エコロジー

パンデミックと世界的なエコロジー危機のさまざまな側面
第4インターナショナル・エコロジー委員会

【このレポートは、第4インターナショナルのエコロジー委員会が2021年2月の国際委員会に提出した補足提起である】
 国際委員会の情勢報告は、「パンデミックは資本主義システムのさまざまな側面における危機を悪化させ、長期的な現象が重層的に重なり合う時代を開いた。それらの現象はこれまで相対的に独立的に発展していたが、爆発的な方法で一つに収斂しているのである」と述べている。
 この補足提起では、パンデミックと世界的なエコロジー危機のさまざまな側面との関連性を浮き彫りにすることを目的としている。新型コロナウイルスは動物から人間に感染し、人獣共通感染症でもある呼吸器系の病気の新型コロナウイルス感染症を引き起こすウイルスである。こうした人獣共通感染症は、エイズ、エボラ出血熱、ジカ熱、チクングニア熱、ニパ熱、SARSと続いてきた。問題の根源を探ろうとするならば、なぜ、どのようにして、これらの病気が出現し、非常に急速に世界中に広がるのかを理解する必要がある。

 今回のパンデミックは、人間がその一部である自然に依存しているという関係、および資本主義によってこの関係が危険にさらされていることを浮き彫りにしている。健康は生態系の中にあり、その生態系自体が急速な変化にさらされている。
 過去50年間に根本的な変化があった。現在、全世界の脊椎動物の生体量のうち、圧倒的多数は家畜であり、その次が人間である。野生動物はその中のごく一部を占めているに過ぎない(炭素の質量で表すと、家畜と人間の生体量は、他のすべての哺乳類の20倍以上になる)。ウイルスや病原体の遺伝子プール全体が存在するのは、最大の遺伝子多様性を有する野生動物の中にある。しかし、淘汰の圧力により、病原体は最大の生体量である家畜に入り込み、さらに人間に入り込んできている。
 動物性タンパク質(肉・卵・牛乳)の需要は爆発的に増加してきた。家畜への投資で得られる超過利益をもたらすために、人々に食生活を変えさせるという強い動機付けが存在している。家畜生産の工業化は、農場の拡大と標準化をもたらした。しかし、こうした農場が生態系であることに変わりはなく、その中には病原体が存在している。動物を大量に、しかも非常に密集した状態で飼育すると、病原体が活動する条件を変えてしまう。
 病原体からすると、毒性の強さと伝染力の間には妥協点がある。毒性が強すぎると、感染する前に宿主を殺してしまう危険性がある。これはウイルスにとって、進化する上での袋小路となってしまう。これがエボラ出血熱の場合である。毒性が弱ければ、宿主のウイルス量が感染するのに十分でない可能性がある。この妥協点は、進化の能力を持つすべての病原体に常に存在する。ウイルス、特にRNAウイルスは、突然変異や適応の能力が高いため、もっとも危険なものである。
 非常に集約された工場的農業システムでは、多くの動物が非常に接近しているため、ウイルスがある動物から別の動物に伝染するのに、障害がほとんどない状態となっている。非常に強い毒性を持つことに、進化する上での利益が存在することになる。飼育密度を上げることで、毒性が強いことによる損失を軽減することができるのだ。
 こうした農場では、すべてが標準化されており、個体間の重要な遺伝的類似性が強毒性への進化を促進するのである。というのは、ある個体から発生したウイルスは、遺伝子的に似ている隣の個体に感染しやすくなるからである。
 バッチ管理(オールイン・オールアウト)では、何千もの同一の動物が飼育され、同時に屠殺された後、次のバッチに交換される。これでは抵抗力を生み出したり、それを拡散したりできない。それとは異なる形で組織され、遺伝的多様性を有するシステムでは、ウイルスに抵抗力のある個体が存在する可能性が高く、そのような個体が繁殖に有利であるため、抵抗性遺伝子がそのシステムの中で拡散される可能性がある。
 人獣共通感染症の増加を可能にし、ますます起こりやすくしている条件を検討すると、人間の健康、動物の健康、生態系の健康を同時に考慮する必要があることが明らかとなっている。
 過去30年から40年の間に人獣共通感染症が増え続けている原動力は、相互に関連した要因が組み合わさったことから生じている。そうした要因のすべては、資本主義によって、人間がますます強まる自然との略奪的関係の中に閉じ込められているというあり方に関係している。

