荒井勝喜の性的マイノリティ差別発言に抗議する
同性婚の法制化、LGBT差別禁止法の制定を
岸田政権は人権・生存権否定をやめろ
差別体質の結果だ
2月1日、衆院予算委員会で立憲民主党の西村代表代行による同性婚の法制化に関する質問に対して岸田文雄首相は「制度を改正するということになりますと、すべての国民にとっても、この家族観や価値観やそして社会が変わってしまう、こうした課題であります。だからこそ、社会全体の雰囲気、全体の有り様、こうしたものにしっかり思いを巡らしたうえで、判断することが大事だ」、 「きわめて慎重に検討すべき課題だ」(報道各社)と否定した。
この岸田の同性婚法制化否定の発言について報道関係者(10人)が岸田首相の秘書官・スピーチライターである荒井勝喜に対してオフレコを前提に意見を求めたところ、性的マイノリティや同性婚のカップルを「見るのも嫌だ。隣に住んでいたらやっぱり嫌だ」、「同性婚なんか導入したら、国を捨てる人も出てくる。首相秘書官室全員に聞いても同じことを言っていた」(毎日新聞/2月4日)などと述べた。荒井は、性的マイノリティや同性婚の人権と生存権を否定し、SОGIハラスメント(SО〈セクシュアル・オリエンテーション〉/GI〈ジェンダーアイデンティティー〉/性的指向・性自認に関する侮辱的言動、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体 的な嫌がらせ)に満ちた差別発言を行った。
荒井差別発言に対して毎日新聞は、首相官邸キャップから東京本社政治部に報告し、本社編集編成局で協議し、「岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断」し、荒井に実名報道すると伝え、3日午後11時にニュースサイトに荒井差別発言を記事として配信した(毎日新聞『本紙、重大性鑑み報道 オフレコ発言』/2月5日)。
その後、荒井は、あわてて報道陣の取材に応じて、「発言の内容は、僕は基本的にそんなに差別をしてる人ではないので、どういう人であっても一緒にきちんと共生して過ごしていくという人間なので、そこに対して、特別差別的な意識を持っているわけではないので、プライベートの意見としてでも、もし差別的なことを思っていると捉えられたとしたら、それも撤回します」(毎日新聞/2月4日)などとインチキな「発言謝罪と撤回」を行った。荒井の姿勢は、典型的な差別者の居直り態度であり、詭弁を弄しているにすぎない。
岸田に至っては、同性婚否定発言を棚に上げ、「岸田政権は持続可能で多様性を認め合う包摂的な社会を目指すということを申し上げてきた。今回の荒井秘書官の発言はそうした政権の方針とはまったく相いれないものであり、言語道断だと思っている。厳しく対応せざるを得ない発言だと思っている」とフザケタ発言(4日)を行い、荒井秘書官を更迭した。しかも平然と「性的指向や性自認を理由とする不当な差別、偏見はあってはならない」などと述べ、真っ先にそのような発言を行った岸田本人を否定する有様だ。
政権のあわてぶりは、これだけにおさまらず磯崎仁彦官房副長官が記者会見で、岸田発言(1日)について「法務省作成の答弁だ」(6日)と述べ、荒井の関与を否定し逃げ切ろうとしたが、法務省の金子修民事局長は、「(岸田首相の)『社会が変わってしまう』という発言はたたき台にはなかった」と説明し、ウソであったことを自己暴露してしまうほどだ。
性的マイノリティの訴え
LGBTQの仲間たちは、このような荒井差別発言を生み出すような岸田政権による性的マイノリティや同性婚の人権と生存権を否定し、SОGIハラスメントに満ちた姿勢に対して、「岸田政権にLGBTQの人権を守る法整備を求めます」オンライン署名(2月8日/4万筆)を立ち上げた。
オンライン署名は、「荒井総理秘書官の差別発言をめぐり、更迭後も『これで幕引きするのは許されない』との批判の声や法整備を求める声があがっています」と説明し、様々な意見を以下のように紹介(一部)している。
松岡宗嗣さん(一般社団法人fair代表)は、「こんなド直球の差別発言が政権中枢から出てくることに衝撃を受けた。(秘書官室もみんな反対するという発言もあったことについて)政権中枢が同じような考え方で固められているということ。根深い差別感情を感じる」。
こうぞうさん(「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟の原告)は、「紛れもない差別的な言葉。その言葉の刃の先には、僕自身も、大切なパートナーも、僕たちが法律上でも家族になることを願ってくれている家族もいる。むき出しの悪意に触れて、涙が流れました。今回の発言は失言ではなく、(政権中枢で)日常的に差別的な発言があったのではないか」。
