エネルギー基本計画第6次案をめぐって

菅退陣機に原発回帰勢力一掃へ

80%から100%削減に

 9月3日、「エネルギー基本計画」の第6次案に対するパブリックコメントがはじまった。意見の受付は10月4日いっぱいである。
 第6次案の審議は昨年10月13日、新たな構成で24名の委員となった第32回基本政策分科会で開始した。経産省は、『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』(19年6月閣議決定)でうたう「最終到達点として〝脱炭素社会〟を掲げ、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現」と「2050年までに 80%の温室効果ガスの排出削減という長期的目標を掲げており、その実現に向けて、大胆に施策に取り組む」という政府戦略をベースとすることを提案した。議事概要を読むと会議の終盤に、早稲田大学理工学部教授の田辺新一委員が「国際情勢の変化、気候変動への関心の高まりの中で、環境省主導で多数自治体が2050年までのCO2排出量実質100%削減を宣言している。宣言に留まらずロードマップを示すことが、再エネ投資の観点からも市場のニーズを創出し、地方創生に貢献できるのではないか」と発言している。この日の会議には、梶山経産大臣が開始から終了まで出席していた。

〝エネモン〟
とパブコメ
 2020年10月26日、菅首相は臨時国会での所信表明演説で「カーボンニュートラル宣言」を行う。
 2050年の政府目標が、80%から100%削減に〝強化〟された。宣言に梶山大臣が関わったのは確かだろうが、田辺発言がどう関わったかは不明である。
 Fridays for future japanは2月、分科会24名全員を〝エネモン〟とよぶ似顔絵を添えたカードにしてタイプ別にインスタグラムで紹介し、計画案の審議に注目するように若者に訴えた。タイプは火力、原発推進、中道派タイプ、再エネ中心の4つで、前述の田辺委員は中道派にされている。
 第6次案の審議は8月4日午後の第48回分科会で文章整理を〝委員長一任〟し、パブコメにかけることを確認して終了した。9月3日までに公開されている議事概要は5月の第43回まで、パブコメ開始までに議事概要は公開するべきである。なお、会議の動画は公開されている。

80%から100%削減に

 8月4日午前、環境省と経産省の審議会の合同会議が開かれ、新たな『地球温暖化対策計画(案)』の審議が終了し、文章整理を〝座長一任〟し、パブコメにかけることを確認した。18日、この合同会議は新たな『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)』の審議が終了、パブコメにかけることを確認。この2つの政府案は第6次エネ基案と同日の9月3日からパブコメが始まっている。
 第5次エネ基は、分科会で委員長一任から数日でパブリックコメントにかけられた。今回はほぼ1カ月。マスコミをはじめほとんどのメディアは分科会での確認、あるいは7月の素案をあたかも政府決定のように報じた。パブコメ制度の形骸化とメディアの政府広報化が改められなければならない。
 審議終了からパブコメまでの期間が長引いたおかげか、毎日新聞が2日連続で報じた政府と与党内〝攻防〟についてのユニークな記事を読めた。毎日は6月27日から「再考エネルギー」という連載を不定期に掲載している。この連載で、8月19日に「〝将来の宰相〟候補2人/再生エネ普及へ、思惑絡むエネ政策の攻防」、20日に「原子力、解散控え語らぬ政治/曖昧な位置づけ/見えぬ未来のエネ政策」と題した記事が掲載された。
 19日の記事は「この間、新増設の反対論を首相に何度も進言したのが小泉進次郎環境相、そして1996年の初当選直後から〝脱原発〟を持論に時の政権の原発政策を自身のブログなどで批判してきた河野太郎規制改革担当相だった」と書く。小泉大臣は〝閣内全員一致〟を盾に、河野大臣は内閣府内につくった再エネタスクフォースで省庁を横断した提言を突き付けて、それぞれ「原発回帰陣営」に抵抗したことなどを書く。
 カーボンニュートラル(CN)と原発回帰には親和性がある。20日の記事は、CN宣言直後、自民党は二階幹事長をトップにしたCN推進本部を設置。4月には新増設と建て替えを求める議員連盟ができた。この原発回帰の動きの封じ手として、菅首相は梶山経産相や事務次官ら経産省幹部に「エネ基の議論は都議選まで封印する」との指示を出したと報じる。菅の念頭にあったのは「原発ゼロ社会の実現」を党是とする公明党の存在だと続ける。

菅の退陣とエネルギー政策

 首相動静では、9月2日午前に小泉大臣と環境省の幹部などが、午後には梶山大臣ら経産省幹部が菅を訪ねた。重要政策の報告に違いないと、翌3日は3つの計画案のパブコメ開始情報を注視していた。そこに「菅退陣」の一報が流れた。17日告示、29日投票の自民党総裁選への立候補を断念した。
 共同通信の4、5日の電話調査では、自民議員7人を挙げた質問「次期首相にふさわしいのは?」では、河野31・9%、石破26・6%、岸田18・8%、野田聖子4・4%、高市早苗4・0%、下村0・6%の順だったと報じられている。
 河野は近著PHP新書『日本を前に進める』では一章を割いて自身のエネルギー政策を論じている。8月22日の東洋経済オンラインには、ジャーナリストの青木美希によるインタビュー記事「石破茂〝本心は原発ゼロ〟なのに表立って言わぬ訳」が掲載されている。この2人は「原発ゼロ」だ。
 安倍晋三のかいらい中、岸田は〝穏健派〟で高市と下村は〝確信派〟か。高市は自民党政調会長時代の13年6月、「悲惨な福島第一原子力発電所事故によって死亡者が出ている状況ではない」と発言、党内での批判の高まりによって謝罪している。野田のエネルギー政策はわからない。
 エネルギー基本計画は、2002年に発覚した東京電力の検査不正による原発不信を払拭するために自民党の議員立法で成立したエネルギー政策基本法にもとづく。原発を基幹電源として位置づけることで、欠陥原発でも動かそうとの策略だった。福島第一原発事故から10年、エネルギー基本計画の原発推進、さらに回帰での役割は終わっているはずだ。
 自民党総裁選で傍観していてはならない。棚ざらしになっていた「原発ゼロ法案」は衆院改選により廃案となり、新たな戦略が必要となっている。第6次エネ基案だけではなく、『地球温暖化対策計画(案)』と『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)』も並行して点検と対案を示し、原発回帰勢力をこれを機に一掃しよう。
  (9月6日 斉藤浩二)
 
 
 

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