フェミニズム視点からのコロナ対応策を求める緊急アピール
かけはし 第2654号 2021年2月22日
資料
社会構造に埋め込まれた不平等がもたらす脆弱性を減らし、すべての人びとの生存を支えるために
COVID-19×フェミニズム会議 (COVID-19 & Feminism Japan)
標記の緊急アピールが、昨年11月30日、特に年末年始に女性が直面すると恐れられる窮状を念頭に、有志によるCOVID―19フェミニズム会議から出された。新型コロナウイルスの影響が現にある社会的格差・差別を加重する形になっていることに対し、包括的な提言が行われている。討論を深める素材として紹介する。(編集部)
はじめに
新型コロナウイルスのパンデミックは誰もに同じように影響をあたえるわけではない。女性や移民など、社会的・経済的・法的状態により脆弱な立場に置かれた人びとに特に深刻な影響をあたえていることが、国連機関や民間団体によって早くから指摘されている。
この観点から、内閣府男女共同参画局がようやく2020年9月に「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」を設置したこと、および同研究会が11月19日付で出した「緊急提言」は歓迎できる。しかし、急速に露わになりつつある人びとの脆弱性に対応するにはまったく不十分である。特に、行政の窓口や多くの職場が閉まる年末年始には、最も脆弱な人びとが命の危険にさらされる可能性が高まる。学校や保育施設などが閉鎖になるなか、特に女性の世帯内ケア負担が過重となること、また暴力の危険が高まることにも注意が必要である。政府に対し、危機感をもって対策をとるように求める。
さらに、たとえ感染拡大そのものが収束に向かっても、コロナ禍の社会的経済的影響は長期的に持続する恐れが大きい。さらなる深刻化を防ぐには、脆弱な人びとに支援を提供するだけではなく、彼らを脆弱にしている構造的差別と不平等そのものを是正する必要がある。企業利益を優先するようなこれまでの経済成長路線への復帰を目指すのでなく、人びとの尊厳ある生存を平等に支えるような経済に向けて、根本的な方向転換が必要である。
コロナ禍に対応する政策の立案と実施は、以下の原則に沿って行われるべきである。
政策を導く原則
1 すべての人の健康と生活と安全を保障すること。特に、国籍、民族、ジェンダー、セクシュアリティ、年齢、滞在資格、住民票や戸籍の有無、障害の有無、職業や労働環境、家族構成など、脆弱性をもたらす要素に注意し支援を行うこと。
2 公的支援を受けることは、日本に暮らすすべての人びとの正当な権利であることを明確にすること。「自助」「共助」を強調して家族への依存を強いることは、世帯内ケアを担うことが多い女性の負担をさらに過重にするだけでなく、すでに困難な状況にある人びとをさらに追い詰め、深刻な人権侵害を招く可能性が高い。
3 支援に際して、特に滞在資格、住民票や戸籍の有無などにより差別的取り扱いをしないこと。また、現行制度から抜け落ち、不可視化されやすいひとびとの存在(制度の狭間)に注意を払うこと。
4 コロナ対応に関する意思決定はデータに基づき、政策によって影響を受ける多様な人びとの声が反映されるよう行われるべきである。またUN WomenやILO、WHOなど国連機関は、意思決定者が人権・公正規範に沿ったコロナ対応をとることができるよう、多くのデータやガイドライン、提言を出しており、政策決定にあたってはこれらをよく研究し活用すべきである。
年末年始に向け緊急にやるべきこと:窓口を開け続け、支援を途切れさせない
日本にいるすべての人がコロナ禍1年目の冬を生き延びるためには、「寝泊まりする場所」「食料」「暴力からの保護」という最も基本的なサービスの提供を途切れさせないことが必要である。
?年末年始に支援窓口にアクセスできる体制をつくる。アクセスのための情報や資金が無い人びとへの支援体制を充実させる。どのような支援があるか窓口を広報する。広報や支援相談は多言語(手話通訳も含む) で行い、インターネットを用いた遠隔アクセスも拡充が必要である。窓口に行く交通費や電話する携帯電話料金を払えない人もいるため、24時間・多言語対応のSNSのチャット機能や通話機能を使ったオンライン窓口の設置が必要である。
?支援が行き渡らない地域がないように、自治体と民間支援団体との連携を強化。民間支援団体に支援をする。
具体的に必要な支援
?暴力相談:性暴力・DV被害の危険が年末年始にかけて高まりやすいことに注意し、また性別やセクシュアリティ、年齢、民族、職業、法的地位などによって支援につながりにくいことがないように留意し、わかりやすい方法と多言語による支援情報普及を行うとともに、相談員の待遇改善も含め、支援窓口やシェルターの体制を整えること。