小野春さん(「結婚の自由をすべての人に」東京訴訟/同性パートナーと子育てしながら暮らす)は、「胸が苦しくなり、生活が脅かされているような気持ちになった。性的少数者を見たことがないから奇妙なものを想像しているのかもしれない。私たちの実態も知ってほしい」。
井上ひとみさん(NPО法人カラフルブランケッツ理事長)は「ただ生きていることすらだめと言われたのと同義だ。当事者は本当に身近にいるのに可視化されていない現状がある」。
村木真紀さん(NPО法人虹色ダイバーシティ代表)は、「今回の発言にはあきれ返っており、ハラスメントというよりは差別発言だ。人権は等しくみなにあるはずなのに、日本のトップはそれすら理解していない。首相がこういった差別発言を言える環境、雰囲気をつくっている」。
LGBTQの仲間たちの訴えを受け止め、性的マイノリティや同性婚の人権と生存権の否定やSОGIハラスメントを許さないために、その第一歩としてLGBT差別禁止法(性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する法律)の制定、同性婚(婚姻の平等)の法制化の実現が求められている。
岸田政権の不誠実対応
岸田首相は、LGBT批判、アイヌ差別、性暴力被害者に対する中傷などを繰り返していた杉田水脈衆院議員(自民党)を総務政務官に任命し、批判が殺到していたがかばい続け、ようやく22年12月に更迭した。また、自民党内の会合で性的マイノリティについて「生物学上、種の保存に背く。生物学の根幹にあらがう」と差別発言してきた簗和生衆院議員(自民党)も文部科学副大臣に就任させている(22年8月)。つまり、LGBT、同性婚カップルの人権と生存権を否定する体質を温存し、その結果として荒井差別発言があり、岸田首相の2・1発言に現れているのだ。
2023年統一地方選挙を前にして政権寄りのFNN・産経合同世論調査でさえ「内閣支持率横ばい37・7%」という表現を使わざるをえない状況だ。
今回の荒井差別発言によって一層の支持率の下落傾向への促進を止めるために岸田首相は自民党の茂木敏充幹事長に対して自民党内保守派、宗教右派らの抵抗運動によって2021年に国会提出が見送られた「LGBT理解増進法案」の国会提出に向けて準備に入ることを指示した(6日)。
茂木は、「自民党として多様性を尊重し、包摂的な社会づくりにしっかりと取り組み、性的指向・性自認への理解の増進を図っていきたい」などとこれまでの自民党保守派と宗教右派が一体となった法案潰しに迎合してきた法案対応との整合性を明らかにすることもせず、荒井発言早期収拾のために振る舞っている。
ところが高市早苗経済安全保障担当相は9日の衆院予算委員会で、LGBT理解増進法案に対して「自民党内では結論が出ていない。文言について十分な調整が必要な段階だ。(同性婚制度導入について)婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するとの憲法24条の解釈があり、非常に難しい問題だ」と述べ、法制化について否定した。
さらに西田昌司自民党政調会長代理は「『差別を禁止する』といった法的な措置を強化すると一見良さそうに見えるが、逆に(LGBT以外の人たちへの)人権侵害の問題が出てきて社会が分断される。党内の合意形成の手続きを慎重にやるべきだ」(FNN/2月7日)と敵対むき出しで反対表明した。
これが自民党の現在のスタンスであり、岸田や茂木発言がいかにいいかげんであるかが明らかとなってしまった。要するにLGBT差別禁止法に反対であり、LGBT理解増進法ならば、なんとか妥協できるかもしれないというものだ。
自民党は、2016年にLGBTに関する自民党案が「差別禁止を進めれば同性婚につながる」などとして国や地方自治体がLGBT施策を策定・実施する役割について努力義務とする法案を準備していた。つまり、LGBTの「差別禁止」ではなく基礎知識を広げることによって国民理解を促進することを最終目的としていた。法案の骨抜きであり、ザル法そのものを目的化し野党のLGBT差別解消法に対して対抗的に提起していた。荒井差別発言収拾に向けてこの自民党法案の再現を狙っているかもしれない。
LGBT差別禁止法からの後退の危険性
