読書案内「声をあげて」 

五ノ井里奈著 小学館発行/1500円+税

告発─自衛隊の性暴力温存・助長組織の実態

性暴力温存の自衛隊組織に闘い挑む

12・12判決公判

 9月25日、福島地裁(三浦隆昭裁判長)は、五ノ井里奈さん(元陸上自衛隊郡山駐屯地所属自衛官)に対する性暴力事件の判決公判を12月12日に指定した。検察は、加害者の3被告(無罪を主張)に対して懲役2年を求刑している。並行して五ノ井さんは、加害者5人と国を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を横浜地方裁判所に提起している(23年1月30日)。
 米誌タイムは「次世代の100人」の一人に五ノ井さんを選出し、「性被害を実名で訴えた元自衛官」「日本では性暴力について話すことが長い間タブー視されてきたが、里奈さんの勇気が、他の被害者が声を上げるための扉を開いた」と紹介している。12・12五ノ井裁判の判決公判は国内外で注目されていることは間違いない。世界的な性暴力を許さない#MeToo運動は、殺人を目的とする自衛隊に対しても五ノ井さんの告発と楔によって大きな再編局面に入らせていると言える。グローバル日米安保の軍事大国化へと加速化する岸田政権にとって、いかにこの問題を「乗り切るか」として必死だ。防衛省と自衛隊幹部たちの後手後手であるが、事態の収拾のために中途半端なオブラートで包みながら取り繕うとしているのが見え見えだ
 防衛省と陸上幕僚監部は、五ノ井さんに対する実行犯と共犯組織について、「◦所属中隊において、公然たる性的発言や身体接触が日常的にあった事実 ◦2020年秋、警衛所で隊員が性的な身体接触を行った事実 ◦2021年6月、演習場における野営で、隊員が性的な身体接触や発言を行った事実 ◦2021年8月、演習場の宿泊施設で、隊員がわたしをおし倒して、性的な身体接触を行い、口止めを行った事実 ◦2021年8月の演習場の宿泊施設におけるセクハラについて、上司にあたる中隊長が大隊長への報告と事実関係の調査を実施していなかった事実」を認定した(9月29日)。
 そのうえで5人(A3曹、B2曹、C3曹、D3曹、F1曹)を懲戒免職処分にしたが、性暴力温存構造を放置・黙認してきた権力者である中隊長は免職を免れた。同様に大隊長、連隊長は口頭注意、E2尉は訓戒処分という自衛隊組織防衛のために下級自衛官を排除し、暴力組織機構の根幹を防衛しぬいた。
 国は、民事裁判では「五ノ井さんが主張している性暴力があった事実は認める。当時の上官の対応や、複数の同種事案が起きていることも含め、極めて深刻な事案として遺憾な事態だと受け止めている。国として、事実関係に即した迅速で適正な解決につながるよう、今回の裁判に対応していく。国は、職場の安全確保について配慮できていなかった法的責任を負う可能性があると認識している」などと述べ、防衛省と陸上幕僚監部の性暴力事件認定のうえで「無駄な抵抗」をせず、「早期収拾」へと舵を切ったようだ。
 ところが裁判中、加害者たちは、次々と五ノ井さんに対する居直り、二次被害への発言を繰り返していった。
 9月12日の公判で被告は、「五ノ井さんへの直接謝罪は自分の意思ではなく、自衛隊に頼まれたものだ」「想定問答を含む『謝罪要領』や表情などの指導があった」ことを暴露し、自己保身を優先した言い訳を披露した。
 9月25日の公判で検察が被告に対して(五ノ井さんの)「主張はうそだと思うか」と問いたら、「はい」と明言するだけではなく、「覆いかぶさるようになったが、体を触っていない」「自分には家族がある。こつちも命がけでやっている」などと支離滅裂な証言までやってのけている。
 性暴力実行犯を断罪し、黙認し、温存してきた自衛隊組織を許してはならない。

