第4インターナショナル・女性セミナー2021

フェミニズム、生物学的原理主義、  トランスの権利への攻撃

ソフィア・シディキ

 本論文:「フェミニズム、生物学的原理主義、トランスの権利への攻撃(ソフィア・シディキ)」は2021年に執筆され、2年前に開催された女性セミナー2021年にて使用されたものである。ヨーロッパ全土において極右勢力は、性的差異をめぐって動員をかけてきた。また極右はこれまで、「他者」を境界づける生物学的論拠を駆使した異性愛規範の押し付けを行ってきた。極右が反移民やイスラム嫌悪のレトリックを通じて、人種差別された「外国人」に対する運動の組織化を行ってきたことはよく知られている。そして現在、ヘテロ規範的な核家族の信条に従わない者を「他者」と見なそうとする運動が見られる。生殖、性的差異、家族をめぐる問題は、これまでも重要な政治的争点となってきていた。英国におけるトランスジェンダーの人々の権利が、「ジェンダー批判的」なフェミニストだけでなく、政府やメディアの強力な声からも攻撃を受けているなか、ソフィア・シディキは本稿のなかで、生来の生物学的差異に関する極右的な考えに領域を譲るとき/譲った場合、この先にはさまざまな危険が待ち受けていると警告している。(編集部)


 2017年にマドリードを巡回したバスには以下のメッセージが掲げられていた:「生物学が言うとおり、男の子には男性器がある。ジェンダーの洗脳にノーと言おう」。市議会はその数カ月前、同車両の路上からの退去を命じていた。男性には男性器がある。騙されてはいけない。男性に生まれたら男性。女性として生まれたら女性である。このキャンペーンの背後には、超保守的なグループHazte Oír(自分の声を聞かせよう)がいた。2019年、Hazte Oírは、今度は「フェミナチ」に対して、別のバスキャンペーンを開始した。
 スペインの極右政党「ボックス」は、先日のマドリード地方選挙で保守政党「人民党」が過半数を確保できなかったため、マドリードで連立与党に入ると見られている。「ボックス」は、トランス・コミュニティを標的にするだけでなく、中絶の権利に執拗に反対するキャンペーンを展開し、LGBTグループや女性団体を攻撃してきたHazte Oírのアジェンダを支持している。スペイン・フェミニスト党のリディア・ファルコン党首は3月23日、「トランス法の解体」と題されたイベントに参加し、スペインで最近提案されたトランス平等法に反対する「ボックス」と手を組んだ。曰く「女の子に生まれたら、女の子のままでいい」。
なぜ一部のフェミニストによる極右のアジェンダの売り込みが行われてきたのか?

異性愛規範の強制


 「男性は男性、女性は女性」という硬直した生物学的概念は、異性愛規範を強制するために極右がヨーロッパ全土で動員する方法の中心である。オルバーン・ヴィクトルの与党フィデス党が、コロナウィルスの大流行中に無期限で政令による統治を行う投票で勝利した数時間後、ハンガリー議会はトランスジェンダーやインターセックスの人々が法的に性別を変更することを不可能にする法律を可決し、トランスの人々がすでに直面している疎外感をさらに増大させた。しかし、予想された通り、トランスジェンダーの権利に対する攻撃はこれだけにとどまらず、LGBT全体の権利に対する制限案がすぐに提出された。その後の数カ月でハンガリー議会は、同性カップルによる養子縁組を事実上禁止し、結婚と家族単位の定義を厳格化する法律案を承認した。「母親は女性、父親は男性」と修正案は述べている。