2021年5月、超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」(自民、立憲、公明、共産、国民民主、維新、社民)は、法律の目的として基本理念に「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」などを加えて「LGBT理解増進法案」として了承した。修正案には、差別解消のための具体的措置は明記されておらず、実質的に理念法だ。議連は、「性的指向と性自認に関する差別やいじめのない社会をめざす」ための一歩とした。
すでに野党は、「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(LGBT差別解消法案/2018年12月)を了承し、国会に提出している。
法案は、①性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する国、地方公共団体及び国民の責務 ②政府は基本方針を、都道府県は都道府県基本計画を、市町村は市町村基本計画を策定 ③行政機関等及び事業者における性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の義務(事業者について努力義務)などを柱にした構成となっていた。
そして提案理由は「全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する豊かで活力ある社会の実現に資するため、性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等のための措置等を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」とした。
つまり具体的な差別是正措置を策定し、着手していくことを求め、その取り組みをサボタージュ等をした場合は「助言、指導及び勧告」を行い、「秘密漏洩、虚偽報告」に対しては罰則を適用するとした。
超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」は、5月の主要7カ国(G7)広島サミットまでに「LGBT理解増進法案」の成立を目指す方針を確認した(8日)。これはあくまでも妥協の産物でしかない。
求められているのはLGBT差別禁止法(LGBT法連合が提起する①対象は全て民間事業者/主(企業等)及び行政機関 ②性的指向や性自認により、他と異なる不利益な扱いをすることを禁止─が求められている)だ。
同性婚の法制化を実現しよう
岸田政権の正体がまた一つ明らかになった。松野博一官房長官は、同性婚を巡り、憲法24条の「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」とする規定について、「同性婚を認めるとは想定されていない」と明らかにした。つまり、同性婚の法制化の否定だ。
しかも2021年3月の札幌地裁の判決では、「異性カップルには、婚姻の制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性カップルに対しては婚姻による法的利益の一部すらも受けられないようにしていることは、合理的な根拠を欠いた差別的な扱いで、憲法に違反すると認められる」と判断し、同性婚を認めた判決も無視する悪質な態度だ。
この憲法24条の解釈について小林節(慶應義塾大学名誉教授/憲法学)は、「同性婚法制化に憲法改正は必要ない」(日刊ゲンダイDIGITAL)というタイトルで「『婚姻』は、『両性』の合意のみに基づいて成立する』と規定している憲法24条1項の読み方は次のようになる。つまり、ここで言う『両性』とは、まず制定時には『男女』であったことは明白である。しかし今日では、それを『男男』or『女女』と読んでも構わないはずである。なぜなら、これは、婚姻は『2人の成人の合意だけで成立する』という立法趣旨で、帝国憲法の下で存在した家制度(つまり親による拒否権)から婚姻制度を解放するものだからである。だから、『同性婚制度を法制化するためには24条の改憲が必要だ』とする主張は、科学の進歩と人権の本質を理解しようとしない者による暴論以外の何ものでもない」と明快に提起している。
すでに同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書などを交付するパートナーシップ制度(22・4・1時点/211の自治体で導入/2832組の同性カップルが登録)が広がっている。だが税金、民法など様々な不利益状態は放置されたままだ。同性婚カップルのこれ以上の人権と生存権制限を許してはならない。
岸田政権による同性婚法制化否定、LGBT差別禁止法への敵対を許さない!
(遠山裕樹)
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