?リプロダクティブ・ヘルス:望まない妊娠への対策が緊急に必要である。また中高生を含む若年層と、技能実習生・留学生をはじめとする在日外国人女性に対する支援へのアクセスを保障しつつ、コロナ禍の緊急措置として、誰もが利用可能な相談体制の充実、低用量ピル購入を婦人科のオンライン診断で可能なことを周知し、診断なしで薬局での購入を可能にすること。緊急避妊ピル(アフターピル)の薬局での購入の許可、安全な人工妊娠中絶とケアへのアクセス、出産を望む当事者に母子保健サービスの保障等が必要である。
?生活支援:コロナ禍により仕事や住宅を失い、食糧や居住する場所にも困窮する人びとが増えていることを踏まえ、国はすべての人びとに生存権を保障する憲法にもとづき、支援を急ぎ拡充すべきである。コロナ感染者隔離のための公的住宅の確保や食糧支援と同等に、生活困窮者のためのシェルターの整備および食料支援を国主導で行う必要がある。またシェルターに来るための交通費がないケースもあるため、交通費等の支援も必要である。
?メンタルヘルス・自殺対策:自殺者の増加、特にすべての年代で女性の自殺が急増していることに特別に留意した対策が必要である。
?外国人支援の強化:外国籍者・民族マイノリティの人びとはコロナ禍により特に深刻な困窮に直面しているが、既存の支援制度にアクセスしにくい状況にある事を踏まえ、生活保護や各種給付金を含む生活支援制度について多言語による情報の積極的周知を行い、支援につなげる必要がある。特に帰国できない技能実習生や留学生、難民申請者等については国が責任をもって生活を保障し、就労可能な安定した在留資格を付与すべきである。
?労働者の権利保護強化:休業支援金の申請時に事業主の協力を得られない場合でも他の支給要件を満たしている場合には支給対象となることを周知徹底すること。また、雇用調整助成金の特例措置は2021年3月以降も現在の水準で維持するべきである。今後特例措置を縮小し助成率を下げる方向になるなら、企業は努力を放棄して解雇・雇止めに走り、失業の増加につながりかねない。
?税金・公共料金の免除:「猶予」は回復が前提であるが、生活破綻に直面している人々にとっては現実的でないため、免除措置が必要である。
?療養者への支援:コロナウイルスに感染した際の生活支援セットや配食サービス提供の有無は、自治体ごとに異なっていることから、支援がない地域がないように、国は全国的な基準をもうけ経済的支援を行う必要がある。特に、感染リスクが高く低賃金で身分が不安定な職につかざるを得ない人びとの感染後の生活保障と、感染してもなお育児や介護の負担を背負わされる女性感染者へのサポートの2つの側面について全国的な支援が必要である。
中長期的にやるべきこと
企業ではなく人間を中心とした経済政策への転換を。多くの人びとが生存そのものの危機に直面しているにもかかわらず、政府の経済支援策は、クーポン券とポイント還元に象徴されるように、一定の消費力をもつ中間層と大企業を優先した景気浮揚策に重点を置いている。公的支出により経済を支えることは必要だが、企業の利益や大型投資を優先してきたこれまでの経済のあり方をコロナ禍を機に見直し、大きな格差を是正して、すべての人が健康で安全で人間らしい暮らしができるような経済へと転換をしていく必要がある。
1 詳細な社会経済的影響調査と対策の検討
内閣府男女共同参画会議がコロナ禍の女性への影響について検討を始めたことは歓迎できるが、ジェンダーだけでなく、セクシュアリティ、年齢、民族、障害、家族構成、労働環境、居住地域など人びとの多様な属性・状況に関わって、どのような社会経済的影響が生じているのかをより詳細に把握し、対策を立てる必要がある。当事者団体や支援団体、研究者らと協力して社会影響調査を早急に行い、透明性あるかたちで対策を検討すべきである。
2 労働市場の構造的な改革
ILOは、女性雇用への長期的悪影響を防ぐために、失業を防ぎ、ケアに投資するなど、ジェンダー視点を反映した雇用政策の必要を強調している。一方で内閣府男女共同参画局にはこうした視点がなく、コロナ禍によるテレワークの広がりが女性の働きやすさにつながるとの楽観的見方を示しているが、労働者保護をともなわないテレワーク促進はいっそうの労働の細切れ化と雇用の不安定化につながりかねない。政府が促進する「副業・兼業ガイドライン」について「使用者の指示による副業」は慎重を要するべきである。パート、派遣、フリーランスなど不安定で低待遇の非正規労働者に、社会保険や有給休暇など社会的保護を平等に保障し待遇を改善すること、法定最低賃金を引き上げること、差別のない均等待遇を実現すること、安定雇用の専門相談員を配置した労働相談の拡充、失業給付の拡充とジェンダー視点を反映した職業訓練の強化などの方策が、経済的脆弱性をやわらげ困窮化を防ぐために不可欠である。
