気候変動 大洪水―これは自然災害ではない
世界の支配階級の犯罪的煙幕作戦を許すな
遅滞なくエコ社会主義的転換へ
ダニエル・タヌロ
以下を書いている時点で、ベルギー、ドイツの一部、またオランダの恐るべき洪水は100人以上を死亡させた。数千人が避難を強いられ、すべてを失い、またその心には大きな傷がずっと残るだろう。不幸なことに、他の人々にはその「運の良さ」すらなかった。そして行方不明者の大きな数は、最終的な死者数がはるかにもっと多くなる、ということに疑いを残さない。水の汚染や土壌汚染(石油関連物質、重金属、PCB類、プラスチック、汚水、その他)の問題への影響は言うまでもなく、物的な損害は甚大だ。
気候変動が意味するもの現実化
この災害はほとんど確実に、温室効果ガス排出(主には化石燃料燃焼が原因の)による気候変動のあらわれだ。これが孤立した事象であったとしたら、最後にはいくらかの疑念はあったかもしれない。
しかしまず第1に、この例外的な降雨は、同じように例外的な熱波と干ばつという2年(2020年の熱波はベルギーで1400人の死者をつくり出した、……ということを思いだそう)に続いている。
第2に、欧州におけるこの豪雨がカナダにおける致死的で前例のない熱波と同時に起きているという事実は偶然ではない。このふたつの現象が北極循環ジェット気流(北極周辺の高緯度地域を周回している強風)の乱れに結びつき、その結果である、ということは高度に蓋然性が高い。
第3に、極端な気象事象(より荒々しい嵐やサイクロン、より強烈な熱波と寒波、前例のない干ばつや山火事、雨、洪水、地滑り、その他)の増大は、争いの余地がなく、30年以上前の第1報告以来IPCC(気候変動に関する政府間パネル:訳者)が予想した地球温暖化の諸結果に完全に対応している。
諸政府は気象の警報を無視した
関係諸国の気象機関は、われわれの地域上空に「コールド・ドロップ」――寒気の塊を伴った孤立し安定した低気圧域――があると診断していた。このタイプの現象は、大量の降雨を引き起こすことが知られている。われわれは、低気圧が停滞する中でこの降水量が数日間続く可能性がある、と分かっている。今回の場合、「コールド・ドロップ」が大量の水蒸気を含んだ巨大な量の暖気で囲まれていたがゆえに、脅威はなおのこと深刻だった。
この水蒸気が低気圧域を取り巻く中でそれは、濃縮し雨となって降り注ぐ宿命となっていた。気象学者と水理学者は、例外的な事象が近づいている、と警告した。大洪水が始まるまでの2―3日は、この脅威を分析し、非常方策を取り、市民保護部局と軍を動員し、住民に警報を出し、もっとも危険な住居を空にするために使われる可能性があったと思われ、またそうされるべきだった。
これは洪水を防止することはなかっただろうが、しかし損害は限定され、何よりも命を失うことは避けられていたと思われる。諸々のサイクロンに関するキューバの経験は、予防が大きな違いを作る、ということを確証している。しかしここでは、何もなされなかった。あらためて(新型コロナウイルスの場合と同じく)、警報は無視された。
理由は常に同じだ。つまり諸政府は、彼らの鼻を経済の飼い葉桶に突っ込み、彼らの優先性は企業の「競争力」であり、人間が気候的破局に入り込んでいるという事実を統合することを拒否している(ベルギーでは、雲が集まっている最中に、政治「階級」の一部は、アウアッハとムスリム同胞団間のつながりに関するゴシップを広げる方がもっと重要、と感じたほどだ)(注1)。
被害加重要素は構造的かつ多数
この用意のなさに加えて、洪水の規模とその結果は、さまざまな種類のおびただしい構造的要素によって大きくされた。一般的に述べてみよう。つまり、予算削減(特に市民防護部局と消防部隊――ジャン・ジャムボンよ、ありがとう)(注2)。土地のコンクリート化(水の排出を妨げる)。流れの改造と湿地(スポンジのように機能する)の排水。都市乱開発。雨水(下水に送られ、川に流れ込む前に処理プラントを通過する)管理。土地投機(洪水原での建設奨励)。農業政策(大規模単一耕作農業)と農業の諸行為(深耕、土壌を覆う植物の欠如、生け垣の消失)。このようなことだ。
