「不同意性交等罪」創設した刑法等改正について

性暴力根絶と同意のない性的行為の処罰

「Yes means Yes」法(スウェーデン)は

「積極的な同意(Yes)」を確認しなければ性犯罪

 政府が提出した性犯罪規定の見直し、「不同意性交等罪」を創設した刑法等改正案が衆院本会議(5月30日)、参院本会議(6月16日)で全会一致で可決・成立した。7月中にも施行される。
 改正刑法の骨格は以下の通りだ。

〈1〉不同意性交等罪の創設

 これまで「強制性交等罪」(177条)は「暴行または脅迫」を用いることが成立要件としていた。また、「準強制性交等罪」(178条)も「人の心身喪失もしくは抗拒不能」を成立要件としていた。
 いずれも「被害者の抵抗が著しく困難」であることの立証を強要され、失敗すれば罪は成立しないと判断してしまう不当な無罪判決(2019年3月、名古屋地方裁判所岡崎支部の判決など)のケースが続いた。
 だが改正刑法は、両罪を一つに統合し「相手を同意しない意思の形成、表明、全うのいずれかが難しい状態」に追い込んだ「同意のない性的行為」を「不同意性交等罪」(「5年以上の有期拘禁刑」)と明記し、その構成要件ととして8つの行為や原因を具体的に示した。

 ①暴行または脅迫を用いる ②心身の障害を生じさせる ③アルコールや薬物を摂取させる ④睡眠や、その他意識が明瞭でない状態にさせる ⑤同意しない意思を形成・表明・全うすることができない ⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させる、または驚がくさせる ⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせ、拒絶する意思すら生じない
⑧経済的または社会的な地位に基づく影響力によって受ける不利益

 このように暴行・脅迫要件を見直し、同意の有無を要件にした不同意性交等罪は重要な踏み込みだ。被害者、性暴力根絶と同意のない性的行為の処罰を求めるフラワーデモ運動の成果だ。
 さらに求められる課題としては、例えば、スウェーデンの「Yes means Yes」法(性行為同意法/2018年7月)だ。
 これは性行為に関して行為者が相手の「積極的な同意 (Yes)」を確認しなければ性犯罪として処罰対象としている。また、相手が自発的に性行為をしていないことを認識していた場合は「過失」性犯罪として罰することも明記している。「Yes means Yes」法を参考にしながら性暴力を許さない法制定が求められている。

 〈2〉性交同意年齢の引き上げ

 性交同意年齢(性行為への同意を自ら判断できるとみなす年齢)は、13歳から16歳に引き上げた。13歳以上16歳未満に対しては、被害者より年齢が5歳以上上の行為者だった場合のみ適用する。(懲役5年以上)

 〈3〉性的グルーミング罰


 性的な行為を目的に子どもを手なずける性的グルーミング罪として明記した。具体的にはわいせつ目的で騙したり、誘惑したりして面会を要求する、お金を渡すと約束して会うことを求めることなども含まれる。
 さらにオンライン上でのグルーミング行為として性交や性的な部位を露出した映像をSNSなどで送るよう求めた場合も処罰対象とした。(1~2年以下の拘禁刑か罰金)

 〈4〉性犯罪公訴時効の延長

 「不同意性交罪」(現在の強制性交罪)の時効は10年から15年に、「不同意わいせつ罪」(現在の強制わいせつ罪)は7年から12年に延長した。
 被害者が18歳未満の場合は、18歳に達するまでの期間がこれに加算される。

 一般社団法人Spring(性暴力被害の当事者と支援者が運営)による性暴力被害者に実施した調査(2020年)では、「挿入を伴う性被害799件のうち、被害を認識するのに26年以上かかったケースが35件、31年以上が19件」であったことを明らかにしている。また、性暴力被害者が長期に被害を認識できなかったり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などのために被害の申告が困難な実態もあり、実情にみあった公訴時効の延長が求められている。

〈5〉膣か肛門に、身体の一部か物を挿入するわいせつな行為

 現在の強制性交等罪は、男性器(陰茎)を膣や肛門、口腔内に挿入、または挿入させる行為を処罰対象としてきた。改正刑法は、「膣または肛門に身体の一部または物を挿入する行為」も性交と同じ扱いにすると追加し罰することを明記した。(5年以上の拘禁刑)

