歴史的大転換宿す世界 (下)

生命が利益より価値もつ世界へ共同の努力を
資本主義的「常態」復帰くい止め社会―エコロジー的転換の道へ

2020年6月8日 第四インターナショナル執行ビューロー

社会運動と反資本主義者は攻撃的政策の暴力に反対して団結しなければならない


  医療危機が依然として存在しており、支配階級の唯一の目標が自分たちの利益を再構築することである中では、労働者階級にとっての脅威は二重のものとなっている。事業閉鎖やレイオフが増加し、賃金が支払われなかったり削減されたりするだけでなく、労働権を保護する法律(それが存在するところでは)は緊急措置の期間中に広範囲にわたって問題にされてきたが、その狙いはそうした措置を延長することである。インドでは、モディ政権がこの方向で各州に圧力をかけ、ウッタルプラデシュ州やマディヤプラデシュ州では、健康法や新たな活動のための安全規則、解雇の促進などと一緒に、労働組合の諸権利の一時停止が実施されている。
 ドイツ、スペイン、アメリカ、ブラジルなどさまざまな国において、ロックダウンの間に、人種差別主義、外国人嫌悪、あれやこれやの陰謀説、国家主義、白人優位主義などを掲げて、極右グループがロックダウンに反対するデモを組織した。それ以外では、インドにおいて、(二億人の)ムスリムが「エピデミックに責任がある」と非難するレイシストのキャンペーンの犠牲者となっている。こうしたグループは、ロックダウンの間やその後に、多くの国で存在する社会的・政治的危機に寄生しているのだ。
 しかし、数多くの国において、ロックダウンにもかかわらず、社会運動、労働組合、民衆コミュニティが活動していた。それは、監禁状態になる前に労働組合、政治組織、社会運動によって実行されていた多くの行動や動員の継続としてであった。そうした行動や動員の例としては、性的暴力やレイシストによる暴力に反対する動員、住居の権利を求める動員、フランスの医療労働者の闘いのような被雇用者の闘い、チリ・レバノン・アルジェリア・香港における反緊縮・民主主義運動、そして過去数カ月におこなわれたクライメート・ジャスティスを求める動員などがあげられる。
 いくつかの国では、これは相互援助という新たな社会運動の成長へとつながった。その新たな運動は、現在の状況において「国の中で、国に反対して」活動するという興味深い問題を提起している。それはおそらく長期間にわたって、同じような規模では今まで存在していなかったようなコミュニティ組織を作るという問題なのである。新型コロナウイルス、そしてわれわれが生活する社会についてそれが明らかにしたことによって、こうした動員や運動は、活動を継続させ、成功させるという決意を強くすることができた。

