COP28 資本家の手品の歴史に新たな記録

「ゆでガエル」の道への宣言

ダニエル・タヌロ

 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで11月30日から12月13日まで開催された、2023年国連気候変動会議あるいはCOP28としてもっとよく知られた会議の2週間にわたる気候交渉は、満場一致の合意で幕を閉じた。
 このサミットの議長を務めた首長は拍手に笑みを浮かべつつ、彼の指導下で書き上げられた文書を「歴史的」と表現した。多くの主要メディアの配信はこのメッセージを、気候変動政府間パネル(IPCC)の作業に加わっている何人かの科学者の支持を含めて、そのまま伝えた。しかしながら現実には、この熱気を正当化するものはほとんど、あるいは全くない。

「歴史的」の
本当の意味


 「歴史的」であることは、国連気候サミットが世界で炭化水素生産が7位の大きさになる国の国有石油企業会長の支配下に置かれた、ということだ。さらに「歴史的」なことは、気候変動を抑制するための30年以上にわたる交渉が、地球温暖化に対する圧倒的で明白な化石燃料の責任に一度でも簡単に触れることなく行われることができてきた、ということだ。
 したがって、「化石燃料」という小さな二語(英語では:訳者)がCOP28で採択された文書中に初めて現れているということは、「歴史的」とみなされても良い。しかし、あらゆる取引のロンダリングにとってのメッカとして知られる都市で、悪名高い資本家的かつ家父長的独裁によって組織された関係者たちのまさにこの28回会議で先の言葉が現れた、ということもまた「歴史的」なのだ。またこの会合が、かつて以上に貿易見本市と組にされて、世界の最大の汚染者たち――化石燃料産業とアグリビジネスの代表を先頭に――による浸透に関しあらゆる記録を破ったからにはなおのこと「歴史的」だ。
 世界銀行の元首席エコノミストで新自由主義者のニコラス・スターンはそうであっても彼の有名な2006年報告で、気候変動を「市場経済のもっとも深刻な失敗」と記述した。われわれは今回のドバイサミットをもって、この間になされたイデオロギー的進歩を計ることができる。自己批判のあらゆる兆候、良心の呵責のあらゆる痕跡は消え去っている。
 これが、COP28によって明示的に届けられた「歴史的」メッセージなのだ。つまり、それは次のようなメッセージだ。
 市場を離れてはいかなる希望もない。政治体制がどうであれ、資本主義、その成長、その化石燃料とその技術が解決策だ。政治はもうたくさんだ! 実業界の人々と支配者に彼らの仕事をさせよう! 社会的権利、民主的権利、また女性の権利、そういった二次的な問題は脇に置こう!

呪文のように
トリック使い


 スルタン・アーメド・アル・ジャーベルは自らを誇るあらゆる理由をもっている。煙幕の王子として彼は彼の目標を達成したのだ。つまり、COPで採択された中心的文書に化石燃料というひとつの言及を妥当と認めつつ、他方で、石炭、原油、天然ガスの採掘と燃焼は止められなければならないとの考えに、ほんのわずかの信任も与えないという目標だ。
 それは危険を内包した仕事だった。それは、魔法使いの定式を通して達成された。すなわち関係者は、「科学に一致する形で、2050年までにネットゼロを達成するよう、この決定的な10年に行動を加速しつつ、公正で整然とそして公平なやり方でエネルギーシステムの点で化石燃料から離れること」によるものを含んで、「世界的な努力に貢献するよう訴えられて」いる。これは、ニュースピーク(ジョージ・オーウェルの『1984年』中で描かれた真実を偽る話法:訳者)のすばらしい実例だ。
 元々の英語の文書は、「化石燃料からの移行的離反」との表現を使用している。それはまさに、ある者が「化石燃料からの漸次的撤退」と同じ意味と信じたがっていたような、解釈と言い換えからなる多くの問題を提起している。かれらは幻想を求める者たちの願いを見誤っている。それは断じて、化石燃料を取り除くこととは関係していないのだ。目的は、その文章が言うように、あくまで「2050年までのネットゼロに向け行動を加速すること」にすぎない。

