資本主義に奉仕する「温暖化対策」③

COP26は新自由主義の極致

ダニエル・タヌロ

2050年までのカーボンニュートラルへと大急ぎ

 市場主権―言い換えれば利益主権や株主主権―は、「合意」においてだけでなく、各国政府が「2050年までのカーボンニュートラル」(別名「排出量ネット・ゼロ」)の達成を急ぐことにも表現されている。EU、アメリカ、南アフリカ、ブラジル、ロシア、日本、サウジアラビア・・・どの国も「戦略」を思いついている。グラスゴー会議が近づけば近づくほど、「2050年までのネット・ゼロ」という約束は増えていった。そして、こうした約束は、ますます短期的な排出量削減を仮想的かつ長期的な炭素吸収に置き換えることで構成されるようになった。2050年の「カーボンニュートラル」を目指すと声高に叫びながら、一部の政府は2015年と変わらない、あるいはそれよりも低いNDCを提出していたのだ! 要するに、問題をウヤムヤにしたのである。
 「クライメート・アクション・トラッカー」(CAT)は、実際に実施された気候政策、提起されたNDC、COPでの約束、「ネット・ゼロ」戦略を区別することで、事実を明確にしてきた。この記事の冒頭で述べられているように、追求されている政策にもとづくと、2100年までに平均気温の上昇は2・7℃となるだろう(2~3・6℃の範囲で)。COPでの約束や「ネット・ゼロ」の合意や戦略を加えても、その状況は改善されないどころか、むしろ悪化する。全体としては、「どの国も、ネットゼロに向けた軌道に乗るための十分な短期的政策を配備していない」のだ。
 この全般的な結論は、以下のようにまとめられる。
*2030年の目標が達成されると仮定した場合、予測値は2・4℃となる(その範囲は1・9~3℃)。
*2030年目標とCOP期間中の約束が実現すると仮定した場合、予測値は2・1℃となる(その範囲は1・7~2・6℃)。
*2050年の「カーボンニュートラル」という追加された約束(報告書によると「楽観的シナリオ」だが)だと、予測値は1・8℃となる(その範囲は1・5~2・4℃)。「このシナリオは、2・4℃の温暖化を排除していない」ため、「パリ協定とは両立しない」。
 「クライメート・アクション・トラッカー」は、「2050年ネット・ゼロ」戦略についてもさらに評価してきた。研究者は10項目のパラメータを選び、カラーコード(良いものから悪いものへ順に、緑色、オレンジ色、赤色をつけた)を採用した。その結論は、チリ、コスタリカ、EU、イギリスの戦略は「許容レベル」、ドイツ、カナダ、アメリカ、韓国の戦略は「平均的」、日本、中国、オーストラリア、ニュージーランドの戦略は「不適切」、その他の国は「不十分」(とりわけブラジル、南アフリカ、ロシア、サウジアラビアなど)となっている。ほとんどの政府が、自分たちを緑色に塗ってもらい、グラスゴーで注目されないようにするために、「カーボンニュートラル」の時流に乗っていることは明らかだ。
 先進国の戦略と中国の戦略に対する評価は、一見の価値がある。EUは、公平性へのとりくみが不明確であること、排出量の削減と除去を区別していないこと、という2つのパラメータで赤色になっている。ドイツは、オレンジ色が2つ、赤色が3つだ。「ネット・ゼロ」には、国際航空輸送および国際船舶輸送からの排出が含まれておらず、国境外での「カーボン・オフセット」も除外されていない。同じ赤色がアメリカにもついているのは、吸収と削減を混同していること、公平性へのとりくみを明確にしていないことによる(何を期待していたのか?)。中国について言うと、6つのパラメータで赤色、3つのパラメータでオレンジ色がついている。
 この分析は、エコ社会主義者やその他の活動家の非難を完全に裏付けている。「ネット・ゼロ」戦略は存在しており、完全に空洞化しているわけではないが、不十分であり、せいぜいのところ大きく偏ったものでしかない。今後8年間で排出量をCO2換算19~23ギガトン削減することが、温暖化が1・5℃を超えるのを回避できるかどうかを決定するという中で、「ネット・ゼロ」というおしゃべりはすべて、その削減を永久に先送りするためだけに使われている。これは明らかに詐欺である。非常に明白である。つまり、すべての制約、すべての規制、すべての計画を回避しようということだ。

何も決めないでおこう、市場が決めるのだから、その市場を作り出そう

 IPCC第5次評価報告書では、次のように明言されていた。「気候モデルは、完全に機能している市場と競争的な市場行動を想定している」。この想定は、今度は、市場手段をもった市場の創造を前提としている。パリ協定の第6条は、京都議定書のメカニズムを引き継ぐ「新市場メカニズム」の原則を採用していた。一連の資本家内部の対立によって、COP25(マドリード)ではこの原則の具体化ができなかったため、COP25はこの問題については失敗だった。しかし、喜ばしい(!)ことに、グラスゴーでは合意に達したのだ。すべての当事者(国、地域、企業)は、汚染する権利を取引できるようになる。この権利は、クリーンな投資、植林、既存の森林の保全、CO2の回収・貯留(CCS)、CO2の回収・利用(CCU)などを通じて、世界のどこででも作り出すことができる。
 解決しなければならない問題としては、排出権のダブルカウントをどのようにして回避するか、京都議定書のもとで発生した排出権を新制度に転換できるのか(こうした権利の大部分は実際の排出量削減に対応していない)、「南」の国々が地球温暖化の結果として経験している「損失と損害」に対処するのを助けるために、排出権取引に課税するか、などがある。この問題すべてを詳細に検証するスペースはない。全体的に見ると、「第6条のメカニズムには重大な抜け穴があり、1・5℃達成という道筋に世界を乗せるための残された機会をなくしてしまう可能性がある」。COPでの決定は、ダブルカウントを避けるためには十分ではないかもしれない。京都議定書で発生した排出権に関して成立した妥協―2013年を含めてそれ以降に発生した排出権は転換可能とした―は、でたらめな商売人たちの勝利である(「でたらめ」と言うのは削減量を偽造しているからである)。とりわけボルソナロ大統領のブラジルは、多くの排出権を持っているのである。
 次の段階は、クリーンで義務のある投資をリストアップすることだ。欧州連合のリスト(専門用語で「タクソノミー」と呼ばれる)は年内に確定する。リスクは高い。この「タクソノミー」がグリーンファイナンスへの道を開くことになる。問題は残っている。原子力発電は含まれるのだろうか? 原子力を「持続可能なエネルギー」と定義することは、まったくのナンセンスである。この技術で持続可能なのは、誰にも処理方法がわからない廃棄物だけなのだから。廃棄物は何万年、あるいはそれ以上にわたって環境を汚染するだろう。しかし、市場とは素晴らしいものだ。たとえば、中国は150基の原子炉を建設する計画である。資本主義の観点からすれば、(マルクスが言ったように)すべてをひっくり返すものなのだから、この賞金を逃すのは絶対にナンセンスなのである。「持続可能な」利益の源泉なのだから。フランスを筆頭に、10カ国が原子力発電を「タクソノミー」に含めることを求めている。ドイツを含む5カ国が反対している。どちらが勝つのか? 決定まで胸がドキドキするというものだ。    (つづく)

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