルや大手ガス企業などによって主導されようとしている。
こうして再エネ電力生産のための大規模プロジェクトや水素製造など、脱炭素の「御旗」を立てて膨大な資金をいかに自社資本に引き込むのかという構図が浮き彫りになってくる。グリーンはあくまでも建前にすぎず、本音はどれだけ利益を出せるのかということなのである。IT分野で世界制覇したGAFAなどに続いて、グリーン分野で世界制覇しようとしているEU資本の野望が露骨化している。
また現在ドイツなどは、エネルギー資源としてロシアの天然ガスに大きく依存している。EUは安全保障上の観点からも、この依存をできるだけ早急に断ち切ろうとしていることは明らかだ。

新しい延命策とバブル

洋上風力発電を例にあげてみると、どれだけ巨額な資金が投入されているのかということが良くわかる。現在世界基準として製造されている洋上風力発電は1基1万KW級である。これは国内でよく見かける大型の地上風力の3~4倍の大きさであり、増速機や発電機を収納するナセルと呼ばれる部分の重さは約400トンもある。こうした大型洋上風力発電を1基設置するためには、数千億円の費用が必要になるとされている。日本政府はこれを30年までに1000基、50年までに3000~4500基設置するとしているのだ。50年までに数百兆円もの資金を投入するということになるのだろうか。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、30年の洋上風力発電の導入量は18年現在の約10倍に拡大するだろうと予測している。まさに天文学的なカネが市場に降り注ぐというわけだ。そしてアジアで先行するのが台湾だ。30年までに550万KWの導入を決めて、すでに9500KW級62基をヴェスタスに発注している。台湾国内では風力発電関連のサプライチェーンが造られつつあり、日本はそこから相当な部分を輸入しなければならなくなるのかもしれない。あるいはシーメンスや、洋上風力発電開発を進めてきたオランダのエネコを昨年3月に中部電力と共同で買収した三菱も、日本での製造拠点建設を狙ってはいる。
いずれにせよEUばかりではなく、資本は莫大なグリーン投資に群がって利益を生み出そうとしている。そして再エネ電力や水素製造の世界でも大量生産、大量消費の資本主義的なシステムを作り上げようとしている。しかし現在の過剰投資によるグリーンバブルは、さほど遠くはない時期に再エネ電力と水素の過剰生産による危機を作り出すことになるだろう。もちろん生産調整は可能だろうが、資金の流入が止まり、電力価格が下げ止まり、そこから利益が上がらなくなれば資本はすぐにでも撤退するだろう。
それは現在の原発を見れば明らかだろう。1970年代に「石油はあと30年で枯渇する」というデマが世界中に拡散されて、地域住民や市民の反対運動を押しつぶして次々と作られてきたのが原発であった。それが今はどうなっているのだろうか。日本では核燃料サイクルはすでに破綻している。それぞれ数兆円をつぎ込んだ高速増殖炉のもんじゅは廃炉になり、再処理工場はピクリとも稼働しない。廃炉作業は大量の放射能汚染廃棄物質と労働者被ばく以外は何も生み出さない。そしてあげくの果てには、数十万年も毒性が残る汚染物質を地下深くに埋めて、福島原発の汚染水も海に廃棄して「何もなかったこと」にしようとしているのである。
カネの集まるところに群がり、集まらなくなれば投げ捨てる。まさにそれこそが資本の論理なのだ。世界中の洋上で朽ち果てた巨大な風車がガラガラと音を立てながら空回りし、地上では焼け焦げて穴だらけになった太陽光パネルが野ざらしにされる。グリーン資本主義はそんな未来しか残さないだろう。
資本は地球や環境を守るために再エネを推し進めるわけではない。当座の利益のために資金に群がっているだけなのだ。グリーン資本主義に未来はない。問われているのは誰が電力を含めたエネルギーを支配して管理、運営するのかということである。大独占や大資本に支配されてきた結果として原発政策が推し進められてきたし、福島原発事故の大惨事を招いてしまったのだ。台湾やドイツに続いて、日本政府は明日にでも再稼働の中止と原発からの撤退を決定しなければならない。

菅政権のねらい

 菅義偉政権は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を打ち出した。そして昨年の12月25日付で経産省によって発表された「グリーン成長戦略」では、50年の電力生産構成を再エネが50~60%、原発・火力とCCUS(CO2の回収・備蓄)が30~40%、水素・アンモニアによる火力が10%とした。再エネ50%(EUは80%)の目標設置は、菅義偉政権らしいといえばそれまでなのだが、最初から「落第点覚悟の博打」だ。産業を動かす原動力である再生エネ電力の脆弱性は、自動車や化学など日本資本主義を支えてきた主力産業にとって大きな足かせとなるだろう。何よりも安倍前政権が原発と石炭火力の輸出を成長戦略としてきたために失った時間的ハンデは大きい。EUから完全に一周遅れになってしまった。
洋上風力発電は19年4月に施行された「新法」によって、現在は秋田県の南・北沖、長崎県の五島列島沖、千葉県の銚子沖が「促進区域」として指定されているだけだ。また水素・アンモニアの製造・活用とCCUSはいずれも試験・実験段階であり、製造・備蓄・輸送・利用の目途すら立っていない。しかも水素もアンモニアもこれまでの石油や天然ガス・石炭などと同様に輸入によって確保しようとしている。しかし水素を液体にするにはマイナス253度にまで冷却しなければならず、トルエンと化学合成して体積を500分の1にして常温で輸送するなど、輸送方法も課題となっている。しかもその水素は天然ガス由来の「ブルー水素」だとしているからたちが悪い。
アンモニアを燃焼させてもCO2は放出しないが、毒物に指定されていて、現在は燃料として使用することは認められていないのである。そして石炭の中にアンモニアを2~3割混合して、火力発電や製鉄などに利用しようというのだから話にならない。水素もアンモニアも燃焼によってCO2は発生しないが、様々な化学物質などと結合して人類を含む自然界に有害な影響を与えてきた窒素性酸化物(NOx)を大量に発生させる。CO2を出さないからOKというわけにはいかないのだ。

未来への構想力


現在の気候危機に対する唯一の正しい選択は「電力・エネルギーの民主化」である。すなわち世界中で労働者と市民によって、計画的で民主的な電力とエネルギーを生産、管理、運営する参加型のシステムを作り上げなければならないということだ。それは数百兆円をつぎ込んで、いつ朽ち果てるのかもわからない巨大な洋上風力発電を何千基も作ることではない。何よりも人々の手が届く、地産・地消を中心に据える公的な電力政策が重要である。
まずは省エネを徹底して、現在の利益を生み出す手段としてのエネルギー浪費社会を終わらせることである。そこには食糧生産と消費や輸送ロスの問題、移動手段の問題、石油由来の製品を含むリサイクル社会構築の問題、耐震を含めた住居の耐用年数を高める問題、資本主義が作り出した巨大都市解消の問題、仕事のあり方も含めた雇用の問題、気候難民受け入れの問題、そしてエコ教育の問題など社会全般の課題が含まれることになるだろう。そして将来的には電力は利益を生み出す商品としてではなく、誰もが必要に応じて使用できるものとなるだろう。
コロナ危機は私たちの社会の在り方の根本的な転換を迫っている。グリーン資本主義に未来はない。奴らに未来を託してはならない。気候危機の真の解決のために、そして将来を展望できる未来のために、エコ社会主義の実現に向けて共に立ち上がろう。
(高松竜二)

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