『キャンパス・セクシュア ル・ハラスメントと法』

京都産業大学教職員労働組合発行 500円+税

法的整備も含め重要な問題提起

改正均等法のもとでどう闘うか

 企業におけるセクシュアル・ハラスメント防止配慮義務が規定された改正均等法が、この4月から施行された。各企業は、雇用管理上セクシュアル・ハラスメント問題について無視することもできず、ようやく取り組みを開始しつつある。国家公務員に関しては、人事院規則が施行されることによって、各省庁において必要な措置をすることになった。文部省は、国公立大学に対して「セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規定」と指針を通知し、私立大学もこれに準ずることなどを明らかにした。
 このようなセクシュアル・ハラスメント問題に対する新たな動きとともに、本紙6月28日号で紹介したようにセクシュアル・ハラスメント裁判においても大きな前進を勝ち取る判決が続いている。東北大学セクシュアル・ハラスメント・損害賠償請求裁判では、仙台地裁が被告男性助教授に対して原告女性に750万円の支払いを命じ、さらに東北生活文化大学のセクシュアル・ハラスメント・損害賠償請求裁判においても仙台地裁は、被告男性教授に対して原告の元女性職員に七百万円の支払いを命じる判決を出している。
 このようにセクシュアル・ハラスメントがあらためて社会問題化している。このパンフレットは、昨年11月7日、京都産業大学教職員労働組合主催で行われたシンポジウム「大学におけるセクシュアル・ハラスメント–大学の現場からの報告と対策」の報告集である。このシンポジウムでは、改正均等法が四月から施行されることを見据えながら3人のパネラーがキャンパス・セクシュアル・ハラスメントの実態とともに法的側面も含めて重要な視点と問題提起を行っている。

教官と学生の権力関係と性暴力

 「性暴力裁判弁護士全国ネットワーク」の代表の一人である段林和江弁護士は、「M大学の事件から」というテーマで報告。
 これまでの裁判においてひとつのハードルだった点は、単位認定、卒業認定、進学・就職指導などの権限を持つ男性教官と女性学生との権力関係をどのように裁判所に理解させるのかであった。段林さんは、この点について98年9月、徳島地方裁判所が出した鳴門教育大学セクシュアル・ハラスメント判決の中で「教育現場の支配従属関係は、企業の雇用関係等に比べ、強い場合がありうる」と認定し、男性教官のセクシュアル・ハラスメントを違法であると判断したことを紹介し、今後もこのような傾向が続くかどうか注目されると強調する。
 さらに、「職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、対価型と環境型に分かれ、人格侵害の一つとして民法709条の不法行為の類型として認められてきた。また、環境が悪化しているのに放置したということで、勤務環境の安全配慮の義務に違反したとして、債務不履行責任を認めるものもある。ですから学校におけるセクシュアル・ハラスメントも今後、同様に判例が積み重ねられていく」と述べ、キャンパス・セクシュアル・ハラスメント裁判の流れが新たな局面に入っていくのではないかと提起している。
 そして段林さんは、このような流れと局面状況において逆行する傾向のひとつとして「M大学のケース」(コンパの二次会のカラオケボックスにおいて男性教官が女性学生に対して性暴力を行った事件)の判決を紹介する。「判決は男性教官に対して原告に損害賠償30万円の支払いを出したが、これは暴力的、身体的な行為についてだけを不法行為と認めただけで男性教官と女性学生の権力関係にもとづくセクシュアル・ハラスメントであったことを認めなかった」と厳しく批判する。
 次のパネラーは、高嶌英弘さん(京産大法)で「民法から見たキャンパス・セクシュアル・ハラスメント」という観点から報告している。

「違法性の限界」を超えるために

 高嶌さんは、セクシュアル・ハラスメントの責任追及の困難さのひとつとして「密室型不法行為」の問題について取り上げた。例えば研究室で男性教官と女性学生だけで卒論指導中におきた事件の裁判例の場合、被害者自身がセクシュアル・ハラスメントがあったことを証明しなければならない難しさがあることを指摘している。
 二つめは、先の「M大学のケース」の判決に見られるように「酒の席上での無礼講」ということで「ここまでは許される」という形で法的判断を下していない部分があり、その「違法性の限界」をいかに壊していくか今後の課題であると述べている。
 三つめは、日本の場合、精神的損害額が低く見積もられていることや、事件後、原告に明確な不利益が生じたことを証明する責任があることなどを取り上げ、現在の裁判の問題点を浮き彫りにしている。
 三番目のパネラーは、高井裕之さん(京産大法)で「アメリカのセクシュアル・ハラスメント最新事情」というテーマで、最新の米国のセクシュアル・ハラスメントをめぐる判例や議論などを紹介している。

性暴力禁止法の制定をめざして

 最後は、シンポジウムでの討論が紹介されている。とりわけ重要なのは、各大学においてセクシュアル・ハラスメント防止ガイドラインや相談窓口を作ったが、現実に苦情が持ち込まれた場合、その先についてどのように対応していったらいいのかがまだ未確定なところが多いというのが現状だということだ。討論は、そういった状況を反映して学内に第三者が参加した裁判所的機能を持った機関の必要性、事件の公表・処罰問題、情報公開制度、そして被害女性のプライバシー保護とケア問題などについて意見が出されている。
 討論を集約する形でキャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワークの事務局の渡辺和子さん(京産大外)は、「いずれにしろ、セクシュアル・ハラスメントを含めた性暴力に関する法律、例えば性暴力禁止法が今、求められています」と訴える。この性暴力禁止法の制定は、今後の運動の方向性を示しているだろう。
 キャンパス・セクシュアル・ハラスメントの取り組みは、各大学において始まったばかりだが、すでに水面下において事件が発生し続け、表面化していないのが現実だ。大学当局の取り組みも、体面防衛を優先し、告発学生に対する圧力をかけたりして隠ぺいしてきたのがこれまでの在り方であった。いわゆる大学の男主義的権威主義構造を解体していくには、さらに多くのエネルギーが必要となっている。四月からの各大学当局の取り組みを監視し、意見を提示し、情報公開をもとめながら本当にしっかりした防止体制と啓発・研修を押し進めていく必要があるだろう。
 さらに一切のセクシュアル・ハラスメントの一掃のためにも国連の「女性に対する暴力撤廃宣言」、「行動綱領」、「国内行動計画」などを土台とした性暴力禁止法の制定を実現していくことが求められている。そして、この法の中にキャンパス・セクシュアル・ハラスメントに対するアプローチを位置づけることである。性暴力禁止法は、加害者を厳しく罰することはもちろんのこと行政の取り組みを義務づけることや問題の責任を大学にも課すものでなければならない。すべての皆さんがこのパンフレットを通してキャンパス・セクシュアル・ハラスメントに対する認識を深め、ともにセクシュアル・ハラスメント一掃にむけてスクラムを組むことを訴える。 (遠山裕樹)
 ★注文先 京都産業大学教職員労働組合 
FAX075-722-6431 キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク FAX0726-87-3880

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