労働の再評価と自己組織化へ


 多くの自己組織化された労働者人民のイニシアチブが、ロックダウンの期間中に、抵抗している諸領域から、農村部と都市の双方において、生まれてきた。人民からの、あるいは組織された諸セクターからのこうしたイニシアチブの例としては、小農民、先住諸民族、失業者、大都市周縁部での人々やコミュニティ、フェミニストの連帯ネットワークなどがある。こうしたイニシアチブは非常に興味深いオルタナティブを作り上げている。たとえば、伝染を確実に防ぐために布製マスクを人々に提供する共同工場のとりくみ、食料の提供やオルタナティブな生産、公的医療システムの防衛とそれを誰でも利用できるという要求、家庭で孤立している間に女性に対する暴力のエスカレーションが増えるとともに女性が担っている厳しい介護労働も増えていることへの非難などが挙げられる。
 危機の結果の一つは、非常に広範囲な民衆諸階層に、使用価値を生み出す種類の労働―エッセンシャル・ワーク―と利益を生み出すためだけに存在する種類の労働とがあることを明らかにしたことである。労働者階級のコミュニティがこの重要な労働に与えている価値を印象付けた行動によって、一般的に言っても、より特別な意味でも、医療・介護における社会的再生産という労働が重要であることが示された。家庭の中であっても、公的セクターあるいは民間セクターのいずれかで(低い)対価を支払われていても、同じように重要なのである。
 多くの国では、医療労働者への感謝の気持ちで始まった行動(拍手を送ること)によって、彼らの視野が広がり、すべての必要不可欠な労働者(エッセンシャル・ワーカーズ)、とりわけ郵便、輸送、食糧分配、小売サービスで働く労働者をも含めるようになった。こうした部門で働く者の多くが女性であり、黒人であり、移民であるということが明らかにされた。
 同時に、航空輸送の顕著な減少、そしてもう少し規模は小さいが道路輸送の著しい減少は、予期していなかった成果をもたらした。それは、「通常は」スモッグで息苦しい何千という都市で大気汚染が減ったことであり、さらに騒音が減ったことにより、この数十年間で、あるいはこれまでで初めて、多くの人々が鳥の歌声を聞けたことである。
 多くの社会運動の中で、そしてあちこちの労働運動の中で、「#ビルド・バック・ベター」というスローガンのもとで討論が始まっている。それは、「常態」というのが、おびただしい富の中での貧困、ホームレス、安全でない労働条件、女性に対する暴力、黒人や移民に対する差別、汚染やフードマイレージ(訳注)、他の側面での環境破局を意味していることを問題にするものだ。
 ロックダウンの期間中やそれが解除された後、多くの行動や労働者のストライキが起こっている。それらは、安全、不必要な生産の閉鎖、労働権の保障、賃金の支払いを求めている。たとえば、多くの国で、アマゾンで働く労働者やケータリング、輸送、物流(配達)部門の労働者が行動を起こしている。
 それゆえ、次の数カ月間における社会運動の絶対必要な任務は、雇用、社会的権利、民主主義的自由に同時に影響を与える社会的攻撃の波に直面している民衆諸階級の健康と権利を守るために、彼らを組織することであり、さらに人間と環境との持続可能な関係を再構築することである。
 (訳注:フード・マイレージとは「食料輸送距離」のことで、輸入食糧の総重量と輸送距離を掛け合わせたもの。食料の生産地から食卓までの距離が長いほど、輸送にかかる燃料や二酸化炭素の排出量が多くなるため、フードマイレージの高い国ほど、食料の消費が環境に対して大きな負荷を与えていることになる)

医療、住居、雇用、賃金、教育、移民、環境への要求が緊急


*あらゆるところで、とりわけパンデミックで打撃を受けた地域において、検査キットを利用できる人を大幅に増やすために有効な手段および蘇生病床・人工呼吸器の増設に資金を投入すること。適切な保護マスクと生物学的検査をすべての人々に普及させること。
*労働者の健康保護がおこなわれている場合にのみ経済活動を再始動させること。保護手段(マスク、ジェル、ゴーグル、手袋)をすべての被雇用者に提供すること。安全条件が遵守されない場合、被雇用者の保護および仕事から離れる権利の即時行使を認めること。
*仕事を一時停止した労働者の賃金について、休暇をとる、あるいは勤務しなかった時間を後で補填するという義務を課すことなく、企業/国が一〇〇%の責任を負うこと。その中には、移民労働者、不安定労働者、一時的労働者、家事労働者、フリーランス労働者、季節労働者が含まれること。雇用者が危機の間の賃金支払いを拒否した場合には、被雇用者の賃金を支払う義務を国が持つこと。政府は賃金を支払わないという罪を犯した企業に罰金を科すことによって、この介入の費用を回復しなければならない。
*きちんと生活するのに十分な額を保障されたミニマム・インカムを、インフォーマル部門の労働者、失業手当を支給されていない失業者、学生、それが必要な者すべてに国が提供すること。
*資本家グループによる解雇や事業閉鎖をすべて禁止すること。パンデミックが始まって以降に解雇された被雇用者を復職させること。
*学生・教員にとって安全な状況のもとで学校を再開すること。授業がなかったことにより学生に不利な扱いをおこなわないこと。
*ストライキ権を含む社会的権利を一時停止する独裁的で特例的な措置を禁止すること。とりわけロックダウン解除後にこうした措置を継続することを禁止すること。
*借家人の立ち退きをすべて停止すること。賃料、個人ローン、水道料金、エネルギー料金を一時猶予すること。住居が不安定な人々や住居を持たない人々に適切な住居を提供すること。空き家を接収すること。
*障害を持つ人々、高齢者、ロックダウンによって社会的に孤立している、あるいは孤立してきたすべての人々のために適切な社会的介護を提供すること。
*暴力の犠牲者である女性や子どもたちのために、ただちに緊急の保護措置を確立すること。暴力を振るう配偶者を排除する、あるいは犠牲者のための他の住居を提供する決定をすみやかにおこなうこと。重要な医療処置としての避妊・妊娠中絶を必要なときに利用できるよう保障すること。
*閉じられた難民センターを衛生設備のある開かれた受付センターに転換すること。すべての「不法」移民や難民をただちに合法化すること。すべての社会保護システムを利用できるようにして、あらゆる排除をやめること。超過密状態にある難民収容所、とりわけレスボス島にあるモリア収容所やアメリカ・メキシコ国境沿いの収容所をただちに閉鎖すること。

