資本主義に奉仕する「温暖化対策」④

COP26は新自由主義の極致

ダニエル・タヌロ

気候資金:貧乏人よ、投資家にとって魅力的な存在になるように努力せよ!

 「気候資金」に関して言うと、この犯罪的な論理の頂点に達している。気候資金には、公的資金と民間資金という2つの構成要素がある。前者は、「緑の基金」と「損失と損害の補償」の2つのサブコンポーネントにさらに分けられる。今回のCOPでは、このパッケージ全体が会議のテーマとなり、「ファイナンス・デー」が開催された。「ファイナンス・デー」にようこそ、というわけだ。
 「緑の基金」をテーマにした会合で、イギリスの財務大臣が基本的には妥当な発言をした。「『北』は約束を果たしていない。そのことについて謝罪する。しかし、われわれは、いまは800億ドルだが、2023年以降は1000億ドルに到達し、その後は目標を超過達成するだろう。そのことによって、過去の不足分を補うことができるだろう」。この紳士は、「緑の基金」には200億ドルの助成金しかないことは言わなかった。残りは借金である。今回の合意では、2025年以降、地球温暖化に適応するための資金を倍増させることが約束されたが、何の保証もない。国連の委員会は来年、年間1000億ドルの目標に対する進捗状況を報告することになっている。重要な点は、「南」が新たな負債の連鎖に陥る恐れがあるということだ。
 「損失と損害」の問題は、はるかに爆発的なものである。ソマリアの例をとりあげてみよう。ソマリアは、歴史的な気候変動に対しては0.00026%しか寄与していないにもかかわらず、明らかに温暖化に起因する干ばつが繰り返されている。2020年には290万人が深刻な食糧不安に陥った。国際的な援助はきわめて不十分である。ケニア、エチオピア、スーダン、ウガンダも同じような状況を経験している。誰が支払うのか? そして、将来の災害に対して誰が支払うのだろうか? NGOの「クリスチャン・エイド」は、政策が変わらない場合、気候変動によって最貧国のGDPは2050年までに19・6%、2100年までに年平均で63・9%減少すると推計している。気温上昇を1・5℃に抑えると、この数字はそれぞれ13・1%、33・1%の減少となる。「損失と損害」に対する請求額は、すぐに数千億ドルにまで増加するだろう。富裕国が資金を出すという原則は国連気候変動枠組条約に明記されているが、帝国主義政府は明らかにそれを尊重することを拒否している。議論はこれでおしまいというわけである。
 奇跡のような解決策は、民間資金からやってくることになっている。元ゴールドマン・サックス、元イングランド銀行総裁、G20金融安定理事会議長のマーク・カーニーは、国連から気候資金に関する「特使」に任命されている。COP開催直前、彼は「グリーンファイナンス」を構成するいくつかの要素を「ネット・ゼロのためのグラスゴー金融同盟」(GFanz)[訳注1]にまとめた。GFanzは、主要金融企業のCEO19人によって率いられ、その中にはバンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハン、ブラックロックのラリー・フィンク、シティグループのジェーン・フレイザー、HSBCのノエル・クイン、サンタンデールのアナ・ボティン、アビバのアマンダ・ブランなどが含まれている。その目的は、「金融機関が実質的かつ分野横断的な課題について協力するための実務者主導のフォーラムを提供することで、金融活動のネットゼロへの整合性を加速し、パリ協定の目標達成に向けたすべての企業、組織、国の努力を支援する」ことにあるとされる。
 COPでは、GFanzは「ファイナンス・デー」の主役だった。その連合体の価値は13兆円にのぼる。財務大臣は、この「歴史的な資本の壁」を称賛し、地球と気候を救う準備ができているとして皆をはぐらかそうとした。これを翻訳すると、「クリーン」な投資、クリーンな石炭、グリーンな水素、植林、既存の森林の保全、CO2の回収・貯留(CCS)、CO2の回収・利用(CCU)などに資金を提供する準備ができているということだ。うまくいく限り、やってみたいグリーンウォッシュは何でもOKということだ。なぜなら、「それをおこなうためには、投資家は利益と損失という伝統的な財務指標と同じくらいの明確さが必要である」という条件がはっきりしているからである。貧乏人よ、投資家にとって魅力的な存在になるように努力せよ、というのである。
 NGOの「リクレイム・ファイナンス」は、このような金融業者の緑の仮面を引き裂いた。それは数多くある。GFanzの基準(国連の「レース・トゥ・ゼロ」基準)は化石燃料に言及していないこと、同盟メンバーは間接排出(いわゆる「SCOPE3」[訳註2]の排出量のことで、化石燃料部門の排出量の約88%を占める)の削減を求められていないこと、排出量の絶対的な削減は必要なく、相対的な削減で十分であるとされていること、GFanzのパートナーはいずれもオフセットの使用を禁止または制限していないこと、2021年10月中旬の時点で、GFanzの構成要素のひとつである「アセット・オーナー・アライアンス」のメンバー58社のうち34社が化石燃料への投資に制限を設けていないこと、などなど。
 COP21の数カ月前、フランスのオランド大統領は、パリで開催されたビジネス気候サミットの冒頭で次のように述べた。「企業は、エネルギー効率、再生可能エネルギーの増加、エネルギーを消費しない移動手段、エネルギー貯蔵、居住地の建設方法、都市の構成、さらには発展途上国の適応に向けた移行への参加など、必要な変化を実現するためのとりくみをおこなう存在であるため、必要不可欠である」。
 この言明をどう解釈すればいいのかをここで述べておこう。つまり「愛する資本家のみなさん、私たち政治家は、あなた方に地球、都市、森林、土壌、海洋を提供します。私たちはあなた方が『南』の国々に押し付けている大惨事に対して、『南』諸国が適応するという市場さえも提供します。何もかもあなた方のものです。どうぞお取りください。これがメッセージです」ということなのである。
 資本の観点からすると、COP26を「どうでもいい」と言うのは間違っている。むしろ、それは 怪物のような新自由主義の極限的姿なのである。今回の首脳会議は、地球、地球の生態系、地球に住む人々を完全に商品化するための道を大きく前進させた。金融の利益のために、自然と民衆を犠牲にして。