*食肉産業が人獣共通感染症発生プロセスの中心にある。「遺伝子的に単一な家畜の飼育をおこなうことで、感染を遅らせるのに有用な免疫の障壁がなくなってしまう。より大規模でより高密度な個体群はより高い感染率を引き起こす一方で、[家畜が]密集した環境は免疫反応を低下させる。処理量の大きさは、すべての工業的生産に固有のものだが、感染しやすい個体群を継続的に補充することにつながり、毒性の強さを進化させる燃料を提供している」(ロブ・ウォレス)。工業的な家畜生産に加えて、野生種やその肉の取引・密売もおこなわれており、これが新型コロナウイルスのパンデミックに決定的な役割を果たした可能性がある。
*より一般的に言えば、工業的農業とは、生態系を破壊する化学物質を投入して、同一品種の森林を作ったり、単一栽培農業を押し付けたりするものである。「資本主義農業は、自然生態系に取って代わることで、病原体がもっとも毒性が強く、もっとも感染力が強い表現型を発展させることのできるまさにその手段を提供している。致命的な病気を生み出すのに、これ以上のシステムを考えることはできないだろう」(ロブ・ウォレス)。
*土地利用の変化および野生環境の破壊とそこへの侵入。森林伐採、湿地の干拓、[環境の]人工的改変、資源採掘主義は、野生動物の自然生息地の消滅や分断を引き起こし、病原体の伝統的な宿主(コウモリなど)を移動させ、人間や家畜と直接的かつ新たな接触を招いた。
*生物多様性の崩壊。生物多様性と病気との関係は複雑である。というのは、一つにはわれわれの病気のほとんどが生物多様性に由来するというパラドックスがあるからだ。しかし、問題は実際には接点の問題であり、野生の宿主から人間へ直接感染するという問題ではない。そのことはむしろ、大きな生物多様性と人間との共存のためには安心材料となっている。もう一方では、病原体の循環は、こうした病原体を制御する種の減少や消滅によって促進されるが、種の豊かさの変化(生態系において100種が10種になる)や均等性の変化(一部の種が優勢になり、他の種は端に追いやられる)によっても促進される。
*気候変動。気候変動が人獣共通感染症を直接促進するという直接的な証拠はないが、動物が極地に向かって移動し、通常は遭遇しないような他者と接触するときには、そうなる可能性はあるだろう。これによって、病原体は新しい宿主を見つけることができるようになる。さらに、永久凍土が溶けることで、未知の病原体が放出される可能性もある。

人間と自然間の
新しい関係必要


 われわれの要求には、以下の点が含まれなければならない。

*森林伐採、湿地帯の干拓、新たな掘削・採掘活動、海洋汚染を含む生息地破壊を停止すること。
*工業化・集約化された農業と工業的漁業の廃止。世界の生物多様性損失の60%は、アグリビジネスと大規模漁業が直接の原因となっている。ブラジルのアマゾン農業における牧畜部門は、国際的な牛肉と皮革の取引に牽引され、この地域の全森林破壊の約80%、世界の年間森林破壊の約14%を引き起こしている。
*野生動物や絶滅危惧種を取引する「ウェットマーケット」の廃止。
*食糧主権および肉の消費の大幅な削減。現在、毎年700億頭の動物が人間による消費のために屠殺されている。これは2050年までに倍増するとされている。工業的飼育は膨大な量の資源(土壌、エネルギー、農産物)を消費している。そうした資源は、工業的飼育で消費されなければ、人間がもっと有効に利用する(あるいは利用しない)ことができるだろう。
*人口集中。都市化へと向かう動きは逆転させる必要がある。都市は人口集中を削減するために再設計される必要がある。
*輸送の大幅な削減。ウィルスの迅速な拡散は、持続不可能な世界的モビリティシステムにも起因している。大量航空輸送へ回帰しない。
*風力・太陽光・潮力・地熱などの再生可能エネルギーへの包括的な転換。その中には原子力は含まれない。

 こうした要求はすべて、地球温暖化との闘いにも貢献するものであり、差異のある責任を考慮に入れた上で、社会正義・気候正義を完全に尊重して実施されなければならない。包括的な要求は、人間と自然の間の全く新しい関係でなければならない。このことが意味するのは、人間社会の組織のあり方における重要な構造的変革であり、われわれ全員の個人的生活のあり方や地球に対する影響を管理する方法における大きな変革なのである。
(『フォース・インターナショナル』4月28日)

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