民衆諸階級の利益と社会的必要を一連の緊急解決策の先頭に

1.医療保険を含む医療システムの必要不可欠な領域すべて、および製薬業とバイオ産業、すべての医学・薬品の研究・開発は、最終的には公営化されて、公的管理のもとに置かなければならない。薬品・知見・医療製品の特許は廃止されなければならない。医学研究は、国際的な連帯精神のもとで、人間に奉仕するためだけにおこなわれなければならない。知見や技術はあらゆる国で自由に使えなければならない。
2.このことは、介護・看護・医療のための無料の社会インフラの発展と同時におこなわなければならない。社会的再生産という必要不可欠な仕事は、ほとんど、あるいはもっぱら女性が担っているが、社会的に再検討され、もっとよい報酬が与えられなければならない。
3.医療システムを再建するという状況では、すべての民間病院は公的管理のもとに置かれ、社会的所有へと移行されるべきなのは自明のことである。統一された医療・病院部門は絶対に不可欠である。
4.病院やそれ以外の医療設備を機能させるために必要な清掃やさまざまなサービスは、公共の仕事に戻されるべきである。関連労働に就いている被雇用者にはきちんと賃金を支払わなければならない。労働現場でのきちんとした医療を保障しなければならない。
5.これら全部をうまく処理できるように、一切の武器生産をやめ、武器工場を社会的に有用な生産へと転換し、これによって生まれた資金を同時に医療システムの発展に投資すること。
6.多額の所得・利益・資産には特別税を課して、医療システム拡大にかかる費用を調達すること。危機対策の費用は、最近数十年間に一般大衆の犠牲によって巨大な利益を上げ、富を蓄積してきた者たちに確実に負担させなければならない。
7.労働環境によって人々が病気になることがあってはならない。労働環境は人々の発展と健康に貢献できるものでなければならない。これは食肉産業、農業、高齢者介護、配達サービスで働く未熟練労働者にとって、とりわけ急を要するものである。労働安全、適切な衛生・健康措置が保障されなければならない。労働時間の短縮やよりよい休憩の手配。
8.高品質の公共住宅を建設する都市計画によって、居住に適さない住宅をなくすこと。
9.公共教育システムの強化・拡充。インターネット学習パッケージを提案する企業の発展を理由にした教育の民営化を拒否する。
10.主要なソーシャルメディアであるフェイスブック、ワッツアップ、アマゾン、ズームは、ロックダウンによって大きな利益をあげ、将来の巨額の利益を生み出すデータを収集している。こうしたソーシャルメディアを公的所有に移すこと。それらは(すでにあまりにも多くをかき集めているので、一切の補償なしに)、支配権を移されるべきである。それらは、利益のためではなく、透明性を持った公的なサービスとして運営されるべきである。
11.あらゆる国において、葬祭サービスを公的所有に移すこと。民間企業が人の死から利益を上げ、自らの売り上げの最大化のために人々の悲しみを操作するのは許されるべきではない。
12.持続可能な農業および世界的な食料正義(フード・ジャスティス)。社会的ニーズにもとづいて生産・分配の循環を再組織すること。フード・マイレージと食肉消費の削減。森林伐採を終わらせること。とりわけアグリビジネスによって推進されている森林伐採を終わらせること。
13.民間銀行を大株主への補償なしに収用すること。金融システムを市民管理のもとで社会化すること。個人口座への銀行手数料の一時的停止。当面のニーズを満たすために労働者階級にゼロ金利ローンを提供すること。家計への銀行債務、マイクロクレジット、家賃を凍結すること。誰に対しても水、電気、ガス、インターネットを保証すること。
14.公的債務支払いを当面の間停止することは、パンデミック期間中に大衆的ニーズを満たすために、さまざまな国が必要とする有効な資金を動員することを可能にするに違いない。債務支払いの一時停止は、不当な部分を特定し、それを帳消しにするための市民参加による監査と結びつかなければならない。
15.難民に法的地位を与え、医療・社会保障サービスが利用できるようするとともに、難民の安全な入国のために国境を開放すること。
16.先住民、移民、黒人、女性、LGBTIQ、障害を持った人々に公共サービスを提供する際の差別と闘うためには、何世紀にもわたる構造的差別と闘う積極的行動のプログラム、およびあらゆる人のニーズを真に満たすサービスを作り上げるための本当の政策決定において、コミュニティとの協議や関与をすすめるプログラムが必要不可欠である。