伝統的な核家族を守る

 ハンガリーにおけるLGBTの権利に対する攻撃は、ヘテロ規範的な核家族の信条に従わない者に向けられている。これは、ヨーロッパ政治を占める広い反平等の流れの一部である。ゲイやレズビアンのカップル、トランスの人々、リプロダクティブ・ライツやジェンダーの平等を主張する進歩的なグループは、曖昧で柔和な「ジェンダー・イデオロギー」の下で悪者扱いされ続けている。反ジェンダー運動は、宗教原理主義者、主流保守派、極右政党を含むさまざまなグループの間に「象徴的な接着剤」を形成する。
 「LGBTイデオロギー」をめぐるモラル・パニックは選挙運動の中心となっており、アンジェイ・ドゥダは2020年のポーランド大統領選挙で、LGBT運動を「共産主義よりも悪質」な「外国のイデオロギー」と呼び、LGBT問題を学校で教えることを禁止し、同性カップルが養子をとることを制限することを公約に掲げた。これは、右派与党「法と正義」党とカトリック教会の緊密な連携による協調的な取り組みの一環であり、クラクフ大司教はポーランドに感染するネオ・マルクス主義の「虹の疫病」を警告している。それはLGBTの人々を感染症、疫病、性的逸脱と同一視し、現場での暴力を正当化し、日々、クィアな人々にとってますます敵対的な環境を作り出している。活動家たちは、約100の町や地域で「LGBTイデオロギー」の排除を宣言する決議が可決されたことで、ポーランドの3分の1が「LGBTフリーゾーン」となったことを示した。これらの決議には強制力はないが、ポーランドの極右権威主義政府の文化戦争を煽っている。

「性」を守るために:トランスジェンダーの権利に反対するジェンダー批判的フェミニストたち


 トランスジェンダーとLGBTの権利の侵食は、ヘテロ規範的な家族観を破壊する者を悪者扱いする極右と手を取り合っている。またこのような意見は、極右の周辺に限ったものではないことも分かっている。
 ここ数カ月、英国では、性は不変であり変えることはできないと主張する「ジェンダー批判的」フェミニストたちが主導するトランスの権利に対する反発が見られた。「性に基づく権利」に結集する人々は、トランスの人々をジェンダー空間や、より広範なフェミニスト運動やLGBT運動から排除し分離することを正当化するために、ほぼ独占的にこの主張を利用している。すべてのマイノリティを差別から守る強力な市民権の枠組みを提唱する人々にとって懸念すべきことは、「ジェンダー批判的」なフェミニストと極右の街頭勢力や極右選挙政党との連携である。「ジェンダー批判的」なフェミニストたち、そしてそれと連携した極右は何度も「男性は男性、女性は女性」という同じ生物学的論拠を使い、トランス、インターセックス、ノンバイナリーの人々の権利を、しばしば「女性の権利」という名のもとに貶めてきた。憂慮すべきことに、このような考えは急速に政治的な支持を集めつつあり、ジェンダーとセクシュアリティに関する保守的な考えを強化することによって、世界のフェミニスト運動やLGBT運動に悪影響を及ぼす可能性がある。

 「ジェンダー批判的」フェミニズムの支持者は、性的主体であることの無数の表現を受け入れ、人間であることの曖昧さに寛容さを示す代わりに、トランスの人々をしばしば性犯罪者や女性の安全を脅かす存在として表現する。これは明らかに、国内および国際的な人権法によって保護されている、ジェンダーの二元論に適合しない人々の権利と尊厳を侵害するものである。すべての女性とトランスジェンダーのための安全な空間は最重要であり、保護されるに値するが、これはジェンダーの二元論に適合しない人々の悪魔化に基づいてはならない。
 科学的人種差別主義が、人間を厳格な人種ヒエラルキーに分類することを目的に想定される生物学的差異を中心に据えたように、「ジェンダー批判的」フェミニストたちは、性とジェンダー・アイデンティティとの関係を本質化する生物学的議論を推進しており、性はどの生殖器官を持っているかによって純粋に生物学的であると主張している。

特性の保護か、保守的な信念の保護か?


