第四インター第15回世界大会の成果と日本における挑戦課題2

ルラ政権参加をめぐる論争

 情勢討論の中で、重要な焦点の一つになったのは、昨年十月のブラジル大統領選でPTのルラが勝利したことの評価であった。とりわけPT社会主義的民主主義潮流(DS、第四インターナショナル・ブラジル支部)の同志ミゲル・ロセットが農業改革相として入閣したことについては賛否両論が闘わされた。
 大会では、ブラジル支部のジョアオ・マチャド・ボルヘス・ネトによるルラ勝利の歴史的意義とPT政権が抱える困難と矛盾に関する総括的文書(本紙4月21日号~5月19日号掲載)が提起された。
 同文書はカルドゾ前政権の新自由主義的経済政策を継承することを宣言し、経済閣僚や中央銀行総裁にブルジョア自由主義派を据えたルラ政権に対して、下からの大衆的な社会的動員を持続し、深めていくことの決定的重要性、とりわけ農業改革の分野でMST(土地なき農民の運動)の果たすべきイニシアティブについて強調するものであった。農業改革相に就任した同志ミゲル・ロセットはMSTの動員と結びつけた変革を宣言しているが、それを実行するための条件をどう拡大していくかがまさに問題なのである。
 これに対して、アメリカ、ドイツ、フランス、インドの代議員など十三人の連名で、次のような意見書が提出された。それは「第四インター勢力が大衆的な独立した労働者政党であるPTに参加して、その建設のために闘ってきた方針に反対するものではないが、ミゲル・ロセットの入閣は別問題である。ルラ政権はブルジョアジーとの連合政権であり、そうしたタイプの政権は労働者や抑圧された勤労民衆の焦眉の問題を解決することはできない。必要なのは独立した階級的動員であり、ルラ政権への幻想をかき立てる方針は誤りである」という趣旨であった。
 この問題については、必ずしも十三人の意見書に賛成でない各国の同志からも、ルラ政権が階級的対立をふくんだ政府であり、「政権からの撤退」に備える必要があるのではないか、という意見が数多く出された。とりわけ政府との関係でPTが独自の主張と役割を堅持しうるのか、そのために大衆的動員による圧力をどのように組織していくのか、ということが強調された。
 他方、すでにルラ政権がブルジョアジーの掌中の道具となっているかのような論議は誤りであり、政権の中でも進行する階級的闘いを下からの動員と結びつけて勝利に向かって推進していく以外の選択はない、ロセットの入閣はギリギリの選択であり、内閣からぬけるかどうかの「決断」は今後の闘いにかかっている、という反論も多く出された。
 ブラジルの同志ジョアオは、PT内外の左派の政治的連合と社会的動員、オルタナティブな政策路線の提示が決定的に重要であり、すでにそのための闘いが始まっていること、IMFを通じた新自由主義政策との対決において政権内での共存はありえない、というまとめを行った。

PT内で広がる分岐と対立

 おそらくルラPT政権に対する革命的左派の態度をめぐる論議は、第四インターナショナルにとっての今日の世界情勢へのアプローチの方法を最も凝縮的に表現するものであろう。
 一九八〇年に結成されたPTは、ブラジル労働者階級による軍事独裁反対のねばり強い闘いの産物であった。ブラジルの同志たちはその当初からPTの結成と建設に責任を持って関わり、PTは旧来のスターリニズムや社会民主主義とは異なる、開かれた、多元的で民主主義的な左翼政党として発展した。PTは労組だけではなく先住民族、農民、都市貧困層、女性、マイノリテイーの中に広範な民衆的基盤を作り上げた。
 PTはサンパウロ、ポルトアレグレなどの大都市の行政にも経験を積み、草の根からの社会的動員と公正で民主主義的な行政に向けた革新的実験を積み重ねた。PTはブラジルの資本家政府に対する唯一のオルタナティブとなった。そして新自由主義の諸矛盾の激化と、それに対決する反グローバリゼーション運動の高揚が、一九八九年以来のルラの四度目の挑戦を初の勝利に導いたのである。
 当初から存在していたPT内の分岐は、大統領選の中でより明確な形を取ることになった。その分岐は、もはや在野の社会主義政党内の左右の戦略・戦術方針をめぐる対立ではない。PTが政権党となることによって、PT党内の対立・分岐は階級対立を直接的に体現するものとならざるをえないだろう。
 反グローバリゼーション運動の発展とブッシュの戦争に対する反戦運動の国際的高揚にもかかわらず、そして「もう一つの世界」をめざす新しい社会運動の先端的意識の形成にもかかわらず、全体としての階級情勢は依然として「防衛的」段階に止まっている。資本の攻勢は、多くの抵抗にもかかわらず、持続している。近い将来に「革命的情勢」を期待することはできない。そうした状況の中で権力の座についた左翼政権は所与の世界的な新自由主義の枠組みにしばられざるをえない。ましてルラ政権を支えるPTの議会的基盤は、下院の第一党とはいえ、五百十三議席中九十一議席に過ぎない(上院では第二党)。
 討論の中で示されたように、PT左派にとっての問題は、政権から独立した社会運動の下からの持続的組織化を通じて右派への圧力を強め、その中で新自由主義への抵抗を「反資本主義的」なオルタナティブへと結晶化させていく意識的努力なのである。
 ルラ政権の勝利は「民衆の勝利」である。そのことをはっきりと確認した上で、ルラ政権が取る政策にいささかの「幻想」をも組織することなく、「民衆の勝利」を次の段階を準備するものとして打ち固め、ラテンアメリカ規模での闘いの発展につなげていこうとすること――それはブラジルの同志たちの闘いのみによっては不可能であり、まさしくインターナショナル全体の任務である。
 ロセット入閣をめぐる討論は、賛否いずれの側からも原則主義的な「人民戦線」批判の延長上ではない、新しい情勢の評価をベースにした戦略・戦術方針をめぐる現実的論議として展開された。
 ルラ政権の分解は早晩不可避であろう。そうした中で、社会主義をめざす革命的左派の取るべき選択をめぐるよりいっそう深刻な論議が展開されることになるだろう。それはインターナショナルにとっての避けて通れない試練であるとともに、貴重な実践的経験なのである。そうした観点から国際的連帯活動に意識を集中していく必要がある。

        (つづく)(平井純一)

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