3 無償ケア労働に依存した社会の改革
国連事務総長が2020年4月に公表した政策提言において指摘しているように、社会的に認知されていない無償ケア労働に依存した経済、社会の在り方を変革していく必要がある。世帯内無償ケア労働の負担が特に女性に過重に偏っていることが、女性の労働市場参加にあたえている重大な影響を認識し、非正規を含め、性別を問わず家族的責任を担う労働者への支援拡充、長時間労働の是正、質の高い育児介護サービスの保障とそこで働く労働者の待遇改善などの措置を進める必要がある。あわせて、現在賃労働に従事していない「専業主婦」や「ヤングケアラー」と呼ばれる子ども・若者などによる無償ケア労働の負担がもたらす問題についても、対策が必要である。
4 世帯を単位にした制度の見直し
労働施策、雇用慣行、税制、社会保障制度など、個人が生きるために必要な制度が、男性稼ぎ手モデル=世帯単位モデルから脱却できておらず、女性の多くが補助的労働に誘導され、支援制度が世帯単位であるために支援の外に留め置かれる女性や若年層が存在する。今般の特別定額給付金も世帯単位で給付されたために受け取れない人が続出した。すべての制度を世帯単位から個人単位に変換する必要がある。
5 外国籍者・民族マイノリティの権利保障
外国籍・民族マイノリティの人びとがコロナ禍で特に深刻な生活困窮に直面しているという事実は、日本社会における構造的な人種差別の存在を示している。多くの外国籍の人びとが日本社会に定住している現実を見据え、生活者としての権利を保障する包括的な移民政策を構築すべきである。外国にルーツをもつ人びとが日本社会の底辺に固定化されることを防ぐため、人種差別の明確な禁止、定住・社会統合・教育支援策の強化、移住労働者の保護強化を行うこと。特に技能実習制度は、搾取と権利侵害をなくすため根本的な制度見直しが不可欠である。また長期収容をなくし、日本に生活基盤をもつ非正規滞在者に安定した滞在資格への切り替えを認めるべきである。
6 公的福祉サービスと民間支援団体への公的支援の拡充
コロナ禍の影響が長期化する中で、さまざまな困難を抱える人びとのための相談や支援の拡充は、公的・民間を問わず必須である。なかでも最も重要な柱である公的福祉制度が力を発揮できるよう、専門性をもつ支援員を正規化し、安定した雇用を保障するべきである。一方で民間支援団体が果たす役割は大きいが、現状では活動資金が不足し、ボランティアの無償労働に依存している部分が大きい。安定した持続的活動のため、団体の自立性を尊重しつつ公的に支援するため中長期的な計画が必要である。
7 将来世代への影響を和らげる
コロナ禍は、経済的に脆弱な家庭の子どもや若者の教育と雇用に重大な影響をあたえており、緊急に支援策を講じなければ、将来にわたって重大な格差を生じる恐れがある。保育や給食など基礎的サービスをすべての子どもが平等に享受できるように公的支援を拡充し、学校や大学からのドロップアウトを防ぐ支援を講じること。OECDの中で最低レベルである教育への公的支出を大幅に拡充し、世帯の教育費負担を下げて、家庭の経済状態にかかわらず、望むすべての人が教育にアクセスできるような施策への転換が必要である。
作成:COVID-19×フェミニズム会議
連絡先:
covid19feminismjapan @gmail.com
協力:アジア女性資料センター
[提言をPDFでダウンロード|資料編をPDFでダウンロード]
*具体的なデータや情報は、下記をご覧ください(資料編PDFには全て含まれています)。11/29更新
緊急アピール 資料編(前編)
https://link.medium.com/bgMUCMfuLbb
緊急アピール 資料編(中編)
https://link.medium.com/eaOUmqliNbb
緊急アピール 資料編(後編)
https://link.medium.com/n3Uql8niNbb
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この緊急アピールへの賛同団体を募っています。
賛同していただける団体は、
covid19feminismjapan @gmail.comまで、ご連絡ください。
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賛同いただいた団体のお名前は、適宜集約してこのページに追記していきます(「掲載団体名」「掲載してよいウェブサイトURL(あれば)」をアップします)。
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