 〈6〉「撮影罪」(盗撮)の新設


 盗撮罪は、刑法に規定がなく、各都道府県の条例で規制してきた。そのうえで改正刑法は、性的な部位や人が身につけている下着などの盗撮を処罰する「撮影罪」を新設した。(三年以下の拘禁刑、罰金)

地位関係性利用等罪創設の課題

「性暴力被害経験に関す
る質的研究」から学ぶ


 Springの依頼によって「性暴力被害経験に関する質的研究」プロジェクト(2017年12月)が立ち上がり、『性暴力被害の実際』(編著 齋藤梓 大竹裕子/金剛出版 /2800円+税)が出版されている。
 改正刑法の認識を深めていくために本書の「同意のない性交のプロセス」について紹介する。
 同意のない性交に至るプロセスとして「奇襲型」、「飲酒・薬物使用を伴う型」、「性虐待型」、「エントラップメント型」(精神的・物理的に徐々に逃げ道をふさがれていき、明確な暴力がなくとも逃げられない状態に追い込まれて被害にあうというプロセス)を整理している。
 とりわけ「『エントラップメント型』は特殊な状況で起こるのではなく、加害者が見知った人であっても見知らぬ人であっても、日常生活における普通の会話から被害が始まっていました。その日常会話の中で、ある加害者たちは、当事者に対して自分の価値を高めて権威づけようとしています」。
 「もともと顔見知りで、加害者が当事者よりも地位が高い場合、すでに力関係の上下があります。加害者は当事者の雇用や評価などの弱みを握っているので、当事者を追い込んでいくエントラップメントのプロセスが、見知らぬ加害者の場合よりも容易に完成します」。
 「被害当事者は、徐々に追い込まれていくために明確に拒否がしにくく、性暴力であるという認識を持ちにくい場合があります。しかし、断るすべを絶たれて強要された『望まない性交』であり、深刻な精神的後遺症が見られる、重大な出来事です」。
 「性交に至る以前の『関係性の持ち方』を基準に、真の同意が可能だったか否か、拒否を伝えられる関係であったか否かを判断することで、同意のない性交かどうかがより明確になると考えられます」と強調している。
 刑法改正は、独立して「地位関係性利用等罪」を設定しなかったが、不同意性交等罪の原因行為のひとつとして規定した。

加害者は被害者に対し予兆的行動をとる
 その後、性暴力を正当化する行動に移行する

 本書の第4章では地位・関係性を利用した性暴力において被害者が置かれる抵抗不能な状況のことを「社会的抗拒不能」と定義し、これを切り口にすると性暴力加害は突発的に生じるわけではないことが明らかとなってくる。
 つまり、加害者は被害者に対し予兆的行動をとるのであり、その延長線上に性暴力が発生する。その後の加害者は、加害者は自らの性暴力を正当化する行動に移行していく。
 「地位・関係性を利用した性暴力を理解するにあたっては、加害者の組織内部での地位だけに着目しても有効ではありません。地位も大切ですが、それとともに性暴力被害がどのようなプロセスを経て発生したのかということを、性暴力発生前の予兆的行動や、発生後の加害者による正当化などを捉えつつ分析していくことが必要なのです」と述べ、「職場や教育機関などにおける地位・関係性を利用した性暴力を予防するうえでも重要です」と提起している。
 本書の最後では「性暴力としての不同意性交」について「①事前に上下関係が形成されており、場合によってはハラスメント行為がある。 ②被害者側は心理的または社会的抗拒不能となっている。 ③性交前に同意の意思確認が全くされていないか、不同意の意志表示が無視されている。
④性交に至るプロセスや性交そのものが被害者をモノ化する(意思や感情をないがしろにする)過程となっている」。
 「人格をもったひとりの人間であるその人の意思や感情を尊重せず踏みにじる性交」であることが、「性の暴力」としての不同意性交の本質であると結論づけている。
 『性暴力被害の実際』を通して刑法改正の学習、課題、論点を明確化し、今後も論議を深めていきたい。

  (遠山裕樹)

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