資本主義に奉仕する「温暖化対策」➀
COP26は新自由主義の極致
ダニエル・タヌロ
グラスゴー会議(COP26)が優先すべきだったのは、(1)「先進」国が2020年以降、「緑の気候基金」に少なくとも年間1000億ドルを拠出して、グローバル・サウスが気候変動の課題に対応できるようにするという約束を果たすこと、(2)温暖化によって、とりわけ「後発発展途上国」や小さな島しょ国で生じる莫大な「損失と損害」を補うために、この同じ国々に財政的な介入をおこなわせること、(3)産業革命前と比較して[気温上昇が]1・5℃を超えないように努力を続ける一方で、「気温上昇を2℃以下に抑える」というCOP21で採択された目標を達成するために、各国政府の「気候に関する野心を高める」ことだった。
そのバランス・シートは明確である。グラスゴー会議は、文書の上では、あいまいだったパリ協定の目標をより急進的にすることによって、その目標を明確化(いまや1・5℃が目標となっている)し、化石燃料の責任にも言及している。しかし、実際には、会議は大惨事を止めるための手段を何ら講じなかった。「正しい方向への一歩」と言う人もいた。それどころではなく、世界の支配者たちは、新型コロナウイルス後の新自由主義的復興と地政学的な対立のことばかりを考えて、次のように決定した。(1)「緑の基金」に1000億ドルを拠出するという約束を先延ばしする、(2)「損失と損害」への補償を拒否する、(3)化石燃料の採掘をほぼ完全に自由にする、(4)気候安定化を「カーボンオフセット」と技術のための市場と考える、(5)市場に対して「汚染する権利」を取引するための世界的仕組みを付与する、(6)最後になるが、この市場の管理を金融に任せる。これは、金持ちに任せるということだが、その金持ちの投資とライフスタイルこそが地球温暖化の根本的な原因となっているのだ。
1・5℃特別報告書:IEAにも影響を及ぼす悪い知らせ
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「1・5℃に関する特別報告書」(2019年)は、1・5℃以下に抑えることが絶対に必要であることを示した。1・5℃を超えると、次々と生じる正のフィードバックが地球を「温室惑星」体制へと傾かせる恐れがある。こうなれば、(13メートル以上の海面上昇を含む)悲惨な結果をもたらすだろう。地表の平均気温は、産業革命以前に比べてすでに1・1~1・2℃上昇した。現在のペースでは、2030年には1・5℃という数値を超えてしまうだろう・・・。結論から言うと 世界のCO2「ネット」(実質)排出量を、2030年までに少なくとも50%、2050年までに100%削減し、今世紀後半にはマイナスにしなければならない。
この報告書は悪い知らせだった。資本家階級の指導者たちは、もはや砂の中に頭を埋めてやり過ごすことはできない。少しでも考えの及ぶ人なら、地球温暖化が制御不能になって、自分たちのシステムを危険にさらす可能性があることを認めなければならない。このような状況では、資本家による政策が「最良の科学にもとづいている」と主張するのであれば、ボリス・ジョンソンのような新自由主義者によって作られた場合であっても、パリ協定のあいまいさを維持することはできないだろう・・・。だから、COP26の議長国イギリスは、上限1・5℃を唯一の目標とすると提案し、この明確化は会議で合意された。
IPCC報告書は明確である。化石燃料の燃焼が温暖化に重要な役割を果たしているのだ。その結果、1・5℃報告書の衝撃波は、国際エネルギー機関(IEA)にさえ感知されるものだった。IEAは2021年に報告書を発表し、2050年に「カーボンニュートラル」を達成するためには、きわめて短期的に抜本的な対策が必要であることを明記した。つまり、2021年以降は新規油田・ガス田の開発、新規炭鉱の開設、既存炭鉱の拡張、新規石炭火力発電所の建設許可を禁止し、「先進国」では2030年以降は石炭を放棄し、2040年以降は世界中のすべての石炭火力発電所と石油火力発電所を閉鎖するということである。