 英国平等法2010は、性別や性別適合を含む多くの理由による差別を禁止している。信条は、それが人間の尊厳に適合し、他者の基本的権利に抵触しないものであれば保護される。しかし、深く憂慮すべき事態として、英国における平等法違反の申し立てに対する法定監督機関であるEHRCは、反トランス的見解によって職場において動揺を生じさせたことを理由に労働契約を更新されなかった女性の事案について、差別事件として雇用審判に正式に介入した。裁判官は2019年の最初の雇用審判で、彼女の「ジェンダー批判的」見解は「民主主義社会において尊重に値しない」、「他者の人権と相容れない」ものであり、したがって平等法の下では保護されないと裁定した。

 その裁定とは対照的にEHRCは「ジェンダーに批判的な」信念は「平等法の宗教または信念の保護の下で保護される哲学的信念である」と述べている。これは、EHRCの新委員長であるフォークナーによって強化された。フォークナーは、「女性は、虐待されたり、汚名を着せられたり、職を失うリスクを負うことなく、トランスジェンダーのアイデンティティに疑問を呈する権利を持たなければならない」と述べ、女性が「ジェンダー・アイデンティティ」を批判できる「信念の自由」を持たなければならないとしている。このEHRCの介入についてストーンウォールをはじめとするLGBTグループは、EHRCへの公開書簡の中で「歯に衣着せぬ」発言とし、「苛立ちと失望」を表明している。他人の人権を侵害する一方で、なぜ「信仰の自由」が守られるのであろうか? EHRCは、反トランス差別の被害者を保護するのではなく、トランスの人々を差別し排除する自由を望む女性を保護することに関心があるようである。

 現在、ヨーロッパ最大のLGBT慈善団体であるストーンウォールは、LGB同盟(「トランス排斥的」であると批判されたにもかかわらず、最近慈善団体としての地位を与えられた団体)の怒りも買い、「トランス問題に巻き込まれた」ことで「道を踏み外した」と主張し、執拗なメディア攻撃の中心となっている(その名が、トランスや性別不適合者が率いた1969年の暴動に敬意を表して命名されたにもかかわらずである)。ストーンウォールはいまや「数百万ポンド規模の巨大なロビー活動の不吉な力が、何百もの公的・私的組織の奥深くまで触手を伸ばし、その力を使って正統性から逸脱する者を黙らせようとしている」ことをめぐって、モラル・パニックを引き起こしている。圧力が強まる中、EHRCは、ストーンウォールのダイバーシティ・チャンピオン制度から脱退した。 イギリスの平等担当大臣のリズ・トラスは現在、すべての政府省庁にこの制度からの撤退を働きかけている。

日々直面する困難

 トランスジェンダーの権利が今日どうなるかは、ジェンダーの規範から外れて生きるすべての人に影響を与えるであろう。ジェンダー批判的な見解が支持を集める中、私たちはこうした考え方が極右や選挙民の極右の思惑にどう絡んでくるかに気を配らなければならない。
 トランスジェンダーの権利が最も声高に攻撃されているのが、クィアやフェミニストのコミュニティ内であることは、特にLGBTや生殖に関する権利がヨーロッパ全土で侵食されつつある今、懸念されるべきことである。マイノリティ・グループのいずれも、「他者」に境界線を引き、他の人々の権利を侵食するような運動に関与すべきではない。トランス女性とフェミニストの間の連帯を否定し、両者の間に誤った二分法を作り出すことは、リプロダクティブ・ライツの後退、ジェンダーに基づく暴力の蔓延、LGBTの権利に対する攻撃、ヨーロッパ全土における民族主義政治の定着など、私たちすべてに関わっている問題から目を逸らす結果を招くだけである。だれが「女性」であり、だれが「それ以外」とみなされるかを区分けする議論は、極右のアジェンダに直接作用し、右翼のモラル・パニックを助長する。それは、だれに権利があり、だれに権利がないかを線引きする行為である。私たちは何としてもこのような振る舞いに対して、抵抗していかなければならない。

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