これらすべての分野で、何年も前に基本的な予防方策が取られていなければならなかった。そして、新たな悲劇を避けるためには遅滞なくとられなければならない。しかし、気候変動の不可逆的な部分に対処するために必要とされるいわゆる「適応」が、問題の根源、つまり気候それ自身を回避するために利用されてはならない。
われわれは可能な限り早期に化石燃料を取り除く必要がある。そしてそうするためには、再生可能エネルギーの比率を高めるだけでは十分でない。われわれは、資本主義の生産力主義と絶縁する必要があり、生産、消費、さらに自然との関係に関するわれわれの様式を完全に変え、それを公共的な計画にしたがって行う必要がある。
必要なのは貸付けではなく賠償だ
政府は国民的服喪日を宣言し、連帯と団結を呼びかけている。しかし政府はその声明で、気候変動に気づいていない住民の一部を分からないままにとどめている。ベルギーの首相は、「例外的な、前例のない」できごととして話した。しかし肝心要なことは、地球温暖化によって、「例外」が標準となり、「前例のない」がありふれたことになる、ということなのだ。
われわれは、「知識」と「権力」の結びつきをはっきりと見ることができる。つまり、気候にふれることなく洪水の性格を「例外」と強調することは、彼らの責任を逃れつつ、決定策定に関する独占を政治家が保つことを可能にするのだ。彼らは、明示的にそう語ることなく、災害が実際はそうではないのに「自然災害」、との考えを伝えている。
こうした議論が、意図しなくとも気候否定派(政権内では、ドリュー・ゴデフリディと故イステファン・マルコの仲間であり、首相代行である、改革運動のデヴィッド・クラリンヴァルが代表)(注3)の利益になるような行為であることは言うまでもない。なお、改革運動代表のGL・ブシューズは、「何人か」――特に気象学者のJP・ファン・イペルセル――によって洪水と地球温暖化の間に付けられた結びつきに基づいて問題を考えることをふさわしいと見た。
しかし権力を握る政治傾向のすべては、先の議論を推し進めることに一定の利益をもっている。「自然災害」について話すことは、不都合なものとして隠された、継承を重ねた政権連合の気候に関する不作為を可能とするのだ。犠牲者が政府の責任について明確な考えをもっていたとすれば、被災した家計当たり2500ユーロの貸し付け(ワロン政府の決定)は、彼らにはもうひとつの不公正、犠牲者への侮辱、として見えたと思われる。
住民はこの返済が必要な貸し付けの代わりに、あらゆる可能性に背を向けて化石燃料への投資を続けているような、企業、金融機関、株主が資金を出す、その名に値する賠償を求める資格がある。
気候問題は紛れもなく階級問題
必須である犠牲者との連帯を超えてわれわれは、悲劇の教訓を学ばなければならない。そして第1の教訓は、時間は短いということ、一刻も無駄にできないということだ。緊急の大事として、気候の破局を止めるためもっとも決定的な方策がとられなければならない。そうでなければ、気候は大異変へと変わるだろう。
第2の教訓は、われわれは政府を信用してはならない、ということだ。彼らは30年以上の間、気候に関し何ごとかを行っているとわれわれに告げ続けてきたが、ほとんど何も行ってこなかった。あるいはむしろ彼らは多くのことを行った。つまり、緊縮の新自由主義諸政策、私有化、化石燃料多国籍企業の利益最大化に対する支援、さらにアグリビジネスへの支援が、われわれを瀬戸際へと連れてきたのだ。
「われわれはみんな同じボートに乗っている」、政策作成者はこう語っている。まったく違う。北でも南でも、豊かな者たちは害を受けずに問題をやり過ごし、彼らに主に責任がある災害を通してもっと豊かになっている(10%の最富裕層が地球のCO2の50%以上をまき散らしている)。労働者階級は勘定を払い、悪化中の地球温暖化と深まる一方の不平等に直面している。最貧困層がより良い生活という正統な希望の中でいのちを危険にさらす移民以外の解決策がまったくない時、彼らが2倍、3倍と払っている。気候変動は階級問題なのだ。
