「─新左翼と女性差別─かねこさち論文を読む」の再読を
幾度も掘り下げ、直視する必要
継続的な論議と実践を
「正義」に内在
する差別問題
東京新聞(2022年3月23日) は、「支援団体でセクハラが次々に起こるのはなぜなのか…『正義の組織』にこそ潜む危険性」というタイトルで信田さよ子さん(心理学者)が「弱い立場の人に寄り添うはずの組織」でセクシュアル・ハラスメント、性暴力が発生していることを相次いで明らかになっていることを語っている記事が掲載されていた。
信田さんは、「ほとんどのケースが当初被害者からの訴えを取り合わず二次被害を与え、報道や被害者のブログで世間に公表されるまで謝罪しなかった」という共通した現れ方をしていたことを紹介。
そのうえで「社会正義の実現を掲げる組織では『正義のために働く自分たちは常に正義であり、間違いはない』と逆転した発想に陥りやすい。特に性加害では逆転ぶりがひどく根底にある女性蔑視とあいまって罪悪感が希薄だ。セクハラ防止対策にも本腰を入れない傾向がある」。
「普段の活動が立派なため周囲も批判しにくく、逆に被害者がバッシングされる。被害者自身も元は組織に共鳴していた場合が多く、理念と現実との落差に大きなショックを受ける」と分析している。
被害をなくすには、「法的な規制を強くすることだ。『逮捕される』と分かればセクハラは減る。しかし、まずは自助努力をしてほしい。人の尊厳を守るための集団なのだから」と強調する。
別掲では「近年判明した社会的弱者にかかわる団体の主なセクハラ」として①写真誌「DAYS JAPAN」代表取締役の広河隆一氏の性暴力 ②フリースクール「東京シューレ」が、男性スタッフによる女性利用者への性暴力 ③精神障害者支援の社会福祉法人「べてぶくろ」で性被害に遭った女性スタッフに対し二次被害などが取り上げられている。
私たち自身の
存在問う課題
この記事を読んで、あらためてJRCLの「組織内女性差別問題」を振り返らざるをえなかった。
すでにネットのフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』では「ABCD問題」(1982年に日本の新左翼の日本革命的共産主義者同盟(第四インターナショナル日本支部)メンバーが告発された強姦事件およびその後の組織的経過の総称である。当事者間では「組織内女性差別問題」とも呼ばれている)が紹介され、経過、関連文書が取り上げられている。
さらに関連文献として、栗田隆子さん(文筆家/元働く女性の全国センターの代表)は、『ぼそぼそ声のフェミニズム』(2020年7月初版第4刷発行/作品社)の中で「近代を読みかえる 第二巻 性幻想を語る 近藤和子編」(1998/3/1/三一書房)に収録されているかねこさちさんの「歴史の断絶─『組織内女性差別問題』を巡って」を取りあげ紹介している。
継続した論議
こそが必要だ
栗田さんは、「歴史の断絶」章の中で(JRCLを)告発した女性たち、「組織内女性差別問題」をめぐる討論状況などに触れながら「社会運動に関わる女性たちが、二一世紀の現在において何度も味わってきたことで、とても三〇年以上経った話とは思えない」と驚き、厳しく批判している。
さらに、「一九八〇年代に起きた事件とそれを取り巻く状況が、今なお継続している理由は歴史が断絶され、運動はその歴史を問われず、あえてこういう言い方をするなら『真空地帯』となってしまっているところにあるからではないか」と問題提起し、「性的な暴力や差別が歴史に位置づけられることがなぜここまで困難なのか」と問いかけている。
なお栗田さんは、「(かねこさち論文を)私が最初に知ったのは、皮肉にもと言うべきか、加害者側の立場の人間が所属していた第四インターナショナル関連のサイトである。このサイトによって、初めてかねこさち論文の存在、および『組織内女性差別問題』という言葉を知った」を紹介している。
この論文は、日本共産青年同盟の機関誌「青年戦線」(153号/1999・10・25)に掲載された遠山裕樹「─新左翼と女性差別─かねこさち論文を読む」のことだ。
遠山論文は、①組織内女性差別問題②男性たちの沈黙③「レーニン主義的党建設」を強調する組織④差別を内に取り込んだ左翼組織の構造について展開している。左翼組織において性暴力が「今なお継続している理由」(栗田)のわずかな一面を掘り下げていくための問題提起として読み取っていただきたい。
原点に立ち返
る議論と実践
継続して性暴力とセクシュアル・ハラスメントについて考察していくために「週刊かけはし」HP「フェミニズム」コーナーに掲載されている以下の文書を参考にしていただきたい。
(1)「─新左翼と女性差別─かねこさち論文を読む」(遠山裕樹/「青年戦線」153号/1999年10月25日)。
(2)書評「『性暴力被害の実際』 被害はどのように起き、どう回復するのか/編著 齋藤梓 大竹裕子/金剛出版 」(遠山裕樹/かけはし 2021年3月29日第2659号)。
『性暴力被害の実際』は、①不同意性交等罪を創設すること②同意のない性交のプロセス③「社会的抗拒不能」について④「性暴力」としての不同意性交─などを分析している。
(3)「読書案内 マスコミ・セクハラ白書 メディアが抱える女性差別/編著:WiMN 出版社:文藝春秋」(遠山裕樹/かけはし 2020年7月6日第2623号)
(4)「福田前財務次官のセクハラ犯罪許すな」(遠山裕樹/かけはし 2018年5月14日号第2517号)
関連して「日本革命的共産主義者同盟(JRCL)第17回全国大会文書 「組織内女性差別問題についての同盟の経過と問題点について」第3部 総括と課題」(かけはし1997年1月1日号/「週刊かけはし」HP「わたしたちの主張」欄に掲載)についても再読していただきたい。
性暴力とセクシュアル・ハラスメントについていかに捉え、掘り下げ、主体化させていくか。過去の問題ではなく繰り返されている現実を直視し続け、何度も原点に立ち戻り、反芻し、継続した学習と論議、実践を積み上げていきたい。
(遠山裕樹)
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