 結論の形で

 政治指導者たちは、全員(あるいはほぼ全員)が、緊急性は最大で、リスクは計り知れず、一刻の猶予もないことを認識している。しかし、あるCOPからまた次のCOPへと、「利用可能な最良の科学」によって照らし出された光にもかかわらず、反撃のための時間が浪費され、奈落の底への行進が加速している。この異常で幻覚のような恐ろしい現実は、あれやこれやの役人の無能さの結果ではないし、オカルト的な力の陰謀によるものでもない。それは資本主義の根本的法則の結果であり、この法則はまた「最良の科学」を堕落させているのである。
 この生産様式は、利潤競争にもとづいて、何百万人もの資本家に、経済的な理由で死者が出るのを覚悟したうえで、機械によって労働の生産性を向上させることを目的とする何百万件もの投資決定を日々刻々とおこなわせている。その結果として生じる利益率の低下傾向は、生産される商品の量の増加、労働力の搾取の増加、その他の天然資源の搾取の増加によって補われる。このシステムは、まったく制御が効かない自動機械のように機能する。それは雲のように―ジョレスが言ったように―戦争だけでなく、無制限の発展、無制限の不平等の拡大、無制限の更なる生態系の破壊の可能性をも運んでくる。
 次のことを力強く繰り返さなければならない。すなわち、このシステムを存続させることと、生命と人間性を育む環境としての地球を守ることの間には、乗り越えられない対立があるのだ。したがって、1914年に戦争が始まったときにレーニンがおこなったように、われわれはまず、パワーバランスとは関係なく、状況は「客観的には革命的」であるという明確な診断を下す勇気を持たなければならない。
 グラスゴーでのCOPとともに、ますます緊急性の高い警告の短いサイクルが始まる。それは、社会的動員の集中によって、この客観的な状況と、搾取され抑圧されている人々の意識や組織のレベルとの間にある巨大なギャップ(「主観的な要因」)を埋め始めることが可能になるのか、あるいは自動機械によってわれわれが前例のない規模のバーバリズムにこれまで以上に深く追い込まれていくのか、という警告なのである。
2021年11月17日

[訳注1]「ネット・ゼロのためのグラスゴー金融同盟」(GFanz)には、「ネットゼロ・アセットマネジャー・イニシアティブ」(NZAM)、「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」(NZAOA)、「ネットゼロ・保険アライアンス」(NZIA)、「ネットゼロ銀行アライアンス」(NZBA)などの業態団体が参加。GFanzには日本の金融機関も複数参加している。NABAに三菱UFJフィナンシャル・グループ、野村ホールディングス、NZAOAには第一生命、NZAMにはアセットマネジメント・ワン、日生アセットマネジメント、三井住友トラスト・アセットマネジメントがそれぞれ署名している。
[訳註2]「SCOPE1」とは、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、「SCOPE2」とは、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出、「SCOPE3」とは、SCOPE1、2以外の間接排出のこと。
(『フォース・インターナショナル』2021年11月19日)
(おわり)

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