もう一つの世界は急を要する


現在の危機を収束させるためには、それが人間の生命の基盤を危機に陥れるので、エコ社会主義的展望を持った反資本主義的政策が必要である。それは社会的ニーズに基礎を置き、労働者階級によって、労働者階級のために組織された、銀行や主要生産手段の公的所有をともなう社会が緊急に求められていることを示している。そして、この危機が示すのは、その緊急性が気候変動の原因にブレーキをかけること、「われわれの共同の故郷」を破壊し、生物多様性を減少させ、ウイルス性の深刻な呼吸器症候群のような現代のペストへの道を開いている環境破壊を食い止めることが必要であるということである。
新自由主義の最初の一〇年間において、「もう一つの世界は可能だ!」という熱望があり、さまざまな社会分野が「もう一つの世界は可能だ!」と言って一体となったのなら、今日において、われわれは団結して「もう一つの世界は必要であり、緊急である!」と言わなければならない。われわれは共同の国際主義的行動を必要としているが、それは生命が利益よりも価値がある世界に向けた道筋をわれわれに指し示すものでなければならない。そこでは自然が商品であるのをやめるのだ。現在の危機は明らかに、資本主義生産のかなりの部分が純粋に略奪的で、完全に余計なもので、無駄に使われるものであることを示している。
二〇〇〇年代はじめ、グローバル・ジャスティス運動は、社会運動や労働組合のメンバー何百万人を団結させ、そこに急進的左翼組織が参加していった。今日では、われわれは資本主義、気候変動、差別に反対して闘うための要求を提起しながら、そうした結集を作り上げる必要がある。この目標を追求する上で、さまざまな国において、あるいは国際的レベルで、いくつかのイニシアチブが生まれ始めている。第四インターナショナルの諸組織と活動家は、そのようなイニシアチブの成功に向けて努力を傾注するだろう。社会主義・反資本主義・革命をめざす諸組織と諸潮流が、地域レベルであれ、国際的レベルであれ、共同行動を調整し、論議し、確立することは緊急に必要なのである。
新型コロナウイルス以前のいわゆる通常の状態に戻ることは不可能だろう。未来の人間と地球を脅威にさらしてきたのは、資本主義的「常態」だったからである。社会的ニーズに基礎を置き、労働者階級によって、労働者階級のために組織された、銀行や主要生産手段を公的所有に移した新たな社会へと変革することは緊急の課題である。それが根本的な社会―エコロジー的転換の展望が必要な理由である。

週刊かけはし

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