この報告書もまた、悪い知らせだった。それまでは、IEAは「移行」について非常に漸進的なビジョンを展開していた。いまや突然、IEAは自然エネルギーを中心とした「グリーン資本主義」への急激な移行を提唱したのである。IEAがパリ協定のあいまいさを維持できなかったのと同じように、グラスゴー会議も化石燃料の責任を隠し続けることはできなかった。1992年以降のどのCOPでも、エネルギー部門や主要ユーザーからの圧力によって、この問題を回避してきたというのに! この沈黙はもはや批判に耐えるものではなかったのである。議長国イギリスは、「石炭と化石燃料への補助金の廃止を加速する」よう締約国に呼びかける宣言案を交渉代表団に提出した。このテキストがどのように無効化されたかは後述するが、最終案でも化石燃料への言及は残されている。
ギャップの解消:毎年より困難となるとりくみ
パリ協定は、目標(「気温上昇を抑える」など)と各国の気候計画、すなわち「国が決定する貢献」(NDC)との間に大きなギャップを作った。IPCCは、このNDCをもとにして、2100年の気温上昇を約3・5℃と予測した。この「排出量ギャップ」を縮小するために、COP21は「野心を高める」ために、5年ごとの見直しという原則を採択した。
2020年9月の時点では、そのギャップは、すべての[温室効果]ガスを含めると、CO2換算で23~27ギガトンと推定されている。1・5℃以下に抑えるためには、2030年までにこのギャップを解消しなければならない。それゆえに、世界の排出量を半分に減らさなければならない。2020年のCOP会議が(パンデミックのために)中止されたため、各国政府はグラスゴー会議のために「野心を高める」努力をもう一度おこなうことを決めた。その結果、3・3~4・7ギガトンの削減が追加された。これをもとにして、科学ネットワーク「クライメート・アクション・トラッカー」は、2・4℃(1・9~3℃の範囲で)の温暖化を予測している。
ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストロム所長は、COPに対して、最新科学による10項目の重要なメッセージを発した。まず、1・5℃以下に抑える確率を50%にするためには世界の排出量をCO2だけでも2030年までに毎年2ギガトン(5%)ずつ削減し、1・5℃以下に抑える確率を3分の2にするためには4ギガトン(10%)ずつ削減する必要がある。メタンと亜酸化窒素についても同様の削減が必要である。5年ごとにNDCを見直すのでは、これを達成する見込みはない。そこで、グラスゴー会議は、年1回の見直しに移行することを決定した。離れて見ると、これはわずかだが成功の可能性があるように見える。しかし、近くによって見ると、それは幻想である。
第一に、クライメート・ジャスティス(気候正義)を考慮しなければならない。5%や10%という削減率はグローバルな目標であり、各国の「差異ある責任」を考慮して調整される。ロックストロムは、この問題に関する最新の評価を発表した。世界人口の1%の最富裕層はその排出量を30分の1にしなければならないが、50%の最貧困層は排出量を3倍にすることができる。これは、気候が階級問題であり、少数の持てる者と多数の持たざる者との矛盾における主要な問題であることを明確に示すものだ。
第二に、毎年2ギガトンあるいは4ギガトンの削減は、数学的観点では直線的だが、経済的・社会的・政治的観点では直線的ではない。排出量を削減すればするほど(あるいは削減しようとすればするほど)、そして残された時間が短いほど、排出量削減は成長や利益という資本主義の要求とますます対立することになる。これは非常に具体的なものである。エネルギー部門では、ボス連中は「座礁資産」を制限するために、化石燃料への投資にブレーキをかけている。化石燃料は、ニーズの80%以上をカバーしているため、エネルギー供給のピークは、おそらく需要のピークよりも先に来るだろう。したがって、価格の高騰を招く。これは、化石燃料企業にとってはよいことだが、インフレを助長し、新型コロナウイルス後の復興を挫折させ、労働者階級に重い負担をかける。労働者階級は反撃することもできるが、民族主義的ポピュリストに票を投じることもできる。どちらの選択肢も不安定さを生む。価格を落ち着かせ、不足を避けようとするのなら、化石燃料の生産量を増やす必要があるだろう。中国は石炭を増産し、バイデンはサウジアラビアとロシアに石油増産を要請した(失敗したが)。しかし、化石燃料を増やすことは、排出量を増やすこととイコールである。それは円と同面積の正方形を求めるのと同じで、不可能なことだ。(つづく)
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