新たな女性運動誕生の雷鳴か?
かけはし 第2661号 2021年4月12日
英国 クラファムの野外ステージ
警察の非道な弾圧に決然と立ち向かう
【解説】
33歳になる女性、サラ・エヴェラードは3月3日午後9時、およそ40分かかると予想された徒歩で帰宅するために、友人の家を出た。彼女が家に着くことはついになかった。3月9日、サラ拉致の疑いで現職警官が逮捕された。3月10日、彼女が最後に目撃されたところからおよそ50マイル離れた、アシュフォード・ケントの森で彼女の遺体が発見された。その後当の警官は彼女の拉致と殺害で起訴された。
これに対し、当地の女性グループが、サラに追悼を捧げ、男の暴力の結果として死亡した他の女性を追悼する通夜を呼びかけ、3月13日、彼女が最後に目撃された場所に近いクラファム・コモンの大きな広場に結集した。彼女たちは#ReclaimuThese
Streets(この通りを取り戻せ)というバナーを使用した。彼女たちはまた、英国中の他の都市や町でも同じような催しを計画した。
イングランドやウェールズの現行法下では、大集会実施にどのような要件があるかに争いがある。その前の週末には、マンチェスターの警察が、予算での賃金カットを受けたばかりの医療労働者に連帯する相対的に小規模な抗議行動を解散させ、主催者に1万ポンドの罰金(それは24時間もたたずに支持者によって集められた)を科した。しかし他のいくつかの催しは警察の干渉なしに進んだ。
警察は主催者に、問題の通夜は違法になる可能性もある、と勧告した。女性たちは、これをひっくり返させようと法廷に向かった。しかしそうはならなかった。とはいえ判事は、包括的な禁止ということではまったくなく、警察には、法の枠内で催しが実施できる環境を主催者と合意する選択肢もある、と語った(注1)。
警察は再度交渉すら拒否し、当初の主催者は、高額の罰金と刑事訴追を怖れ、主な催しと補足的な催しの中止を宣言した。ドメスティックバイオレンスを巡る長期的キャンペーン団体であるもう1つの女性グループ「シスターズ・アンカット」が、当初の通夜の時間にクラファムにくるよう人びとに訴えた(注2)。〔IV編集部〕
気品ある追悼
となるはずが
警察は来ないこともできただろう。警察がそうしていたとすれば、催しは、警官に殺害されたと言われている殺戮された女性への、静かで気品のある野外通夜になっていたと思われる。それは、サラ・エヴェラードだけではなく、男の暴力の結果として命を落としている多くの、さらに多くの女性――そしてその生命が肉体的暴力と高圧的な支配によって壊されているもっと大きな数になるとも言える人々――をも偲び、深く悲しむ時となっていただろう。
地球のいたるところで、特にラテンアメリカで、女性への暴力がこの2、3年、フェミニストの抗議の新たな誕生に対し触媒となってきた。ニ・ウナ・メノス(これ以上1人も奪わせない)もまた、世界の多くの他のところでこだましてきた。
昨日何千人という女性といくらかの男が、サラに追悼を捧げ深く考えるためにクラファムにやってきた。
警察は後ろに引いていることもできただろう。彼らがそうしていたとすれば、この集まりは自然の成り行きをたどり、3月の夜の寒さと暗闇の中でそれからゆっくりと散会していただろう。しかし彼らはそうしなかったのだ。
クラファム・コモン、特に地下鉄駅近くは、午後6時頃人で埋まっている。始まってまもなくは、一定の距離のある、公園内の人混み全体からは通夜について語ることは難しかった。ようやく遅くなって、数千人に達する程数が増すにつれ、それは明白に1つの政治的抗議となっていた。しかしそれは野外の抗議であり、誰もがマスクを着け、人々は距離を保つのに苦労していた。
野外ステージは花々で囲まれていた。人々は終日をかけてそれを置くためにここに来、通夜が続く中でもそうし続けていた。長い間、集まりは、アフロ・カリビアンのドラムが刻むリズムを除けば、非常に静かだった。
その後野外ステージからのいくつかの発言と何回かの唱和があった。しかしほとんどが聞き取れなかった。音響システムがまったくなかったのだ。
#ReclaimTheseStreetsという当初の主催者が、警察が彼らが容易にできたと思われる中で感染に安全な催しを認めることを拒否したために、これや他の催しを中止した時、通夜を先導するために「シスターズ・アンカット」が介入した。この通夜への第1の引き金が警官による1人の女性の殺害と拉致(という容疑)だったという皮肉は、警察にまったく効き目がなかったように見える。そして彼らは空しく、われわれの残りも何ほどかこの重要な点を見逃す,と期待している。
「シスターズ・アンカット」は正しくも人々にクラファムに来るよう訴えた。家で孤立しているだけではなく結集することから生まれる強さとして、特に家が絶対に安全な場所ではない人々のために、集団的な行動が必要とされている。抗議が続くだろうとはっきりさせたノッチンガムの女性たち、また多くの他の場所で繰り出した人々もそうだった。
警察の暴力が
人々を変えた
クラファムでの通夜に対する警察の攻撃は、夜のとばりが落ちた後の午後6時30分頃に始まった。起きたことについてはっきりさせよう。警察は最初、発言を止め逮捕を始めようと、人混みをかき分けてドタバタと野外ステージに突進した。群集が彼らを取り囲み、人々が連れ去られるのを邪魔しようとした時、警察はもっと多くの警官を送り込んだ。そして取っ組み合いが起きた時、彼らは逮捕の遂行のために逮捕部隊の利用を始めた。