第3の教訓は、この政策の犠牲になっている者すべて――小規模農民、若者、女性、労働者、先住民――は、国境を越えて団結しなければならない、ということだ。ペペインスターやヴェルヴィエ(両者ともワロン地区西部のドイツ国境に近い都市:訳者)で水の中を歩いている貧しい人々と、カラチやダッカ(気候変動によるモンスーンの攪乱が原因で、2020年にバングラデシュの3分の1が水面下になった!)で水の中を歩いている貧しい人々の間には、違いはまったくない。
政府のシニシズムにだまされないようにしよう。彼らは、ブリュッセルで50日間以上ハンストを行ってきた非正規移民(本紙別掲記事参照:訳者)から、彼らが死の危険にさらされているにもかかわらず注意をそらすために、この洪水を利用するつもりだ。
EUの犯罪的な沈黙
1・5度Cの「一時超え」
次の2、3日にわれわれは、劇的な洪水はグリーン資本主義への彼らの切望を確証している、EUは前衛である、世界の残りがその例に従えばあらゆることがもっとよくなるだろう、などと諸政府が断言するのを聞くだろう。
第4の教訓は、こうした言説でわれわれを眠りにつかせるようなことを政府にさせないことだ。グリーン資本主義はひとつのインチキだ。EUの気候プランは偽りの解決策(植樹)、手品(世界的な航空運輸や船舶運輸からの排出を計算に入れないこと)、危険なテクノロジー(炭素の捕獲と隔離、原発、何百万ヘクタールも使うエネルギー穀類)、南に敵対する新植民地主義的な不公正、(炭素相殺、EU国境税)、さらに新たな反社会的市場手法(企業が消費者につけを回すことになる、建設や流通部門における炭素支払)で一杯だ。
このプランの本当の目的は丸を四角にすること、すなわち気候の安定を資本主義的成長と組み合わせることだ。その言外の目的は、いわば仮想の技術による地球の「冷却」によって後で相殺されるとして、温暖化の閾値である1・5度Cを「一時的に超える」ことなのだ。
ベルギーとドイツにおける洪水は、また世界中の他の災害は、この「一時超え」が抱える悪夢のような結果を暗示している。10月10日ブリュッセル気候デモを、異なった政策を求める大波にしよう(注4)。その政策は、共有材を求める政策、人間の必要を満たす民主的で社会的な政策、人民とマザーアースに対する国境のないケアからなる注意深く愛の籠もった政策だ。(2021年7月17日)
▼実績のある農学者でエコ社会主義環境活動家である筆者は「ラ・ゴーシュ」(第4インターナショナルベルギー支部の、月刊誌)記者。またいくつかの著作もある。
(注1)イサネ・アウアッハは政府の1委員(男女平等の:訳者)に指名されたが、議会論争の中のものを含んで、イスラム排斥攻撃にさらされ、すぐさま辞表を出した(アウアッハはモロッコ出身:訳者)。
(注2)ベルギーは基本として3地域――フランドル、ワロン、ブリュッセル――をもつ連邦国家。ジャン・ジャムボンは、2019年以後フランドルの首相を務めてきた。しかしそれ以前は、ベルギーそれ自身の首相代行かつ内務相だった。
(注3)ゴデフリディはベルギーにハイエク研究所を設立し、気候変動に関しいくつかの論争の種を、もっとも目立つものとして「緑の第三帝国―緑の圧政に向かう地球温暖化」を書いている。2017年に死亡したマルコは、ルーヴァンカトリック大学で活動し、何人かの著者が気候懐疑派のバイブルとして記述している「気候:15の不穏な真実」の、2013年における出版の調整にあたった。
(注4)ベルギー気候連合が呼びかけたデモ。
(「インターナショナルビューポイント」2021年7月号)
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