国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)批判(上)

シャルム・エル・シェイクにおける化石の勝利 ── 闘いだけが残されている 
ダニエル・タヌーロ

グリーン資本主義の強欲

 エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が始まる数日前、私はこの会議が「グリーン・ウォッシュ、グリーン資本主義、弾圧の新たな頂点となるだろう」と書いたが、それは間違いだった。グリーン・ウォッシュと弾圧は、紅海沿岸においてこれまで以上のものだったが、グリーン資本主義は痛手を被り、化石燃料が明確な勝利を収めた。
 気候という点では、われわれはグリーン資本主義のことを、グリーンな、つまり「低炭素」のエネルギー技術を企業に採用するよう促す市場政策をとることによって大惨事は止めることができるので、経済成長や利益増大と排出量の速やかな削減とを両立させることは可能であり、2050年には「排出量実質ゼロ」を達成することすら可能であると主張する雇用主とその政治的代理人の一派だと定義することができる。気候変動の「緩和」として知られているこの要素[排出量削減]は、地球温暖化の不可避的な影響に対するいわゆる「適応」という要素、および(主に南の諸国に向けた)「資金」という要素によって補完されている。この二つのレベルにおいても、グリーン資本主義の提唱者は、市場が仕事を作り出すと信じている。彼らは資本にとってのチャンスだと考えてさえいるのである。

コペンハーゲンからパリへ
「トップダウン」から「ボトムアップ」へ
 
 パリで開かれたCOP21(2015年)で到達した協定は、こうした政策が典型的に表現されたものだった。パリ協定は、地球温暖化が確実に「2℃を下回る」ために締約国が行動を起こすことを誓約するとともに、1・5℃を超えないよう努力を継続することを求めるものだった。COP15(コペンハーゲン、2009年)が、各国の責任と差異ある能力にしたがって、「2℃炭素予算」(カーボンバジェット:今世紀中に気温上昇が2℃を超えないという合理的見込みのある大気中に排出可能な炭素量)への世界的な貢献という考え方を葬り去ったことは記憶されるべきである。そのような世界的な貢献は、気候に対する有効性と社会正義を結合させるのに最も合理的な手法だったし、現在もそうである。しかし、こうした「トップダウン」手法は、帝国主義の貸し借りを決済することを意味していた。それは、アメリカとEUがどうあっても望まないことだった。そのため、COP16(カンクン、2010年)では、当時の新自由主義的な風潮とより共存可能な「ボトムアップ」手法が採用された。すなわち、各国は排出量削減についての「国別貢献」[国別の削減目標]を決めることになり、毎年のCOPプロセスにおいて、①国別貢献を合算したものが[地球温暖化に]有効なものかどうか、②排出量削減の割り当てが「気候変動枠組条約」会議(国連、リオデジャネイロ、1992年)に謳われている「共通だが差異ある責任」に従っているかどうか、を見ることになる。
 思い出してほしい。この「気候変動枠組条約」会議は「気候システムに対する危険で人間に起因する撹乱」を回避するために、締約国の意思を確認したのだ。コペンハーゲンの6年後、リオの23年後、パリにおいてようやく、これが何を意味しているのか、少しばかり明確にされた。これは、上述した「2℃を下回るとともに1・5℃を超えないように努力を継続する」という公式である。しかし、あいまいなことが一つ残っていた。つまり、結局のところ、危険の閾値はどこにあるのだろうか? 2℃なのか、それとも1・5℃なのか? この問いに答えるべく、IPCCは具体的な報告書を提出したが、そこでは、0・5℃の気温上下によって、その影響という点できわめて大きな違いをもたらすことが明確にされている。そのプロセスで、COP26(グラスゴー、2021年)は、「温暖化を1・5℃以下に抑えなければならない」と決めて、警鐘を鳴らす小島嶼国の代表を満足させた。
 しかし、どうすればいいのか? 各国の「国別貢献」と、1・5℃以下にとどめるために(あるいは、この閾値をごくわずかに超えるだけで、すぐにそれ以下に戻る可能性を残すために)たどるべき道との間のギャップはまさに危機的である。つまり、国別貢献にもとづけば、温暖化が簡単に目標を超えてしまうのである。パリ協定の起草者たちは、この「排出量ギャップ」を認識していた。そこで、締約国の公約と達成すべき目標との間のギャップを徐々に埋めるという希望を込めて、締約国の気候公約が5年ごとの「野心引き上げ」の検証を受けなければならないと決めたのだ。問題なのは、6年後になると達成すべき目標(最大でも1・5℃)はより厳しくなり、達成するために使える時間がますます短くなってしまうということである。

