決議「レズビアンとゲイの解放」めぐる討論から
第四インター15回世界大会
ピーター・ドラッカー、セルジオ・ビトリーノ
五年間の討論と運動の前進の上に
第四インターナショナル第十五回世界大会においてレズビアン/ゲイ解放に関する決議が全会一致で採択されたことは、ほぼ五年間にわたる作業の結果であり、インターナショナルのレズビアン/ゲイに関する作業の大きな前進を記すものであった。二時間の大会討論の中で、取り戻さなければならない失われた時間が多くあったことを自ら確認したが、同時に今後数年間に急速な前進を実現する大きな可能性があることも確認した。
このテーマが世界大会の議題に取り上げられたという事実自体が、明らかに一九九〇年代後半以降のいくつかの国々におけるレズビアン/ゲイ/バイセクシュアル/トランスジェンダー(LGBT)運動の高揚によるものであった。毎年のプライド・マーチの規模は、運動の急速な拡大を示している。パリ、ベルリン、ローマ、リオデジャネイロのような首都級都市においては今や毎年の行進に数十万が参加することが通例となっている。リオでは、数年前には数千人が行進するにすぎなかった。
大会討論においては、発言者たちは、国から国へと拡大しているLGBT組織のいくつかの側面について発言した。共同報告者のセルジオ・ビトリーノ(ポルトガル革命的社会党)は、種々のグローバリゼーションに関する運動のLGBT的次元の成長にとって第四インターナショナルの同志たちの介入が重要であることを強調した。
この次元は、今年のポルトアレグレにおける第三回世界社会フォーラムでだれにも実感できるものになった。フォーラムのLGBTスペースの入場者は数千人に上った。また、昨年十一月のフィレンツェの第一回ヨーロッパ社会フォーラムでも同様であった。米国、英国、フランスの同志たちは特にLGBT組織のイラク反戦運動について語った。ビトリーノはポルトガルのLGBT運動全体が戦争に反対して公然と姿を現したことを報告した。
ビトリーノの報告によれば、少なくとも一部の諸国では、法律改革を求めるロビー活動に重点を置いた何年かの後、LGBT運動にとって社会的問題が重要になり始めている。この過程は、一面ではLGBT運動をグローバルな正義の運動に関わらせることになっており、多くの場合、労働組合をはじめとする他の運動との結びつきをもたらし、他の運動がLGBT固有の要求を掲げる必要性をもたらしている。
ビトリーノはLGBT問題と新自由主義反対闘争の結びつきのいくつかの例を挙げた。「敵対者を脅かすために『同性愛タブー』に訴える原理主義者や極右勢力の『憎悪発言』に対する闘い、特にLGBTの人々に影響を与える人員削減に反対する闘い、制限的な移民法(LGBT移民は多くの場合二重のトラブルに直面する)に反対する闘い、従属国における治療薬の自由な入手を望まない製薬多国籍企業の超過利潤に反対するキャンペーン」。
また、討論の中で次のような例が挙げられた。ナチの強制収容所におけるゲイの人々の運命、南アフリカにおけるアパルトヘイト反対闘争へのLGBT運動の早期からの関与、イスラエルの平和運動におけるLGBT運動の存在、クロアチアやセルビアのウルトラ民族主義勢力に対するLGBTの抵抗、などである。
決議のもう一人の報告者であるオランダ社会主義労働者党のピーター・ドラッカーは、特にヨーロッパにおけるムスリム系のLGBT移民の間に組織が広がっていることを述べた。この現象は、会場からの発言者、たとえば英国からの参加者によって確認された。
ドラッカーは次のように述べた。「われわれはムスリムを悪魔のように表現することに抵抗する必要がある。ムスリムを悪魔のように見ることは、イスラムが女性やゲイに対して西欧的開化的な態度を取ることを拒否していることにもとづいて正当化される場合があるが、実際にはイスラム世界は同性エロチシズムを賛美する豊かな歴史を持っており、これに比べて西欧的開化的態度には大いに至らぬところがある。同時に、われわれは宗教的世俗的を問わず、ゲイに対するいかなる形の偏見に対してもいかなる妥協もすべきではない」。米国から参加したオブザーバーは、宗教的原理主義に対する闘いの重要性を強調した。
変革の主体概念の複数主義化
報告には、LGBT抑圧の根元に関する決議の核心的分析、女性への抑圧と解放に関するインターナショナルの一九七九年決議にさかのぼる分析の要約が含まれている。いくつかの支部において、大会前の討論の中で、決議の分析では資本主義的家族の中心的役割が強調されすぎではないか、また最近数十年間に原案が認識するほど家族が大きく変化したかどうかについて、疑問が提起されていた。しかし、大会自体の討論では、これらの疑問が特に出されることはまったくなかった。反対に、たとえばウルグアイの代議員は、家父長制や家族に関する原案の分析を深める必要があると主張した。
フランスの代議員が指摘したように、この討論は、社会を変革する過程でだれが社会的主体になるのかに関するインターナショナルにおける広範な熟慮の一部である。彼女が述べたように、われわれはかつては社会主義革命の主体としての労働者階級という狭い概念を持っていたが、われわれはしだいに変革の主体をもっと多様で複数主義的なものとして考えるようになっている。