五ノ井さんの孤立した闘い

 五ノ井さんは、本書を通して性暴力組織に対して以下のように告発し、糾弾している。
 五ノ井さんは任期付きの陸上自衛隊自衛官候補生として福島県の郡山駐屯地に配属(2020年6月)され、9月に東北方面特科連隊(郡山駐屯地)野戦特科X大隊Y中隊に配置される。すでにこの時点で後期教育で出会った先輩たちから「ここの中隊は、セクハラとパワハラが多いから気をつけろ」(47頁)と忠告される。
 この助言のとおり、「ヤマの訓練」(「ヤマ」長期間山にこもって演習)から帰隊した先輩とはじめての顔合わせ(20年9月18日)で
五ノ井さんは性暴力被害を受けていた。
 五ノ井さんは次のように批判する。
 「男性が多い環境だから、卑猥な発言は常に飛び交っていた。女性隊員がセクハラを受けるのが当たり前という雰囲気だ」「見聞きしている人が周りにいても誰も注意することはなかった」(49頁)
 さらに「ブラジャーのホックスを外そうとするように背中をまさぐってきたことがあった」「お尻を叩いてくることもあった」
 「『やめてください』と言っていたら、きりがないほど、勤務中にセクハラがまかり通っていた。一般社会ではアウトな身体的接触なのに、この中隊ではぎりぎりセーフどころか、横行していた」。
 このような性暴力は、日増しにエスカレートしていく。加害者は自己満足を達成していくために日々性暴力を学習し、被害者を追い込んでいくのだ。
 ある日、「柔道の組み手を理由に身体的接触をしてくる男性隊員もいた」。男性隊員A3曹(3等陸曹)(51頁)は、「柔道しようぜ」と称して、「お尻に陰部を押し当てながら、腰を前後に動かしてきた。卑猥な体勢を取らされ、やめてほしかったけれど、階級が上の人に口答えできなかった」。「秋ごろA3曹は、柔道の『払腰』のような技をかけ、わたしのお尻に陰部を押し当てている感触が伝わってきた」。
 この現場を「後にこの様子を、女性自衛官が目撃していたことがわかった」が性暴力温存・助長組織にからめとられ沈黙を強制されていたことが証明されている。
 2021年1月中旬に入っても、「相変わらず卑猥な発言は当たり前のように続いていた」(55頁)、「C3曹が背後から抱きついてきた」「やはり誰も注意はしない」(56頁)。
 この「絶望的な状況」に対して五ノ井さんは、「これが当たり前、これが普通だ。異常だと思ってはいけない。そうやって自分をごまかしながら過ごした。この時点で、わたしはセクハラに麻痺しかけていたのかもしれない」(56頁)と追い込まれていった。
 60頁には、注意点として「性加害を受けた描写がここから73頁まで続きます。フラッシュバックのおそれのある方は、73頁の『夢を潰す部隊』から読み進めてください。」と明記されている。性暴力被害者との分断ではなく、いかに共にスクラムを構築していくのかの配慮であろう。あえて明記することはしないが、性暴力の実態のひどさを認識したうえで今後の五ノ井さんの闘いを応援していきたい。
 五ノ井さんは、「セクハラの域を超えていて、もう限界だった」状況に対して、さらに打撃を与えたのが女性幹部の対応だった。
 「『もう限界なので帰らせてください』とH中隊長に言う。ところがH中隊長は、『訓練は訓練だから』と認めなかった。しかも女性幹部は、『そうだよ、訓練は訓練だからさ』と言って同調した」。
 五ノ井さんは、「頬に涙が伝わった。助けてくれないんだという絶望と同時に、女性幹部から手のひらを返されたことに対する怒りが込み上げた。胸倉をつかむ勢いで、女性幹部に顔を近づけて詰め寄った」(83頁)。
 このようなすさまじい「怒り」を起こさせるほど追い込まれ、孤立した状況であった。ついに「頼りにしたかった女性幹部さえも手のひらを返すような中隊で、いったい誰を信じたらいいのか。性的な加害行為を見て見ぬふりする部隊組織から、自分で自分の身を守るには、逃げることしかできることはなかった」(88頁)。
 8月11日 生き延びるために実家(東松島)に向かった。(怒った)「母が自衛隊の広報官に連絡し、仙台駐屯地のハラスメント相談窓口に連絡」するが、まともに機能していないことが判明する。
 「9月 自衛隊総務・人事課の一課の報告を受ける。『みんな口をそろえて『見ていない』『やっていない』という証言しか出てこなかった」と言うのだ。
 こんな性暴力組織を防衛する組織を許さず五ノ井さんは、9月13日 警務隊の聞き取り調査のために郡山駐屯地に向かう。警務隊に被害届を出す。後に福島地方検察庁郡山支部は受理する。
 五ノ井さんの決意は、こうだ。「3月16日夜 延長コードを首に巻いた瞬間、地震によって東日本大震災のことを思い出し、はっと我に返った」「強い思いが芽生えた。闘わなきゃ。あいつらを絶対に許さない。死ぬ気で立ち向かうと覚悟を決めた。加害の事実を認めさせ、謝罪させる。」「男社会の巨大組織を相手に闘うことを決めた」(106頁)。
 6月2日 「C、D、Aに対する強制わいせつ事件を、令和4年(2022年)5月31日、不起訴処分としたのでお知らせします」が届いたが、五ノ井さんは不当判断を許さず「6月7日付 検察審査会に対する審査申し立ての書類を福島地裁に提出」する。
 さらに「最終手段の告発だ」(120頁)として、実名で「ユーチューブチャンネルに通報開始 以降 メディアで報道が広がる」(131頁)、「オンライン署名も開始 6万筆突破(8月30日までに10万5296人)」。
 日本共産党、立憲民主党などの応援によって五ノ井支援の輪が広がっていった。
 9月7日 検察審査会が「不起訴不当」の決定(154頁)をする。
 そして9月中旬 自衛隊幹部から「C曹が事実を認めた。直接謝りたいと言っている」と連絡がきて、横浜某所で直接謝罪(176頁)を受けるが、他の加害者らは公判で「上から指示されたから……」など居直っていくのである。

自衛隊法第57条廃止/抗命権、政治的社会的諸権利の保障を

 産経新聞(23年11月19日)は「セクハラが相次ぐ背景には『女性が少ない』『上意下達』といった自衛隊特有の組織環境が指摘されるが、平時に規律を順守できない組織が有事に国を守ることができるのか」と主張している。現状維持はやむをえないと言っているにすぎない。そもそも自衛官一人一人の人権についてなんにも考えていないと断言しているのだ。
 防衛省と自衛隊は、24年1月に「ハラスメント防止月間」と称して、隊員に対する教育などを集中的に実施する予定と弁解している。その一環として「陸海空自衛隊にハラスメント担当の女性将補の配置が必要」だとも言い出している。自衛隊内セクハラ対策強化期間中でも「海自セクハラ」発覚し(朝日23・11・5)、悪循環的に五ノ井さんに対する誹謗中傷を行っていたのが現職の幹部自衛官(侮辱罪で略式起訴/23・10・13)などが次々と発覚する。表面的な対策だけでは再発を繰り返すのである。
 そもそも殺人を目的とする自衛隊という暴力装置を解体していくプロセスを手繰り寄せるために、そして性暴力温存組織を根本的に一掃するためには自衛隊法第五十七条(上官の命令に服従する義務)の廃止、上官の命令を拒否する権利である抗命権、政治的社会的諸権利(団結、ストライキ権)の保障などが必要であることを五ノ井さんの闘いは実証しているではないか。     (遠山裕樹)

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