パリからグラスゴーへ
「野心を高める」?
 グラスゴーでは、科学者からのメッセージはきわめて明確だった。(a)世界的な排出量削減を今すぐ始めなければならない、(b)世界全体の排出量ピークには2025年までに到達しなければならない、(c)2030年までにCO2排出量(とメタン排出量!)を世界全体で45%減少させなければならない、(d)気候正義とは、1%の富裕層が自らの排出量を30分の1にするとともに、50%の貧困層は排出量を3倍に増やせることを意味する。これらすべてについて、適応や資金の面で膨大な努力が必要であること、とりわけ貧しい国々ではそうであることは言うまでもない・・・。
 このような状況の中で、グラスゴーは、パリで採択された「野心を高める」という5年戦略の陳腐化が加速していることに目を向けただけだった。すなわち、5年ごとにラウンドテーブルを開催すれば排出量ギャップを埋めることができるとは、誰も本気で主張できないのだ。非常に緊迫した状況の中、議長国のイギリスは、「緩和」の要素を2020年から2030年にかけての「決定的な10年間」には毎年見直さなければならないと提案し、このやり方が採用された。また、議長国は石炭のすみやかな廃止を提案したが、この点についてはインドの拒否権に阻まれ、参加者は石炭燃料の使用を段階的に廃止する(”phasing out”)のではなく、段階的に削減する(”phasing down”)ことを決定して満足しなければならなかった。

シャルム・エル・シェイクにおいて
賭けるにはもう時間がない

 COP27が終了した時点で、その結果は非常に明確である。つまり、グラスゴーでなされたこうした約束がほとんど残っていないということである。
 1年ごとの野心の引き上げはおこなわれなかった。すべての国が「国別貢献」を更新することになっていたが、実行したのは30カ国だけであり、それすら非常に不十分なものだった。この試みはこれで最後になり、今後はCOP21で規定された5年ごとの見直しのプロセスに満足することになる可能性が強い……。その一方で、このやり方では1・5℃という限度を守るのが不可能なのだが、そのことを偽善的に無視するふりをしようというのだ!
 COP26は「緩和作業計画」を採択し、COP27はそれを実施することになっていた。COP27は、このプロセスが「拘束力をもつものではなく、罰則を課すものでもない」し、「新しい目標を課すものではない」と決定することに甘んじた。さらに、グラスゴーで採択された最大1・5℃という目標は、明らかにもう少しで疑問視されようとした(中国とインドがG20会合で打ち上げた観測気球は言うまでもなく、全体会議の外ではロシアとサウジの代表が明らかに疑問視していた)。
 石炭の「段階的削減」の具体化については何も決まらなかった。インド代表団は、巧妙にも、すべての化石燃料(石炭だけでなく、石油やガスも)の最終的な段階的廃止に関するテキストを提案した。「先進国」「途上国」の80カ国がこれを支持したが、驚いたことに議長国のエジプトはこれに言及さえしなかった。最終声明にはそれについて何も書かれていない。「化石燃料」ということばは、テキストの中に一度だけ登場し、「対策を講じていない石炭(の使用)を削減する努力を加速し、非効率的な化石燃料補助金を廃止する」ことを求めている。
 この公式は、グラスゴーで採択されたものと全く同じである(「対策を講じていない石炭」という表現は、地中貯留や工業利用のためのCO2回収がなされていない燃焼設備のことである……)。代表団長間での議論からリークされたことによると、サウジアラビアとロシアは、テキストで化石燃料についてこれ以上言及することに反対した。このとき、ロシア代表は「それは受け入れられない。エネルギー事情を悪化させるわけにはいかない」(Carbon brief, Key Outcomes of COP27)とまで言い切った。まさに自国を棚に上げて他国を批判しているのだ!
 われわれはグリーンウォッシュについては、ありとあらゆるものを既に見てきたと思っていたが、そうではなかった。シャルム・エル・シェイクでのいくつかの決定は、汚染する権利が2回カウントされうるという危険性をはらんでいる。パリでは、CDM(京都議定書で定められたクリーン開発メカニズム)を引き継いで、「新市場メカニズム」の原則が決定された。今後、権利市場は2つのスピードを持つことになる。一方には排出権市場があり、他方では「緩和貢献」の自由市場がある。そこではいわゆる排出削減が2回(売り手と買い手が1回ずつ!)カウントされるやり方に何の妨げもない。さらに、二国間の排出削減協定を結んだ国は、実行された手段を自由に「機密」にできるようになる……つまり検証不可能になるのだ!
 大気中からの「炭素除去」という非常に流行しているテーマは、排出権市場におけるグリーンウォッシュのリスクをかなり高めることになる。理論的にはいくつかの方法や技術を用いることができるが、それらが排出量削減の代替物となる危険性が高い。だから、物事は非常に厳密に定義され、枠組みを定めなければならない。特に、エネルギー目的の土地利用が含まれる場合には、人間の食料生産や生物多様性の保護と明らかに矛盾する危険性があるからだ。以前に指名された専門組織がこの問題を調査する予定である。それは論争の的となっていたり、全く検証されていなかったりする大量の提案に直面しており、化石燃料とアグリビジネスの同盟がそれらを推進することによって最悪の事態が懸念される。(つづく)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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