LGBT運動におけるわれわれの作業は、家父長制的資本主義社会についての第四インターナショナルの分析の進化を反映しているだけでなく、われわれの全体的な戦略的戦術的アプローチを反映している。ビトリーノによれば、われわれは、性的抑圧の社会的普遍的役割を服従と順応の練習として認識し、民衆の生活におけるその物質的変形と、革命家でさえ日常生活での押しつけに直面するともろいことを認識している。性的抑圧の基盤に対処しない構造的変革はあり得ないことを認識している。
このことは、これらの闘いに覆す力が潜在することを示しており、これらの運動にわれわれが参加することを論理的にする。革命家の仕事は、「運動の自立、自己組織化、固有の優先度を尊重しながら、その急進化、他の社会的運動との結びつきの発展、分析の開放性のために介入し、改革のキャンペーンを支持する必要があり、しかし規範化の圧力に抵抗し」、真の社会的変革を追及せず同性愛嫌悪の物質的根元を明らかにしない統合主義的テーゼに対して抵抗する必要がある。
つれあい関係の法的認知の要求
特にヨーロッパの運動においては(ヨーロッパに限るわけではないが)、同性のつれあい関係の法律的認知(同性の結婚を含む)の要求が動員の中心問題となってきた。大会における討論は、結婚を抑圧的家父長制的制度と見る社会主義者フェミニストにとって、この問題がいかに複雑になり得るかを反映したものになった。たとえば、オーストリアやドイツのわが支部とともに活動している一部のLGBT急進派は、この要求に反対し、この運動への参加を拒否している。ドラッカーは、決議のこの問題に関する「弁証法的過渡的」立場を擁護した。
ドラッカーは次のように発言した。「決議の立場は、LGBTの人々の当面の必要と要求から出発し、同性の結婚を要求する闘いが暴露している矛盾を明らかにし、これらの矛盾を深化させる複数の道を示すことである。たとえば、同性つれあい関係のあらゆる面での完全な同等性を要求すること、親子関係の法律における生物学的系統中心主義への挑戦、婚姻状態とは独立した普遍的個人的社会的権利を要求すること、などである。これらは完全に同等な同性結婚を要求することにより結婚制度に挑戦し掘り崩する闘いの道である」。
大会での討論は、子どもの問題が常にセクシュアリティと家族に関する討論における特に微妙な点であることを再び確認した。ある代議員は、彼自身が父であるが、メディアが子どもの性的虐待の犯人としてLGBTの人々をターゲットにする仕方に怒りを表明した。彼は、子どもの性的虐待の大多数は異性愛者によるものであり、家族内で起こっていることを指摘した。カタルーニャの若い代議員は、若いLGBTの人々への抑圧を、現代資本主義の特徴として強まっている若者とそのセクシュアリティの倒錯した搾取の文脈の中で見る必要がある、と発言した。
ビトリーノは、LGBTの若者の組織で提起されている固有の問題について、次のように語った。
「制約的なジェンダーの役割の強制と偏見、恥辱、逸脱の恐怖の学習は、若者を主要な標的にした性的抑圧の側面である。またこれに加えて、大部分の若い人々は性的解放の手段を欠いており、この傾向は多くの国での社会的手当てに対する攻撃によって強まっている。このことが家族への依存を強め、LGBTの若者が異性愛的家族から離れて生活する基本的前提条件をおびやかしている」。
若いLGBTの人々は、同性関係の歪曲されたイメージの影響を特に受ける。なぜなら、彼らはいまなお同性への欲望の苦痛に満ちた発見の過程にあり、歴史的記憶も積極的参考例も持たないからである。
何人かの発言者は、セクシュアリティのような個人的なことについて立ち上がって語ることが彼・彼女らにとって依然としていかに難しいかについて述べた。ある発言者は、決議自体が政治より個人的で私的な問題を取り上げ過ぎであると発言したが、他の圧倒的多数はこれに不同意であった。
デンマークの女性代議員は次のように発言した。自分のセクシュアリティについて語ることは困難をともなうが、それは政治的に重要なことである。若い英国の代議員が自分がバイセクシュアルであると表明し、左翼の中で公然化することの困難性について語り、この問題について比較的良い立場を取っているので英国支部にひきつけられたことを語ったとき、多くの人々はこの討論の要点であると感じた。
過去の蓄積、不十分性、そして未来
この討論は、性的抑圧と解放に関する第四インターナショナルにおける作業の始まりなのではない。左翼反対派はその最初から、スターリンの一九三四年のソ連邦における同性愛の再犯罪化に反対した記録を持つ。第四インターの一九七九年の女性の解放に関する決議の執筆者の一人であるペネロープ・ドゥガンは、一九七九年の決議もゲイの権利を防衛し、レズビアンの闘いについて特に述べていることを想起させた。第四インターの一九九五年世界大会も、今日のわが潮流の自己規定にとって、また将来の広範な大衆的インターナショナルの建設にとって基礎となる十六項目の一つとして、レズビアン/ゲイ解放を掲げた。
