読書案内 マスコミ・セクハラ白書

メディアが抱える女性差別

編著:WiMN 出版社:文藝春秋 1600円+税

対セクハラ決起
メディアで開始


 財務省の福田淳一前次官によるセクハラ事件(二〇一八年四月)の発覚によって、あらためて長年、報道・マスコミ業界の男主義権力と女性差別主義を温存し続けている人権侵害構造が明らかにされた。
 福田セクハラ事件とは、テレビ朝日の記者(女性)が福田への取材中、セクハラの被害を受けたが、記者は福田のセクハラを証明するために録音していた。セクハラ被害を上司に相談したが、「報道は難しい」と却下される。記者は、福田のセクハラを許さず、社会的に警鐘乱打していくために音声データを『週刊新潮』に提供し、報道され、音声データも公開した。福田は、「セクハラに該当する発言をした認識はない」と否定し、麻生太郎財務相、財務省の矢野康治官房長などが福田防衛のシフトを敷いていった。
 福田セクハラ事件が社会的に明らかになるや、ネット署名など批判が拡大していった。福田は辞任するが、記者に対する謝罪、セクハラ発言も認めないまま逃げ切ったのであった。財務省は、福田のセクハラを認め減給二〇%、六カ月の処分相当の処分によって収拾させた。
 この福田セクハラ事件を契機にして全国の新聞、通信、放送、出版、フリーランスで働く労働者たちが「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN/Women in Media Network Japan)」を結成した。
 WiMNの設立趣旨では、「二〇一八年四月、財務次官によるセクシュアル・ハラスメントをテレビ局の女性記者が告発しました。残念ながら、取材先や所属する組織内での女性差別、セクシャル・ハラスメントはいまだに存在しています。これまで、ジャーナリズムに携わる多くの女性たちは、恥ずかしさや、取材先との関係が壊れることへの心配などからなかなか声をあげられませんでした。私たち自身が、声なき声の当事者だったのです。私たちメディアで働く女性は、今回の女性記者による告発に勇気づけられるとともに、今こそセクシュアル・ハラスメントを含むありとあらゆる人権侵害をなくす時だと決意を固めています」 。「女性がメディアで働きやすい環境を作ることは、憲法21条が保障する報道の自由と知る権利を守り、ひいては民主主義社会の根幹を強化していくことなのです」と述べている。

タイトルが
問題を照射


本書に収録されている各報告のタイトルをみるだけで全体像についてつかむことができるだろう。ぜひ一読してもらうために収録されている文章の「タイトル」を以下、明記しておく。
第1章私たちのこと―〈第1部〉「聞く」―①「ふざけんじゃねえ!」 ②「『おっさんクラブ』ノリという魔物」 ③「会社を提訴するということ」 ④「ひとりになると頭をかけめぐる『あのこと』」 ⑤「咲くなら場所は自分で選ぼう」 ⑥「原点は『家庭科、なぜ女子だけ』」 ⑦「他ならぬ女性記者たちが麻痺している」 ⑧「見た目だけで人を判断するのも性差別」 ⑨「悪いのは、私?」 ⑩「マイナスからのスタート」 ⑪「私という『女』に心から謝りたい」 ⑫「痛みの記憶」 ⑬「告発の理由」 ⑭「笑顔の奥にある硬い石」
〈第2部〉「語る」―①「『本当のリスペクト』を得るために」 ②「こんな記憶を持ったまま死ねない」 ③「ドラえもんの記憶」 ④「今も胸に残るわだかまり」 ⑤「よみがえった『妊娠するなよ』の一言」 ⑥「マミートラックはいらない」 ⑦「同期入社した女性記者は全員辞めた」 ⑧「『男女平等ネイティブ』が感じる気持ち悪さ」 ⑨「当たり前すぎた『警察からのセクハラ』」 ⑩「♯Me Tooへのモヤモヤから見えたミッション」 ⑪「これからペンを持とうとするあなたたちへ」
第2章コラム―社会時評―①「人権派広河隆一氏事件」 ②就活セクハラ720人アンケート ③セクシュアルハラスメント「禁止」の法制化 ④メディア業界のセクハラ問題 ⑤医学部入試の女性差別問題 ⑥♯Kutooから考える ⑦長崎市元幹部による加害事件 ⑧性暴力と軍隊 ⑨各地のレイプ裁判で相次ぐ「無罪判決」

女性差別構造と
再生産構造暴く


共通して見えてくることは、多数が取材先や取引先からセクハラを受け、被害を告発せず、自分の中にしまい込み我慢してきた。または職場を辞めることによって、必死に生き延びようとする姿だ。そして、同僚の男性にいたっては「セクハラなんか気にするな」という形で女性たちの奮闘を打ち砕いていくことだった。
白書は、そのような女性差別構造を様々なポジションから具体的に日常的なセクハラ被害を受けている実態を暴き、男主義権力と女性差別主義の温存・助長の継承という人権侵害構造を批判している。「男女雇用機会均等法」(一九八五年成立、九七年改正)以降もその構造が継承され続けている現在に対して切り込んでいこうとしている。
(遠山裕樹)

The KAKEHASHI

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