警察は終幕までに、正規の警察車両に加えて、青色の「技術支援グループ」車両を現場に確保した。警察は衝突を開始し、それをエスカレートさせ、そしてその後、彼ら自身の1人によって殺害(容疑では)された1人の女性のための通夜を攻撃しようと、数百人の警官を展開したのだ。
目的は明確だった。彼らは見せ物的な裁判のために一握りの逮捕者がほしかった。その目標は、国家の禁止令に従うよう、また抗議する彼女たちの権利をあきらめるよう、女性たちにほのめかし、あらゆる者たちを脅す1つの方法として、つまり指導的活動家を取り除くと脅すことにより急進的な運動を無力化する方法として、重い罰金、またおそらく投獄判決になるだろう。
今運動全体が、起訴すべてを取り下げるよう求めて、「シスターズ・アンカット」の背後を固めなければならない。そしてわれわれは、要求が受け入れられなければ、憤激をもって街頭を埋めなければならない。保守党が警察に引き下がるよう命じなければ、われわれは彼らに、莫大な対価を払わせなければならない。
いいことだがわれわれは、デイヴィッド・ラミー(影の内閣で法務相を務めている労働党議員:訳者)と労働党が、警察、犯罪、判決行為、法廷の請求書に関する彼らの立場を再考していることを見ている。非道なことに、彼らはこれまで、あらゆる不正義に対するあらゆる形態の集団抗議を犯罪とすると思われる立法について、棄権を考えていたのだ。ラミーが家族内――これらの犯罪の多くが起きている場所――の女性に対する暴力について話しているのも重要な前進の1歩だ。しかしこれは、ゆりかごから墓場までのあらゆる場におけるこの暴力を強化し促進する構造についての、はるかに広い討論に値しているのだ。
クラファムに戻れば、警察の攻撃は終幕までに、殺害された女性のための通夜を国家の暴力に対する戦闘的な抗議へと変えた。それこそが実際にあったことだからだ。つまり、萌芽的な若い女性の急進的な運動を攻撃するための、重武装のちんぴら、準軍事部隊としての作戦、密集隊での軍事化された行動、といったことだ。
地球中の女性の
叫びをここでも
最後まで、「警察は引き下がれ」「君たちはわれわれを守らない」「これは通夜だ、君たちのサービスはいらない」「お前たち自身を逮捕しろ」「お前たちこそ問題だ」「恥を知れ」など、反警察のスローガンを唱和し、握りしめた拳を挙げた数千人の女性がいた。
コールは広場に、そしてその後クレッシダ・ディックの――そしてもっと小さな程度でだがプリティ・パテルの――辞任を求めて響き渡った(注3)。前から決起しているわれわれのような者にとって、ディックとパテルがこのようなやり方で行動してきた、ということに驚きはまったくない。2005年にストックウェルでジャン・シャルル・デ・メネセスの処刑――たったの1分離れただけで――を命じたのはクレッシダ・ディックだった(注4)。プリティ・パテルは、彼女の意図は非暴力の抗議を阻止し終わらせるためにより大きな権限を警察に与えること、と語っていた。
黒人のコミュニティには、警察から資金を引きあげろというコールが、ブラック・ライヴズ・マター運動のデモの間の米国に加え、大西洋のこちら側でも鳴り響いた理由である残忍で殺人的な警察行為に関し、長く苦い経験がある。昨夜のクラファム・コモンにおける警察のふるまいが今後のもっと大きな国家暴力の予告編であることに、疑問の余地はない。
今後の数週間と数ヵ月にわたって、女性に対する男の暴力にどう対応すべきかについて、1つの論争が起こるだろう。それは、それが体系的であり痛烈である理由について、また警察の高まる権限が女性――特にもっとも周辺化された女性――を守るどころかむしろ犯罪視することになる理由について、意見交換と討論に幕を開くための空間になるはずであり、そうならなければならない。
これが実際に新たな女性運動――男の暴力と女性排除だけではなく女性の価値を低めているシステム――文字通りまた比喩的に、生まれた瞬間から死のその日までの――とも闘う、女性が率いる怒り、戦闘的で急進的な――の誕生であると期待しよう。
われわれは、地球中の女性から発せられている怒りのコールを――そして女性に力を与え、男を教育するための要求を――繰り返す。殺害された女性のためにもう1つの通夜を行う必要がなくなるまでだ。またそのくらしが、われわれの家父長的で資本主義の社会、またそれを支えている国家、その両者からの暴力に従わされ、制限されてきたもう一人の姉妹の喪に服す必要がなくなるまでだ。もう1人も奪わせない。(2021年3月15日)(反資本主義レジスタンスより)
(注1)インディペンデント紙、2021年3月13日、「サラ・エヴェラード:『この通りを取り戻せ』通夜を禁止しようとしている警察に関し、高裁が介入を拒絶」。
(注2)反資本主義レジスタンス、2021年3月17日、「抗議の権利がなければ女性はすべてを失う―サラ・エヴェラードがその理由を証明」。
(注3)クレッシダ・ディックはロンドン警視庁警視総監、プリティ・パテルは内務相。
(注4)カンヴァセイション紙、2015年7月21日、「ジャン・シャルル・デ・メネセスを殺害した間違い1覧」。(「インターナショナルビューポイント」2021年3月号)
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