一九九八年、二〇〇〇年および二〇〇二年に開催されたLGBT問題に関する三回の国際セミナーは、インターナショナル内の理解を深め協調を進めることを可能にするのに役立った。
一九九八年のセミナーで、この世界大会で採択された決議の起草の過程が開始され、この過程は電子メールの交換と、第四インター国際指導部内の討論およびその後のセミナーによって続けられた。最初から大会直前まで追及された目標は、第四インターのLGBT活動家の間での可能な限り広範な合意に到達することであった。この目標は明らかに達成された。これは、決議を大会会場に提出する前にすべての論争点に関して、起草委員会の中で妥協に到達したことによる。
いまなお多くの人々が語り、だれも否定しないことであるが、第四インターナショナルがレズビアン/ゲイ問題を取り上げるのが遅すぎた。ある代議員(彼女自身、ACT・UPの活動家である)は、AIDSに対する闘いや一九八〇年代初期からの生と死の問題は、わずか数年後にはわれわれにとって重要な問題になった、と述べた。
他の発言者は、依然として第四インター支部の中に厳然と存在している異性愛的規範について述べた。ビトリーノは次のように発言した。
「われわれはジェンダー関係の根本的な変革を追及し、異性愛的偏見がしだいに除去され、性的アイデンティティが変化し、性のカテゴリーが社会的編成にとって中心的でなくなるような社会を追求する。われわれはわが組織の日常生活の中で、この変化をいま開始したい。このことは、活動家の間の個人的関係のいわゆる私的領域、まさに同性愛嫌悪や性差別が複雑な形を取る領域を問題にすることを意味している」。
ビトリーノにとって、このことは、わが支部内部の偏見に反対することを意味するだけではない。この課題の特異性と重要性を理解し、それに従って行動することを意味する。すなわち、女性同志にとっては、政治的活動に必要な自己評価と自己確信が問題であり、それを支援する環境が不可欠であることを理解することである。
このことは、「結局、性よりもっと重要な問題がある」というメッセージを伝える多くの巧妙なやりかたに挑戦することを意味する。また、わが組織内でいずれかのメンバーのヘテロセクシュアリティまたはホモセクシュアリティを推定することは、ゲイの不可視性を推進することになったり、自己発見の過程にあるだれかを傷つけることになる可能性があることを理解することをも意味する。同時に、「LGBTの自己組織化の権利を認識することは、このテーマをLGBTの同志にゆだねることを意味しない」とビトリーノは語った。
結論は具体的であると同時に組織の下部から指導部まで横断的なものである必要がある。これはいまだほとんど生じていない。これらの障害にも関わらず、これらの社会的運動の構築と政治化においていくつかの第四インター支部の役割が重要であるとビトリーノは述べた。多くの他の諸国では、支部は既存のLGBT運動と関係を持っている(あるいは、持つ必要がある)。「われわれの活動家の一人一人が、LGBTの権利のためのキャンペーンに参加し、これらの問題を全般的課題と統合する用意をする必要がある」とビトリーノは締めくくった。
討論の中で、一つの困惑させる事実が明らかになった。フランス支部とポルトガル支部という、LGBT運動の中で恐らく最も強力でよく組織された仕事をしているヨーロッパの二つの第四インター支部が、全国的な大会前討論の中でレズビアン/ゲイ決議を取り上げさえしなかったことである。ドラッカーはまとめの中で、次のように述べた。
この大会の代議員選出の過程もまた、インターナショナルがこれからどれだけ進まなければならないかを示している。この決議の起草に大きな役割を果たした七、八人の半数は女性で、被支配国のメンバーであった。大会での報告は二人のヨーロッパ支部からの男性同志によって行われることになってしまったが、その理由は部分的には、女性および第三世界の同志は、代議員選出時に支部によって優先順位を与えられなかったためである。
実際、LGBTの活動に主要な重点を置き、その国のLGBT運動で重要な役割を果たした最初の第四インター支部は、一九七〇年代後半以降のメキシコの革命的労働者党であった。メキシコの大会代議員の一人は、当時からの古参メンバーであるが、大会に対してその歴史を想起させ、今日のメキシコにおけるLGBTの人々の状況について語った。しかし、当時に比べると、レズビアン/ゲイ解放に関する第四インターの組織と考え方がヨーロッパで大きく進んだ分だけ、バランスは大きく変化した。ウルグアイの組織はウルグアイの急進的LGBTグループとの討論を行っているが、ウルグアイの代議員は、将来インターナショナルがバランスを回復することを主張した。(「インターナショナルビューポイント」03年5月号)
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