どうにでもなる
「加速」の仕組み


 行動の加速? どんな行動を? いわゆる「エネルギー移行」の30年に、世界的なエネルギー構成における化石燃料の比率は僅かしか落ちなかった(83%から80%へ)。ドバイ宣言はこの分野でいかなる「目標」も設定していない。それは「世界的努力」を訴えているにすぎない。これらを加速することは達成が難しすぎることにはならないだろう。われわれのシートベルトを締める必要は全くないのだ。その上で各国は、国民主権が求めるようなそれ自身のやり方で「加速」を思いつくだろう。
 同じことは石油や天然ガスの企業にも当てはまる。「国際エネルギー機関」によれば、それらは2021年から2022年に年間収益として4兆ドルもの大枚を稼いだ。それらすべては、2050年までの「ネットゼロ」を約束することによって、中短期……ではそれらの化石燃料を増産することを計画している(それらは2030年までには何も約束していない)。
 それらは昨年、再生可能エネルギーに利益の2・5%しか投資しなかった(注1)。ここでもまた「加速」はほとんど問題にはならないだろう。そして各企業もまた、自由な企業が好むようにそれ自身のやり方で加速の仕組みを考えるだろう。
 いくつかの界隈では、「2030年までのエネルギー効率年間平均向上率を高め再生可能エネルギー能力を世界的に3倍化する」ための「世界的な努力に貢献する」ことの関係者に対する訴えが歓迎されている。この方向での「努力」は確かに立派なことだ。しかしそれらは拘束力のある目標の代わりにはならない。加えて、再生可能エネルギーは化石燃料がかなり減少することがなくても増大可能、あるいは爆発的増大でも可能、ということがこの30年を通じて明らかにされてきた。全く驚きではなく、今回の文書もまた、「再生可能エネルギー」、「炭素のないエネルギー」(核エネルギー)、そして「脱炭素エネルギー」(不都合なものとして隠されたCO2捕捉)間の合成を深めている。

芝居としての?
OPECの策動


 大資本の指令もまた尊重された。つまり、時間表ノー、拘束ノー、定量化ノー、化石燃料からの漸次的撤退を支持する原則であっても言明ノー、だ。あらゆるものの中で最大の汚染源である石炭に対してもノーだ。こうして、ドバイで採択された文書は、「排除なしの石炭利用を引き下げる努力の加速」を勧告しているにすぎない。
 化石燃料を「標的にする」あらゆる言葉を受け容れないよう、COPにおけるそのメンバーに指示しているOPECの手紙について多くが語られてきた(注2)。それは、「グリーン資本主義」の支持者からの抗議と怒りのこもった反応を巻き起こした。これはアル・ジャベールの「歴史的な」諸結論をめぐる彼の仕事と満場一致を楽にすることを目的としたドラマのような策謀だった、ということもありそうなことだ。言葉に次ぐ言葉が駆け巡っている。

資金拠出を
人参に使い


 化石燃料への言及という問題に加えて、今回のCOPにおける他の大きな問題は資金拠出になる予定だった。これらは、「グリーン気候基金」に年当たり千億ドル拠出するという約束を尊重するよう工業化諸国に圧力をかけ、災害をもっとも受けやすい諸国(これらの国はまたその災害の責任も最も小さい)に加えられた「損害と損失」に対する特別基金創出に関するCOP27の原則合意を実現すること、を含んでいた。
 これらの問題には意味のある進展が全くなかった。千億ドル/年 もまだテーブル上にない。ドバイサミットの始まりで大きなファンファーレで公表された「損害と損失」に関する合意は、何ごとも解決していない。米国にとっての満足を別にすればであり、というのも、この基金は世界銀行によって管理されることになるのだ。見積もられた必要が約1兆ドルである一方、約束された額は2、3億ドルにすぎない。海面上昇で脅かされている国々の親愛なる友人達はCOP29を思い浮かべている。
 基金の約束はロバを動かすための人参だ。基金のほとんどが貸し付け形態である、あるいはその予定である以上、この人参は早々に債務上昇としてムチに変わるだろう。

バクーには
一切望むな


 われわれは、国連枠組み総会によって始められた多国間プロセス(リオ1992)が、カエルが最後が来ることを理解しないまま泳ぐ鍋の下で火が燃えているように続いている、という事実を歓迎する。結果として資本主義が最終的に「パリ協定の拘束」から解放されるように、今回のような「歴史的な」COPがさらに2、3回あり、1・5度C以下にとどまること、あるいは2度C以下にとどまることすらも確実に不可能になるだろう。
 COP29では、UAEの仕事がアゼルバイジャンによって続けられるだろう。もうひとつの産油国が、もうひとつの独裁が、今回の煙幕を引き継ぐだろう。激励者はCIAというよりもKGBになるだろう。しかし人民にとってそこには何の違いもない。気候にとっても同じだ。
 これらのCOPによっては破局は止められないだろう。破局を止めるのは、闘い、闘争の結集、またそれらの国際的な協調以外にない。(2023年12月15日、「ゴーシュ・アンティカピタリスト」よりIVが訳出)

▼筆者は実績のある農学者かつエコソーシャリスト活動家で『ラ・ゴーシュ』(第4インターナショナルベルギー支部のゴーシュ・アンティカピタリスト―SAPの月刊誌)に寄稿している。(注1)フィナンシャルタイムス、2023年11月22日。
(注2)偶然の一致なのか? この手紙は、プーチンによる電撃的なUAEとサウジアラビア訪問のすぐ後に現れた。(「インターナショナルビューポイント」2023年12月27日)  

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